1999,02,14
渚の英雄伝説 −第59話−
これまでのあらすじ
同盟領深く侵攻した帝国軍は、ランテマリオ星域にて同盟軍と対峙した。
これ以上の侵入を許すことのできない同盟軍は背水の陣の覚悟で帝国軍を迎え撃つ。
対する帝国軍はカヲルが指揮する変幻自在の陣形で同盟軍を翻弄する。
「ふっ、これが僕のもっとも得意とする陣形、『両刀のヘビ』さ」
「それを言うなら『双頭のヘビ』ちゃうんかい」
「イヤな名前ね」
「不潔・・・」
あまりの禍々しい陣形に同盟軍は腰砕けとなり敗走。
この戦いに勝利した帝国軍はガンダルヴァ星系の惑星ウルヴァシーに軍事拠点を設け、同盟首都星ハイネセンを伺う。
「って何よ、上のは」
「知らない者はいないさ。これまでのあらすじ、最初にそう書いてあるじゃないか」
「この2ヶ月間ろくに更新もされてないのに、シナリオだけは進んでいるわけ?」
「なかなか画期的だと思うけど」
「信じられないわね。1年もほっといたら、知らない間に最終回じゃない」
「それなら、僕らも楽でいい」
「何のん気な事、言ってるのよ。これ以上アタシの出番が減るなんて絶対許さないんだから」
「まぁそれはそれとして、僕はこれからハイネセンに向かうよ。みんなは適当にそのへんの星系を攻略していてくれないか」
「エエんかい、そんな適当で」
「大丈夫さ。同盟軍で唯一警戒すべき某作戦部長は、いまだイゼルローンで宴会中とのことだからね」
「去年の暮れからぶっ通しかいな。このまま花見の季節まで続くんやろか?」
「ところでアンタ、またあの恥ずかしい名前の陣形を使うつもりなの」
「・・・不潔」
「いや、そのつもりはないよ」
そう言って軽く指をならすカヲル。その合図にシズシズと紙束とワインを持ってあらわれるケンスケ。
(帝国の双璧からおつきの少年まで格下げか?)
「今回はこの作戦で行く」
傾けられたグラスから紙束の上にこぼれるワインの滴。赤いシミが広がると、分厚い紙束が溶けるように消えて無くなる。
無くなる?
無言でカヲルをみつめる一同、しかしカヲルの方も予定外の事態に困惑していた。
「いやー、僕のコレクションから水に溶けるスパイメモ用紙を準備したんだけど・・・あんまりウけなかったみだいだね」
頭をかきながら言うケンスケ。 あふれる殺意を押さえることができないカヲルであった。
一方こちらは同盟軍。 首都星ハイネセンの近傍に、残された全兵力を集めて最後の決戦を挑もうとしている。
「帝国軍の1個艦隊がこちらに接近中です。MAGIの予測では、敵の目的地がハイネセンである可能性は99.9999999%」
妙なところが細かいリツコの報告。 敵接近の報にも鉄の仮面を崩さない男、ヤン・ゲンドウ。 先の敗戦で同盟軍の人材が底をついたため、防衛艦隊司令、さらには勢いで元帥にまで出世している。
「すべては私のシナリオ通りだ」
彼の赤いメガネの裏には、この戦いに勝利し同盟崩壊のピンチを救った救世主として人々の喝采を受ける自分の姿が浮かんでいる。
『その後 、軍から政界への華麗なる転身を果たし、無能な政治家どもを放逐し、愚民どもの望みのまま一手に権力を掌握するのも悪くない。そ れとも超法規的特務機関を創設し、そこの総司令となる道をすすむべきか?』
「時空震探知、敵艦隊接近!距離、64光秒」
「かまわん、ぎりぎりまでひきつけろ」
やはり独裁者への道を選んだ男の唇がわずかに歪んだ。
惑星ハイネセンを背後に展開する同盟艦隊、そこにこめられたのは決死の覚悟か。それに対し、帝国軍は正面からゆくっりと距離をつ める。
「思ったより数がいるわね。アタシたちと同じくらいかしら」
「わずかに向こうの方が多そうだね。よくもあれだけかき集めたものだ」
「烏合の衆ってこと?」
「まともに相手をする必要はないってことさ」
「敵旗艦、ミサイルを発射しました」
「若いな、間合いが遠い」
シブく決めたつもりのゲンドウであるが、幸いにもそれを耳にしたのは隣に立つ冬月だけであった。何も命令を出さない艦隊司令に代 わり迎撃の指示を出すのに忙しい冬月は、あえて何も言わない。
「パターン青!敵ミサイルにATフィールドの発生を確認」
迎撃ミサイルをものとものせず、ヘロヘロと接近する敵のミサイル(実はサハクィエル内蔵型)。 わずか1発のミサイルの接近を緊張とともに見つめる事しかできない同盟艦隊。 しかし、ミサイルの軌道はどの艦とも交差することなく艦隊の間をすり抜けていった。
「ふっ、どこをねらっている」
低くゲンドウがつぶやいた直後、スクリーンに映る惑星ハイネセンの一角にまばゆい閃光が走り、巨大なキノコ雲が浮かびあがった。
「ゲンドウ・・・艦隊の布陣だが、ちょっと惑星に近すぎはしないか?」
「冬月先生、私もそう言おうとしていたところですよ」
同盟政府から停戦命令が出たのはその直後の出来事である。