1998,07,24
渚の英雄伝説 −第44話−
−ヒューベリオン−
「よお、シンジ君」
「あ、加持さん。こんな所でどーしたんですか?」
ここは艦載機の格納庫。マナが乗ってきたシャトルもここに置いてあったりする。
「それはこっちのセリフだよ。シンジ君こそ、こんな所で何をしているのかな」
加持の視線に、顔を赤くしうつむくシンジ。
別にヤヲイが入っているわけではない。『マナを探している』と素直に言えないだけである。
無意識のうちに、首にかけられたペンダントに手が伸びる。
「彼女からのプレゼントかい」
「彼女だなんて、そんなんじゃないです・・・・バグダッシュ・マナちゃんて言うんです。ちょっと怪しいけど、色々と僕に優しくしてくれるんです」
「その娘のコトが好きかい」
「・・・なんか、イイかなって」
ブチッ
(何かが切れるような音がフェザーンの方から聞こえた気がする)
「なんだか今、ものすごい殺気を感じたような・・・・」
「シンジ君、彼女というのは遙か彼方の女と書く。命は、大切にな」
ポンとシンジの肩を叩いて格納庫の奥へと去っていく加持。
これ以上進む事は危険であると本能で察知したシンジは、クルリと回れ右をし一目散にその場を後にした。
カチャ、カチャ、カチャ
ポツポツとキーボードを叩く音。眉間に立て皺をつくってモニターを凝視するマナ。
ピー
高らかに響くエラー音。
「うー、わけわかんないよー」
MAGIから航路データーを取り出そうと悪戦苦闘しているが、なかなかうまくいかないようである。しばらく頭を抱えた後、諦めたかのようにヒラヒラと手をふると、端末に携帯電話を接続する。
ピッ、ピッ、ピッ
こんな時の為の秘密の番号。あとは結果を眺めるだけ。
「おー、速い速い、さすがはナオコさん。オリジナルは違うわね」
高速にスクロールしていく画面を無邪気に喜んで眺めるマナ。
背後に近づく加持の気配に気がつかない。
−首都星ハイネセン−
「ヤン・ゲンドウは救国軍事会議へ敵対する意志を示し、すでにイゼルローンを後にしたとのことです」
メガネの報告に紫色の唇が歪んだ。
「その件はこちらでも確認したわ。戦いは望む所よ・・・ルグランジュ提督!」
・・・・・・・・・・・・反応なし・・・・・・・・・・・・
「おい、お前のことだよ」
メガネが隣のロン毛を軽く肘でこづく。
「は、ハイ!」(提督・・・俺が提督?)
「第11艦隊を率いて、イゼルローンから出撃したゲンドウの艦隊を殲滅しなさい!」
「了解しました。微力を尽くしまス!」
しゃちほこ張って敬礼するロン毛。(俺って、提督だったのか)
−ヒューベリオン司令官室−
後ろ手に手錠をかけられたマナがゲンドウの前に連れてこられる。(もちろん手錠は3連)
雰囲気を出すためか、司令官室の照明は赤。
「MAGIの私的占有、機密情報の漏洩、私に対する馴れ馴れしい態度。これらはすべて犯罪行為だ。何か言いたいことはあるか」
サングラスの奥から射るような視線がマナに向けられる。
「うー、うー!」
連行されて来てからも言いたいことを言っていたマナ。あまりにうるさいので口をガムテープでふさがれている。
「MAGIへの侵入は極刑に値します。技術部としては、B型装備での宇宙遊泳を提案します」
ここで言うB型装備とは宇宙服無しである。なかなか過激な提案をするリツコ、メガネの光具合がアブナイ。
彼女の怒りはマナにというよりも、まんまとMAGIへの侵入に成功したナオコに向けられたものである。しかし、そのナオコがこの場にいない以上、行き場のない怒りは当然マナへと矛先が向く。
イヤンイヤンと身をくねらせるマナ。
「ダメだよ、そんなの。・・・そんな事したらマナが死んじゃうじゃないか」
マナとリツコの間に割ってはいるシンジ。しっかり男の子している。
シンジの後ろ姿を見つめるマナの視線が熱い。気分はヒロイン、囚われのお姫様である。
「シンジ君、その娘はスパイよ、私たちの敵なの。ここにいて良い存在ではないの」
「そんな事・・・・そんな事を言ったら加持さんだってスパイじゃないか!」
司令官室に居合わせた、ゲンドウ、冬月、リツコ、マナの視線が加持に集まる。
「それは別のシナリオの話ですよ」
ひきつった加持の笑いには、いつもの余裕が感じられない。
「どうするね、ゲンドウ」
このままマナを処分しては、シンジとの間に確執を作ることになりかねない。
かと言って、すんなり許せばリツコの機嫌が悪くなることは目に見えている。
「ふっ、出撃」(ニヤリ)
「出撃?」(リツコ) 「もごもご?」(マナ)
「その娘はパイロットあがりという話ではないか。ならば、自分の罪を償うチャンスをやろう」
いつものポーズで微動だにしないゲンドウ。
「戦場に出て役に立って見せろ・・・そういうことですか」
ゲンドウの言葉を加持が補足する。
「ほお、お前さんにしてはめずらしくマトモな意見ではないか。さて、お嬢さん、どうするね」
あいかわらず何も考えていない冬月の合いの手。
コクコク
大きくうなずくマナ。
「バクダッシュ・マナ」改め「バクダッシュ・マナ・ポプラン」の誕生である。
・・・ああ、呆れないで