1998,08,28
渚の英雄伝説 −第48話−
−救国軍事会議−
ゲンドウの艦隊が首飾りに次々と破壊されていく映像を恍惚の表情で見つめるナオコ。
「そこよ!やっておしまい!!」
セリフが完全に悪役である。
しかし次の瞬間、恍惚は驚愕という文字に取って代わる。モニターの中の出来事が信じられない。
「・・・首飾りが、全滅しました」
オペレーター(なぜかロン毛)の報告が、彼女に事実を突きつける。
「嘘よ、無敵なはずの首飾りが、全滅するだなんて・・・」
首飾りの性能に絶対の自信を持っていたナオコ。カタログ通りの性能を見せれば、たかが1個艦隊の戦力におくれをとるハズがない。事実、つい先ほどまでは勝っていたではないか。
「・・・何も知らないのね、あなた」
帝国からやって来てからというもの、ビールをかっ喰らうだけの存在だったミサトが初めてまともなセリフを口にした。やおら職業意識に目覚めたとでも言うのか。いや、おそらくはビールが切れただけのことであろう。
「この役立たずの酔っぱらい!今更出てきて何を言ってるのよ!!」
「ハードウェアに頼りすぎなのよ、あなたは。しかも、自分が何を頼りにしていたのかすらわかっていない」
「・・・何がいいたいの」
「アレはフェザーンから買ったモノよ。売りつけたのは誰だと思ってるの」
ミサトの言葉の意味を理解したナオコ。
バーサンはシツコイ
次の瞬間、
バーサンは用済み
瞳から理性が消えた。
「これも全部あんたのせいね・・・また、あんたのせい・・・あんたなんか、あんたなんか」
ギリギリと首を絞める両腕に力がこもる。ナオコの瞳に映っているモノは、うすら笑いを浮かべた赤い瞳の少女。それはナオコの心がもたらした幻影。狂気が欲した生け贄の姿。
暗い通路を走る人影が二つ。
「危ないところでしたね、葛城さん」
「まったくよー。あのバーサン、いきなり人の首を絞めにクるんだもの。とっさに近くにいたオペレーターを身代わりにして逃げて来ちゃったけど、彼、大丈夫かしら?」
「・・・スマン、青葉」
二人が後にした部屋からは、低いナオコのつぶやきが聞こえていた。
「あんたが死んでも替わりはいるのよ」
「迂闊に近くにいると何をされるかわからない・・・葛城さんらしいですね」
「誉めてくれても何も出ないわよん」
「・・・これから、どうしますか?」
「そうねー、ビールが飲めるとこ見つけなきゃねー。でもハイネセンのビールも飲み飽きたしー」
「イゼルローンですね」
「そうなるわねん。ゴメンね、つき合わせちゃって」
「いいですよ、あなたと一緒なら」
加持もいるけどな。
救国軍事会議のクーデターは失敗に終わった。大きな混乱の後に残されたものは、もとの生活に戻るための煩雑な作業である。軍の後始末、同盟憲章の秩序回復、マスコミへの対応、数え上げればキリがない。その全てがヤン・ゲンドウのもとへと押し寄せてくる。故に彼は多忙を極めていた。
「拘束されていた政府要人の解放は、予定通りほぼ終了しました。また寸断されていた通信網、交通網の整備はMAGIにより順調に復旧されています」
副官であるリツコの報告。
「早かったな」
ゲンドウの返答は短い。
「ハイ。MAGIを有効に使うことのできるオペレーターが1人、見つかりましたから」
「そうか」
いつものポーズでそれだけつぶやくゲンドウ。部屋に一時の静寂が満ちる。
「・・・ところで、ナオコ君はどうなったかね」
ゲンドウにしては珍しく、その声には若干の不安が含まれていた。
「加持君たちがクーデター軍の本部に踏み込んだ時には、既に誰もいなかったそうです」
「逃げられたか」
「おそらく」
「まあいい、あとは出張中の冬月がうまくやってくれる」
不安は残る、しかし、今はそれでいい。何故いいのかと聞かれても少々こまるが。
「あと、フェザーンに疎開中の大した男じゃない国家元首からコレが」
リツコは1通の命令書を差し出す。
『ユリアン・シンジ軍曹を少尉に昇進のうえ、フェザーン駐在武官に任命する』
「ふん、もの好きな命令を下すヤツがいるものだ」
スパーンと認可の判を押した命令書を処理済みの箱に放り込む。
「よろしいのですか?」
あまりにも簡単に処理する様子を見て、リツコが心配そうに声をかける。
「構わん。シナリオは死海文書の記述通り進行している。これで一気に4巻だ」
「飛ばされたシナリオ、1つどころじゃないわね」
同盟評議会ビルの最上階、そこには委員会と呼称される秘密組織が存在する。秘密組織の為、誰もその存在を知らない。今ひとつ存在意義のよくわからない組織である。
「フェザーンへの召還か。あまりに唐突だね」(SEELE05)
「災いはいつも突然に訪れるっちゅーわけや」(SELLE04)
「幸いとも言えるわ、やっとこれで私たちの出番ってことよね」(SEELE02)
「そいつはまだわからないよ。シナリオは歪められてしまったからね」(SEELE05)
「フェザーンの暴走。そんなもん、はなから予想できたことやないか」(SEELE04)
「そもそも、あの髭オヤジがヤンってのが間違いなのよねー」(SEELE02)
「でも、あの人でなかったら、ああもヘッポコに計画は遂行できなかった」(SELLE05)
「それは認めてあげるけど」(SEELE02)
「どっかの赤毛女がやっても大差あらへんとちゃうか?」(SEELE04)
「なんですってー!このアタシのどこがヘッポコだって言うのよ」(SEELE02)
「自分からそー言うとことかやな・・・」(SEELE04)
一気に険悪な雰囲気に包まれる委員会、しかし・・・
「いい加減にしなさーい!!」(SEELE00)
「イ、イインチョ・・・」(SEELE04)
委員長の介入により事態は沈静化する。なお、この委員会が歴史の表舞台に登場することはない。