1998,08,15


渚の英雄伝説 −第47話−

心のカタチ人のカタチ


 

12個の巨大な氷の塊が宇宙空間を進んでいく。その内部に宇宙空間航行用エンジンを搭載した氷塊は、目標到達までに光速の40%まで加速される。

「本作戦は西暦2000年に地球で起きたというセカンドインパクトの故事にならった」

ゲンドウのメガネが妖しく光る。

「接触まであと20秒です」

ブリッジの中を静かに流れるオペレーターの声。ここまで作戦は順調に推移している。しかし・・・

「目標内部に高エネルギー反応!」

鋭くあがる警告の声。

「ふっ、無駄な事を」

アゴの前で組まれた手の中で、ゲンドウの唇が歪む。
ATフィールドが無敵のバリヤでないことは、ヤシマ作戦が証明している。質量10億トンの氷塊が光速の40%のスピードで衝突する。その衝撃はたぶんセカンドインパクトに匹敵する。(と思われる、物理にうとい作者にはよくわからないけど)ラミエルのATフィールドや荷粒子砲をもってしても、この攻撃を阻止することは不可能である。

「接触まであと5秒、4、3」

ヒョイ

「あ!」

「何事かね!」

突然中断された秒読みに、すかさず入る冬月のツッコミ。

「・・・目標、氷塊をヨけました・・・ヒョイって」

虚空に消える12個の氷塊。何事もなかったかのように青く輝くラミエル×12。
首飾りの殲滅と同時に殺到する制圧艦隊。そんな演出を考えていた為、艦隊はすでにハイネセンを包囲する形で遷移している。
周円部を加速、収束していくラミエル。ブリッジを重苦しい沈黙が支配した。

 

 

山、重い山、時間をかけて変わるもの
空、青い空、目に見えないもの、目に見えるもの

ユイの目の前でアッチの世界にイってしまっているレイ。

「あ〜あ、この大事な時に・・・」

こめかみに手をあてながらつぶやくユイ。
しかし、レイにとってこれは大切な儀式。遙かな空間を隔てたシンジを感じる至福の一時。
自分が自分であるために・・・

これは誰、これは私
私は自分、この物体が自分
でも、私が私でない感じ、とても変
私がわからなくなる
私の形が消えていく
誰かいるの、碇君のそばに
私でない人を感じる・・・

レイの脳裏に浮かぶ少女のイメージ、茶色の髪、ショートカット、テヘヘと舌を出して笑う顔

この人知ってる、バグダッシュ・マナ・ポプラン中尉

次に浮かぶイメージ、黒い髪、ロングヘア、口もとのホクロ

この人たぶん、山岸マユミ・コーネフ中尉

そして浮かぶシンジのイメージ、両サイドにしっかりとマナとマユミが張り付いている

・・・ブチ

 

 

「あの人を連れてきて」

現世に復帰したレイが鋭い言葉を発する。

「あの人って・・・まさか、まだダメだよ、早すぎるもの」

懸命にレイを押しとどめようとするユイ。

「・・・あの人を連れてきて」

しかし、レイの言葉が変わる気配はない。

「シナリオ、ひとつ先に進めちゃうの?」

コクンとうなずくレイ。

「えー!せっかくガギちゃんも準備したのに・・・・」

ガイエスブルグ要塞を飲み込んだガギエルがイゼルローン要塞に侵攻するという次のシナリオ『羽ばたくガギエ』は、レイの都合により却下された。まあ、しょうがない。

「あの人を連れてきて」

「・・・うん」

しぶしぶとユイが部屋を後にする。数分後、戻ってきたユイは1人の男を連れていた。

「これはこれは、ご高名な綾波レイ・ルビンスキー閣下。今回の争乱に際して数々の援助をいただき、私こと自由惑星同盟最高評議会議長、シロウ時田・トリューニヒト、感謝の言葉もございません」

クーデター勃発の際、時田議長の身柄が拘束されなかったのは、フェザーンの手引きによるものであった。

「しかし、それもヤン・ゲンドウ提督の活躍により早期に決着がつきそうだとの事ですが・・・何か?」

レイは黙ってスクリーンを指さす。そこには「首飾り」に戦いを挑むゲンドウの艦隊が映し出されていた。鉄壁のATフィールドと容赦のない荷粒子砲の攻撃は、艦隊を次々と宇宙の塵へと変えていく。

あんぐりと口を開いて固まる時田。

「ラミちゃん、すごーい」

小さく口を開いてラミエルの活躍に驚嘆するユイ。その声にはっと我にかえった時田。

「そんな、あの首飾りはフェザーンから買ったもの、何か方法はないのですか」

このまま救国軍事会議が存続すれば、自由惑星同盟最高評議会議長の肩書きなど意味がない。

「・・・全てを白紙に戻すキーワード」

ポツリとレイがつぶやく。

「そんなものが、あるならそれを教えて下さい」

レイににじり寄る時田。黙って見返すレイ。

じー 

じー

じー

「・・・あの、もちろん私にできる事があれば、可能な限りのお力添えは惜しみませんが・・・」

時田の言葉を待っていたかのように、スっとレイは1枚の紙片を手渡す。

「これは・・・あの、これだけでよろしいのですか?」

コクン

「わかりました、早速手配しましょう」

「そう」

一瞬、赤い瞳が満足そうに輝いた。
コンソールにのびた白い指が踊るようにひらめく。
全てを無に帰す魔法の言葉が綴られる。

 

『あなた誰?』

 

イメージ映像 (エヴァオープニングの不思議な光)

ドクン (それに重なるように響く心臓の鼓動SE)

 

「首飾りが消滅。12個の衛星が互いを撃ち落としました」

ヒューベリオンの艦橋にオペレーターの声が響く。

「シトが互いの存在を否定した・・・まさか、自我に目覚めたとでも言うの」

かなり強引なリツコの推論。

「そんな安易な展開、納得できません」

オペレーターのくせに、リツコにつっこむか。

「あなた・・・ひょっとしてマヤじゃない?」

リツコの言葉にビクリと身を震わせる女性オペレーターA。ネコの座布団を頭にかぶってイヤンイヤンと身をくねらせる。
帝国でシャフト技術大将のポストを用意していたのだが、シナリオ変更によりオペレーターAに格下げされたのは内緒の話だ。

 



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