1998,11,14


渚の英雄伝説 −第56話−

フェザーン占領


 

フェザーンを脱出しハイネセンへと向かうシャトルの中は、何やらただならぬ緊張感が支配していた。
原因は部屋割り。シャトルに組み込まれた個室ユニットは3つ、乗員は4人。

「私、1人じゃないと眠れないから絶対に個室ね」

早々とそう宣言して高みの見物を決め込むマナ。

「・・・あの、えっと、じゃあ・・僕も・・・」

シンジがそう言った瞬間、氷のような2対の視線が突き刺さる。

「綾波さんはお客さんですから、パイロットの私と一緒の部屋なんて失礼なマネはできません」

底光りするメガネがなかなか迫力のマユミ。お客さん扱いすることで、さりげなくレイが員数外である事を強調する。

「そう、あなたはパイロットなの・・・なら私は碇君と同じね」

確かにシンジも船客である。マユミの言質をとって、船客は船客同士という理論をふりかざすレイ。

「・・・あの、2人とも・・・仲良き事は美しきかな・・・なんちゃって・・」

シンジの言葉は睨み合う2人に何の感銘も与える事はなかった。

ここでレイが実力行使に出ればあっさりカタがつきそうでもあるが、マユミにだってコアはある。おとなしくヤられてばかりもいないであろう。その実力は未だ測りがたい。何より船内でそんな事態になってはシャトルがもたない。船の安全に責任のあるマナは打開策を提案する。

「シンジ君は、どっちがいいの?」

マナの直球ド真ん中。それまで睨み合っていた2人の視線が、ブンという擬音つきでシンジに注がれる。

「あはは・・・」

愛想笑いを浮かべてみるが、2人の表情は厳しい。

 

緊迫した船内から離れること数光日、惑星フェザーンでは。

「うう、えぅっぐ、置いて行かれちゃったよー」

帝国が攻めてくるため、あわてて荷造りなどしているユイであった。

 

”一部の例外”はあったものの、帝国によるフェザーン占領はつつがなく終了した。接収したホテルを臨時の元帥府として、その一室にフェザーン方面侵攻軍の提督達が集まっている。
なお、メガネの彼はシナリオ通りイゼルローン方面へ行っている為、ここでは登場の機会がない。まっ、どうでもいいか。
部屋の正面の壁に設置されたスクリーンに古風なスライドによる映像が映し出されている。先ほど述べた”一部の例外”について、ヒカリのナレーションにより解説が行われている。

カシャ

艦砲の着弾によるものと見られる大きなクレーターをとらえた映像。建物の残骸らしき影がかろうじて確認できる。

「11月7日午後3時58分15秒、本隊より先行した総旗艦ブリュンヒルトは目標甲(シンジ)および乙(レイ)と接触」

  「総旗艦が先行してどないするっちゅーんや」(トウジ談)

カシャ

「午後4時03分、目標乙の攻撃によりブリュンヒルト大破」

黒煙をあげて墜ちていくブリュンヒルトを間近からとらえた映像。

  「ぶざまね」(アスカ談)

カシャ

「同05分、目標甲、および乙はフェザーンを脱出。同盟領内へ向かったものと思われます」

ピンクのシャトルが長い噴煙を引いて宇宙(”そら”)をめざし駆け上がる映像。

 

「アンタ、何しに行ったの?」

「いや、久しぶりにシンジ君の顔が見たくなったから、ちょっと挨拶に・・・」

「それで総旗艦を沈めてどーするのよ!」

ゲシッ

アスカのハイキックがカヲルの後頭部を見事にとらえた。

 

 

「ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ、ダーン」

大声で叫びながらモデルガンを抱えて走る。かと思えば、いきなりサッと物陰に背中を張りつけ、あたりの様子をうかがってから再び走り出す。

「ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ、ダーン」

様子をうかがう意味はない。

走っているのはメガネの少年ではない、ユイである。1人フェザーンに取り残されてしまい、自暴自棄になったわけではない。地上戦の訓練をしているのともチョット違う。ここは宙港の周辺部、ユイはどこかの貨物船に密航してフェザーンを脱出するつもりなのだ。

「!」

彼女の視界に帝国軍の軍服を着た兵士が2人。躊躇無くモデルガンを向けるユイ。

カタカタカタカタ

軽い連射音とともに吐き出されるWA6m/mBB弾。いきなりの発砲にも2人の兵士は機敏な反応を見せ、ハデにヤられた演技をしてくれる。

ここの所、毎日このあたりに出没しBB弾をばらまくユイ。お調子者の兵士がつき合って死んだフリなどしてくれるものだから、ついつい密航の目的を忘れ戦争ごっこに夢中になり、最後はチョコレートなどもらって帰る日が続いてしまった。今ではすっかり帝国兵の人気者である。

「西ゲート突破」

まんまと宙港敷地内への侵入を果たしたものの、地上作業員の事務室でお茶とケーキに足止めされ、すっかりなごんだ所を正面ゲートまで地上車で送られてしまった。

「・・・作戦、失敗」

トボトボと宙港を後にしようとしたユイの目の前に、黒塗りの地上車が止まった。中から降りた1組の男女、その女性の方が、ユイを見るなりいきなり抱きしめた。

「きゃー、なんてカワイイのかしら。お嬢ちゃん、お名前は?」

「・・・ユイ」

「あら、偶然ね。私もユイって言うのよ」

ニッコリと微笑む女性、その顔に見とれてしまうユイ。大きいのも小さいのも、どっちもかなりナルシスである。

「どうしたんだね、ユイ。おや、君は・・・確か、ユイ君ではないか」

ややこしいぞ冬月。

「あっ、じーさん」

「ねぇ、あなた。この子、うちの子にできないかしら?」

ムチャを言うユイさん。しかし、ここで冬月補完計画発動。彼はユイと名の付くものが好きであった。

「問題ないぞ、すべてはシナリオ通りだ」

「うふふ、さぁ、いらっしゃい。私、本当は女の子が欲しかったのよー」

シンジが聞いたら自我崩壊を起こしそうな言葉をのたまいユイを抱き上げるユイさん。どこから見ても親子である。

『・・・ものすごく、お母さんって感じだ・・・』

ユイの方もユイさんにしがみつく。今後はシャルロットとして頑張ってくれユイ。

 

一方、あれからシャトルの中はどうなったかと言うと・・・なんとか部屋割りが決まっていた。

「ひどいよー、ここってエアロックじゃないかー!」

いつまでたってもどっちも選ぼうとしないシンジに業を煮やした3人により、ここに放り込まれたシンジである。外に放り出されなかっただけ幸せだと思わなきゃ。

 



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