1998,05,09


渚の英雄伝説 −第35話−

女の戦い


 

ガイエスブルグ要塞に、非常警報が鳴り響く。

「何があったの?」

あわただしく発令所に駆け込んできたヒカリ。

「ワシは何もしてへんで」

オペレータ席に座って両手を上げているトウジ。彼の前にあるディスプレイには『非常事態』の文字が踊る。

「外部からの侵入者・・・やばい、零号機からだ!」

ケンスケは防御プログラムを展開しているが、その努力が報われるとも思えない。

 

「警報を止めて!」

高いところが好きなアスカが、最上段から指示を出す。

「なんであの女がしきるんや・・・」

文句を言いつつも警報を切るトウジ。
警報解除のスイッチを押したと同時に、メインモニターに大きくレイの顔が映し出される。

「な、何やってんのよ!鈴原」

「ワ・・ワシは何もしてへんて。なあ、そやろイインチョ」

思わずヒカリに助けを求める。
しかし、頼みのヒカリはモニターのレイを凝視していた。
そのレイは、あきらかにアスカを見つめている。

 

「なによ、ファースト。文句があるなら言いなさいよ。でも言っとくけどね、アレはアタシのせいじゃないわよ」

威勢がいいやら悪いやら。

「・・・だましたわね」

レイがつぶやいた。

「人聞きの悪いこと言わないでよね、勝手に勘違いしたアンタが悪いのよ!」

「そう・・・なら、あなたにもこの気持ち分けて上げる・・・・ハレルヤ攻撃」

レイの背後に白く光る鳥のような姿が浮かびあがる。

「いやー!誰よそれー!」

理由はよくわからないが、その姿に恐怖するアスカ。
かろうじて、突っ込みを入れる事だけは忘れなかった。

「アラエル・メックリンガー。ここまできたら、誰でもいいもの」

スクリーンの向こうから、オーロラにも似た光がアスカに照射される。

「イヤー、アタシの心をのぞかないでー!! ・・・って、アレ? 何ともないじゃない」

TV版のアスカとは違い、「渚英伝」のアスカには母親に首を絞められたトラウマはない。
またシンジに負けてプライドボロボロというわけでもない。
そんなノーテンキ娘に、ハレルヤ攻撃など効くはずもなかった。

 

「どうやら私の勝ちのようね」

腰に手を当てて胸をはるアスカ。
勝ち負けはともかくとして、レイの攻撃が失敗に終わったことは確かだ。

レイの表情は変わらない・・・いや、口元がほんの少しくやしそうである。

その変化をめざとく見つけ、ここぞとばかりに攻め込むアスカ。

「だいたい自分じゃなーんにもできないクセに、綾しげなシトを使ってこのアタシを精神汚染しようだなんて虫が良すぎるわね」

「シトは私の力よ。みんな私から生まれたものだもの」

「・・・やっぱりアンタ、シトの親玉だったのね」

「さぁ?よくわからない。私が親でも、子は育つもの」

「・・・アンタが何を言ってるか、アタシにはわからないわ」

「そうね」

 

会話がかみ合っていない。

 

「なんや、上の方ではエラい騒ぎになっとるで」

「アスカ・・・だいじょうぶかしら・・・」

 

しばらく無言で見つめあった両者だが、先に動いたのは意外にもレイであった。

「精神攻撃から物理攻撃へ作戦変更」

ドカン

レイの言葉と同時に発令所の壁が崩れる。
そして、崩れた壁の向こうから侵入してくる新たなシト。

「ゼルエル・ケンプ」

スクリーンに映るレイを背景に、最強のシトがアスカに迫る。

 

「ファースト!これは絶対、反則よー!!」

アスカの絶叫。
首と両腕の付け根が熱いような冷たいような。(アスカ、ピーンチ)

「やって」

レイの命令は短い。

フヨフヨとアスカの前に進み出るゼルエル・ケンプ。ただの紙のようにも見える両腕が、高く持ち上げられた。

ツン、ツン、ツン

リズミカルに手を延ばし、アスカに攻撃を加えるゼルエル・ケンプ。

「ちょっと、やぁだぁー!そんなとこ触らないでよー!いや〜ん、やめてー!」

ゼルエルの攻撃に防戦一方のアスカ。苦しいのか嬉しいのか微妙なところだ。

 

「不潔よ!アスカ、不潔だわ!」

イヤン、イヤンと首を振るヒカリ。
下からでは、上の光景がどうなっているかわからないだけに、ヒカリの頭の中では、凄いことになっているらしい。

「ここまでシナリオが荒れたんじゃ、この先苦しいんじゃないかな」

誰に突っ込むともなく、つぶやくケンスケ。

「なんや、アホらしゅうなってきたわ」

そっぽを向くトウジ。

ちなみに、この二人も膨張していた。

 

「ファースト!覚えてなさいよ。アタシはまだ負けたわけじゃないんだからね!」

ツン、ツン、ツン

「いや〜ん、ダメー」

お決まりのセリフを吐くアスカの方はゼルエルにまかせ、レイは次の行動を開始する。

 

「カヲルはどこ?」

「なんや綾波、他人の心配とは珍しいな」

「カヲルはどこ?」

「お前が心配してるのはカヲルやない、シンジや」

「カヲルはどこ?」

「少しくらいワシの話に合わせよーって気、ないなお前」

「カヲルはどこ?」

「もーええ、何かを期待したワシが間違っとった。『鳳凰の間』っちゅー所におるわ、シンジと一緒にな」

「そう・・・そうかもしれない」

 

発令所のスクリーンから、レイの姿が消えた。
アスカとゼルエルの死闘は、まだ続いているようだ。

 


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