1998,07,03
渚の英雄伝説 −第42話−
同盟首都星ハイネセン。どこかの地下室なのだろうか、窓のない薄暗い部屋。そこで机をかこむ数人の人影。光量を抑えた照明のため出席者の顔もよくわからない。
「全員集まったようね」
議長格の女性の声。手元の資料を照らす灯りにより、紫色の唇がくっきりと闇に浮かぶ。
「また、こんな秘密結社まがいの役か・・・」
光線の具合でメガネだけが浮かび上がる男。
「今度はちゃんとに名前がある役かな・・・」
それだけが気がかりな男。
「そこ、ブツブツ言わないの。いい?これは正義の戦いなのよ。理想をなくした同盟を、私たちの手で浄化するの」
盛り上がる彼女をよそにコソコソと交わされる会話。
「なあ、知ってるか。どうやらこの戦い、復讐らしいぜ」
「復讐?いったい何の復讐なんだ」
「別れた男が、自分の娘とデキたんだとさ」
「そいつは同情するけど、それでクーデターまで起こそうってのか」
「やっぱりマッドな感じだよな」
「俺達に未来は無いって感じでもあるな」
深いため息とともに交わされる会話をよそに、彼女は話をすすめる。
「そこで、特別に問題になる人物が1人います。イゼルローン要塞のヤン・ゲンドウ」
その名を口にする時の彼女は、なにやら怨念めいたものを感じさせる。
「提案・・・」(おお、俺にもセリフが!)
ロン毛は感動にうち震えていた。
「あの人物にはスズをつけておくべきでしょう。もしも我々に不利益な行動をとるようなら殲滅すべきっス」
「・・・そうね、鳴らないスズに用はないわ。特別によく鳴るスズをつけてあげましょう」
そんな会話に参加しないで、部屋の片隅でビールをかっ喰らう女性。
「ウイ・ウイ・ウイ・ウイ・プッハー。く〜っ、この一杯の為なら悪魔とだって取引するわ」
たんなるヨッパライのようである。
イゼルローン要塞司令、ヤン・ゲンドウの目の前に、湯気のたつティーカップが置かれる。
おもむろにその液体を口に含むゲンドウ。
「何だ、これは」
「紅茶だよ。さっき自分で紅茶を入れろって言ったじゃないか」
「バカ者、私はコブ茶を入れろと言ったんだ。紅茶とコブ茶の区別もつかないのか」
「何だよ、自分だって飲むまでわからなかったくせに。ていうか、見ただけでわかるよ普通」
「自分のミスを棚に上げて、いい度胸だ、シンジ」
「本当に飲むまでわからなかったの?ひょっとして、紅茶を知らなかったとか・・・」
「何を言うか、それくらい知っている。それにしてもこの紅茶、何やら舌がしびれるような気がするが」
「そのお茶っ葉、リツコさんがくれたんだ」
「いかん!」
とっさに洗面所に駆け込むゲンドウ。リツコが部屋で怪しげなキノコを栽培している事実が、彼の脳裏をかすめる。
「何をあわててるんだろ」
シンジはポカンとした顔で洗面所の方向をながめていた。やがて、青い顔をしたゲンドウがあらわれる。
「危うい所だった・・・シンジ、人からもらったものを、むやみに私に飲ますんじゃない」
「何で?せっかくもらったのに」
「お前にもいずれわかる時が来る。今はそれでいい」
プシュ
「司令、おくつろぎのところ失礼します」
残念そうな表情でリツコがあらわれる。このタイミング、どこかでモニターしていたらしい。
「君もしつこいな。まだこの前の事を気にしていたのか」
「しつこいのは赤木家の家風ですから。それより緊急通信が入っています」
「何事かね」
「繰り返し、ここに宣言する。我々『救国軍事会議』は首都星のすべての機能の掌握に成功した。同盟憲章はその効力を失い、『救国軍事会議』の決定と意志がすべての法に優先する」
スクリーンでは、メガネのオールバックが淡々と声明文を読み上げている。
「それではここで、我々のリーダーを紹介する」
メガネがフレームアウトし、代わって紫色の唇紅をした女性があらわれる。
「・・・やっぱり、母さんなの・・・私がここにいるんだから、当然と言えば当然ね・・・まだあの人に未練があるのかしら?・・・それは、私も同じか・・・やっぱり親子ね、母さん」
1人芝居を続けるリツコ。現在の状況と自分のセリフに酔いしれている。
「どうするね」
そんなリツコを無視して冬月が問いかける。
「冬月、アレはシトだ。あの唇の色はシトに間違いない。即刻、殲滅する」
やけにやる気のゲンドウ。
「そうか・・・ユイ君には内緒だったな」
「そんなことはどうでもいい」
「いいのか?」
「いや、よくない・・・が、今はそんな事を問題にしている場合ではない」
「そうかね」
「ところで冬月、ユイはどうしている」
「貴様のいるイゼルローンになど、危なくて連れてこれるものか。実家に帰してある」
「ゼーレにか!」
「ユイ君の実家だ。何の問題もあるまい」
「そうだな、あそこならバーサンにも手は出せないか」
「そういう事だ」
「ならばシト殲滅が我々の急務だ。総員戦闘準備!」
同盟首都星にてクーデター勃発。このニュースは当然、フェザーンにも流れていた。
「以上がクーデター勃発にいたるまでの経緯です。帝国のローエングラム候が裏で糸を引いているのはあきらかです」
ルパート・ユイ・ケッセルリンクは、報告を終える。
あの人知ってる、あの唇
紫・・・紫色・・・エヴァ初号機・・・碇君・・・(ここで3分間トリップ)
紫色は大好き、でも紫の唇は嫌い
バーサンは用済み、バーサンは用済み、バーサンは用済み←ユイ
人のモノローグに入ってこないで
暇なんだもん、ずーっとトリップしちゃってるし←ユイ
精神汚染、するわよ
うっ・・・わかった、出ていく・・・←ユイ
・・・あの子もだんだん人間離れしてきたわね
いかん、染まっている。