1998,06,12


渚の英雄伝説 −第39話−

ネルフ誕生


 

人類の版図を2分する帝国と同盟。その中央にごくささやかな勢力が存在する。国交のない帝国と同盟の間に立ち、貿易で栄える商業の国。フェザーン自治領である。

「先のアスターテ会戦ですが、全体としては帝国の勝利に終わりました。しかし、同盟も総崩れというわけではなく、戦いの最後においては帝国に一矢をむくいています」

小さな体を精一杯のばしてコンソールを操作しながら戦闘の流れを解説するのはルパート・ユイ・ケッセルリンク。わずか5歳にして自治領主補佐官を務めている。ある意味立派だ。画面には刻々と変化するアスターテ会戦の模式図が描かれている。

「そう・・・無事だったのね」

そうつぶやいた少女、第6代フェザーン自治領主、綾波レイ・ルビンスキー。
どこからともなくフェザーンにあらわれた彼女。入れ替わるように謎の失踪を遂げる前領主。レイの登場と前領主の失踪事件との間に明確な因果関係の存在は証明されていない。
領主不在の混乱を巧みに利用し、あっという間に自治領主に就任してしまった彼女。一風変わった側近を引き連れ、何を考えてるの伺い知れない神秘的な容貌と、ちょっと変わった言動で並み居る政敵を煙に巻くその様子から、『フェザーンの女狐』と呼ばれているのはご愛敬である。

「はい、良かったですね」

ニコッと少女らしい笑みを浮かべるユイ。

「結果については問題ありません。でも・・・それは碇君の努力の成果で、私たちが何かをしたわけではないもの」

厳しい表情のレイ。

「あの・・・報告によれば、ユリアン・シンジのはずですが?」

「いいの、碇君で・・・とにかく、今後も情報収集には万全を期して」

「はい」

山のような資料を抱え、ふらふらとおぼつかない足取りで部屋を後にするユイ。一人残されたレイは窓の外を眺める。

・・・・碇君は、私が守るのも

(のも?モノローグを噛んでどうする)

部屋の中で、真っ赤になってうつむく少女。悔しいやら、悲しいやら、情けないやら、様々な感情が渦巻いているようだ。

 

 

−同盟首都星ハイネセン−

自由惑星同盟評議会ビル。その最上階には、通常『委員会』とだけ呼称される謎の組織が存在する。
ヤン・ゲンドウは、その委員会に呼び出されていた。

「アスターテの英雄をわざわざ呼び出したりしてスミマセンね」(魅惑のSEELE05)

ゲンドウと机を囲むモノリス。とうぜんSOUND ONLY。

「英雄ですか・・・下らんマスコミの戯言ですよ」

あごの前に手を組んで答えるゲンドウ。

「そう言う割にはアンタ、嬉しそうにTVや新聞に出まくってたじゃない」(SEELE02)

「情報操作の一環です。問題ありません」

「君の功績は認めるよ。でも、損害の大きさも無視できないね」(魅惑のSEELE05)

「無能な艦隊司令に、私の高度な作戦を提案しましたが、受け入れてもらえませんでした」

「その作戦案は読ませてもらったわ。敵の動きを正確に予測し、迅速に対応する優雅な作戦ね」(SEELE02)

「せやけど、あくまで作戦案やからな。ホンマのところ、アレが実行されとったらどないなってたんや?」(幻のSEELE04)

「完璧な勝利でした」

「ところで少将に昇進したそうだけど、それだけではまだ不満なのかい?」(魅惑のSEELE05)

「不満?何がですか」

「このイー計画(イゼルローン要塞攻略計画)や。アホらしゅーて、読む気にもなれへん」(幻のSEELE04)

「前の作戦案とは違って、恐ろしく稚拙な内容ね。とても同一人物が書いたモノとは思えないわ」(SEELE02)

ゲンドウのこめかみに青筋が浮かぶ。ちなみに今回の作戦計画はゲンドウ自身の手によるものである。

「それで、私の提案した計画はどういうことに?」

「第4、第6艦隊の残存兵力に新兵を加え、第拾参艦隊を創設する事は認めるよ」(魅惑のSEELE05)

「せやけど、これだけやったら通常の半個艦隊にしかならへんで」(幻のSEELE04)

「問題ありません」

「やる気なのかい?」(魅惑のSEELE05)

「その為のネルフです」

第拾参艦隊を勝手にネルフと名付けるゲンドウであった。

「いいじゃない。失敗したところでアタシ達が失うものなんて、なーんにももないんだから」(SEELE02)

「それもそうだね」(魅惑のSEELE05)

「ほな、そーゆう事で」(幻のSEELE04)

一斉に消えるモノリス。
一人、部屋に残されるゲンドウ。その口元だけがニヤリと歪んだ。

彼の目的は達せらた。新設される第拾参艦隊(ネルフ)司令、ヤン・ゲンドウ。ついに「司令」の立場を手に入れたのである。
イー計画などダミーに過ぎない。

『これでシンジにバカにされることはない』

勝利の余韻にひたるゲンドウの背後から声をかける人物がいた。

「たった半個艦隊で、あのイゼルローン要塞を攻略するだなんて、こりゃまた大きくでましたね」

『薔薇の騎士』連隊の隊長をつとめる男、シェーンコップ加持リョージ大佐である。

「加持君か、今回は君に活躍してもらわねばならん」

「へいへい、行けとおっしゃるなら何処へなりとも」

お気楽に答えてみせる加持であった。

 

−イゼルローン要塞−

イゼルローン要塞。帝国と同盟の境に建設された巨大な宇宙要塞である。同盟は過去に6度の侵攻を試み、その企てはすべて失敗に終わっている。それは、この要塞を守る2人の上級大将の活躍によるところが少なくない。

要塞駐留艦隊司令、サキエル・フォン・シュトックハウゼン上級大将。
要塞司令官、シャムシエル・フォン・ゼークト上級大将。

戦闘においては同盟艦隊につけいる隙を見せない両者だが、平時においては顔をあわせれば喧嘩ばかりしている。

「シャー」←サキエル

「ギャー」←シャムシエル

今日も要塞司令部で顔を合わせた両者が、ささいなことから大喧嘩を始めていた。
サキエルが光の槍をふるえば、シャムシエルは光の鞭をふりまわす。盛大に上がる十字架にも似た爆発と閃光。
シェルターに緊急避難するオペレーター。
両者を止めようと思ったら、N2爆弾でも使用する以外に方法がなかった。

 

こんなの相手にどーする加持

 

 

 


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