1998,08,9


渚の英雄伝説 −第46話−

首飾り


 

ヒューベリオンの展望室、その中央で体育座りしている少年。

「ミサトさんもいない、アスカもいない、誰も僕を見てくれない」

窓いっぱいに広がる星々、宇宙の広大を感じる、自分の矮小を感じる。

「綾波には会えない、会う勇気がない」

マナのこと、多分バれてる。理屈じゃない、肌で感じる。

「可愛い子だったんだ、僕のことを好きだって言ってくれたんだ」

そんな事は言っていない。

「言ってたじゃないか、体全体でおもいっきり言ってたじゃないか。プレゼントだってもらったんだ!」

・・・・・

「ハハ、何を言ってんだ、僕は。フられたのに・・・」

乾いた笑いを浮かべたシンジ。フと、自分の右腕が無意識のうちにペンダントに延びていた事に気がつく。
突然こみ上げる感情の高ぶり。その勢いにまかせて、力まかせにペンダントを引きちぎる。

ビン

マナからもらった怪しいペンダント。その鎖は2トンの衝撃にも耐える強度を誇る。

「・・・・・」

首を押さえてうずくまるシンジ。大マジメに悲しみに浸っている時、人はこのような過ちを起こしがちである。
情けなくて涙が出てきた。救いといえば、こんな姿を誰にも見られなかったことだけ。さっきまで誰も僕を見てくれないと嘆いていたのに、今はそれがありがたい。

 

「・・・あの、だいじょうぶですか?」

心配そうに声をかけてきたのは、山岸マユミ・コーネフ中尉。

「・・・いつからいたの?」

彼女の問いかけを無視するシンジ。

「いつからって、私がここで星を見てたら、シンジさんが入ってきて・・・それでいきなりお話を始められて・・・」

ガックリとうなだれるシンジ。全部見られていた、かなり情けない。

「私、思うんです。私は顔も可愛くないし、性格は根暗ですし、恨み事は根に持つタイプで、パイロットをやっていなければ何の価値もない人間なんです。自分に自信が無いから、いつも他人に心を閉ざしていました」

ゆっくりと語り始めるマユミ。

「イヤだと思っていました。他人の心を覗くのも、覗かれるのも。でも、さっきシンジさんがここに表れて、いきなり私に悩み事を相談されて、まさか、こんな私にうちあけ話をしてくれる人がいるなんて、信じられませんでした」

アレ?

「シンジさんて、なんだか私と似てますね」

恥ずかしげにつぶやく少女、顔が赤い。いわゆるアレであろうか。

「えーと・・・・結果オーライかな?」

ユリアン・シンジ、14歳。来る者を拒むなどということはできない男である。
体育座りをやめて立ち上がり、マユミに向かって優しく微笑む。チラっとその微笑みを見上げたマユミは、先ほどより顔を赤くして直ぐにうつむいてしまった。満天の星明かりの下、二人の距離が縮まる。

 

「シンジく〜ん!」

新たな登場人物が二人の世界に乱入してきた。せっかく縮んだマユミとの距離が再び元にもどってしまう。

「あれれ、お邪魔だった?」

迷惑な声の持ち主はマナ。シンジの背中からヒョコっと顔を出し、マユミの姿を確認するとニッコリと微笑む。

「別に、そんなんじゃないよ」

背中にマユミをかばうようにマナに向き直るシンジ。

「あ〜、かばったりしちゃって、なんだか怪しいんだー。うらやましいな〜」

 

『からかってるんだ、僕のこと。ずっとそうだったじゃないか、何を勘違いしてたんだ僕は』

 

「だったら、あのムサシとかいうヤツにかばってもらえばいいだろ!」

自分でも驚くほど、大きな声が出た。背中のマユミがビクリと震えるのがわかる。そんな事には一向に動じることの無いマナは、ペロリと舌を見せて笑いながらこう言った。

「あー、ムサシ君ね。・・・テヘ、死んじゃった」

 

・・・・・・・・・・・・・・沈黙・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・あの、何があったの?」

「うん、1度助けてもらったんだけど、その後出撃して、彼は帰ってきませんでした。今頃は宇宙をわたる一陣のプラズマにでもなってるのかなー」

窓の外の星々を振り仰ぐマナ、表情には微塵のカゲリも無い。

『僕はなんてイヤな人間なんだ。マナの事をほんの少しでも疑ったりして。いつだってマナは本気じゃないか、本気で僕を見てくれているじゃないか。僕はここにいてもいいんだ!』

シンジは補完された。これから始まるマナとマユミ、バラ色の二股生活に心が躍る。
それにしても哀れムサシ。いや、作者もよく知らないヤツだし。

 

私、なぜここにいるの

何のために、誰のために・・・

 

「クーデター軍は唯一の艦隊戦力を失い、反乱鎮圧は時間の問題となりました」

ユイの報告は終わった。

「そう・・・でもまだ、あの人達には切り札がある」

レイが見つめるモニターには、同盟首都星ハイネセンの映像。その衛星軌道上には、12個の攻撃衛星が配置されている。「首飾り」と呼称される、エリア内に侵攻してきた敵を自動排除する無敵の攻撃衛星。その外観は、青く輝く正8面体だったりする。

「ラミちゃんがあんなにたくさん・・・サキちゃん、シャムちゃんの次はラミちゃんか。でもいつの間に?」

「・・・私が売ったもの」

「ラミちゃん、売っちゃったんだ・・・ドナドナって感じがする」

 

 

「首飾りか、また厄介なものを。どうするね、ゲンドウ」

「赤木博士」

「はい」

ゲンドウの言葉に応えて、リツコが進み出る。

「目標に対し12個の氷の塊を光速近くにまで加速、その運動エネルギーにより目標を破壊します」

「シナリオ通りだな・・・」

「ああ」

「少しは捻らないのか」

「今はそれでいい」

「レイの事はどうするね」

「すべてのシナリオはリンクしている。問題ない」

『レイにこだわり過ぎだな』

とりあえず、次を見ていろ!

 



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