1998,03,28


渚の英雄伝説 −第31話−

最後のシ者


 

冷却液につかった弐号機の前にたたずむカヲル。

「結局、こうなる事が僕の運命なのか。おいで、アダムの分身、そしてリリンのシモベ」

ふわりと宙に舞うカヲルの背後で、弐号機の4つの瞳が輝いた。

 

「弐号機、起動」

第九の旋律にのって、オペレーターの報告が響く。

「なによそれー。カヲル!アタシの弐号機を勝手に動かすんじゃないわよ!」

トリガーを握りしめ、カヲルストライクの準備に余念のないアスカがわめく。

モニターに映るカヲルは、両手をポケットに突っ込んだままフワフワと浮かんでいる。
その後をヒョイヒョイとついていく弐号機。
カヲルストライクの砲身におさまる気はなさそうである。
(カヲルがいつのまにか制服(夏服)に着替えている理由は、作者にもよくわからない)

「カヲル君!」

モニター越しに呼びかけるシンジ。

「待っていたよ、シンジ君」

まるで見えているかのように、スクリーンのカヲルはこちらを見上げる。

「どうするつもりなの、カヲル君」

「ブリュンヒルトは、このまま要塞砲の射程圏外を、ガイエスブルグの天頂方向に移動。そこで僕と弐号機を放出してくれ。艦隊行動はD−17で、後はシンジ君にまかせるよ」

「どうして、どうしてなんだよ、カヲル君」

「真上から降りていく方が気分がでるからさ」

 

−ガイエスブルグ−

「0時の方向にATフィールドの発生を確認」

「弐号機?」

マコトの報告を確認するミサト。

「いえ、パターン青、間違いありません、シトです!」

「なんですって!」

 

「まさかシトが直接あらわれるとはな」

「あの少年、予定をひとつ繰り上げるつもりかしら。自分の手で」

「あるいは、破滅(最終話)を導くかだ」

雰囲気にどっぷり浸るキールとナオコ。

 

「ガイエスハーケン、発射準備。急いで!!」

「目標は第二コキュートスを通過」

「ガイエスハーケン、エネルギー充填120%。発射準備完了」

「撃て!!」

ミサトの気合いをこめた命令と同時に、要塞砲がうなりをあげて弐号機を襲う。
宇宙空間でうなりをあげてという表現が適当かどうかは定かではないが、イメージの問題である。
イメージがわかない人は、ガンダムのコロニーレーザーでも思い浮かべて欲しい。

圧倒的な光の奔流に飲み込まれるカヲルと弐号機。しかし・・・

「目標、健在」(マヤ)

「あれは!」(リツコ)

「ATフィールド!」(ミサト)

 

「そう・・・、君たちリリンはそう呼んでるね。何人にも犯されざる聖なる領域、心の光。リリンもわかっているんだろ、ATフィールドは誰もが持っている心の壁だということを」

カヲル、誰と会話している。

 

「わけわかんないのよ、あんたの存在は!!」

ミサトの叫びが発令所にこだまする。

「目標、ガイエスブルグまであと20」

マヤのせっぱ詰まった報告。

「どうするの、ミサト」

「リツコ、要塞砲の収束率を限界まで上げて。一点突破を試みるのよ」

「無茶よ!システムに負荷がかかりすぎるわ。そんな事をしたら、もう、次は撃てないわよ」

「構わないわ!・・・これでダメなら、次なんていらないもの」

「・・・そうね」

リツコはうなずくと、要塞砲の出力を調整する為コンソールに向かう。

それを横目に、ミサトはマコトの背後にそっと忍び寄った。

「日向君、この攻撃が終わって、それでも目標に変化がなかったときは・・・」

「わかっています、ここを逃げ出すんですね。まきぞえくらって死ぬのはゴメンですから」

「すまないわね」

「いいですよ、あなたと一緒なら」

『加持も連れてくけどね』

 

「脇役の運命か・・・脇役の希望も悲しみに綴られている・・・」

キュオーという音とともに画面ホワイトアウト。

 

「どういうこと?」

「これまでにない、強力なATフィールドです」(マコト)

「光波、電磁波、粒子も遮断しています。何もモニターできません」(ロン毛)

「目標および弐号機、ともにロスト」(マヤ)

「まさに結界か。リツコ!要塞砲はまだなの?」

「最終安全装置の解除終了。いけるわ!」

「ガイエスハーケン、エネルギー充填完了」(マコト)

「よーし、第2射、いっけー!!」

先ほどの攻撃を『光の奔流』と形容するなら、今度の攻撃はまさに『光の槍』である。
ガイエスブルグ要塞から放たれた『光の槍』は、カヲルの結界を易々と貫いた。

ジュッという音ともに、カヲルと弐号機の反応が消える。
(だから音はイメージですってば)

 

「目標消失」(ロン毛)

「よっしゃー!」(ミサト)

「助かったのね」(リツコ)

発令所のあちこちから歓声が上がる。
きわどいところで、シト殲滅に成功したのだ。

そんな開放感に浸る面々に、新たなプレッシャーがあらわれた。

「よろしい、諸君。これより作戦行動 へ−17 を遂行する」

最上段から降りてきたキール議長である。

「へ−17、こちらから打って出るんですか」

今更ノコノコ出てきやがってと、内心の思いを微妙に顔に出しながらミサトがたずねる。

「これはチャンスなのだよ。これまで防戦一方だった我々が、初めて攻勢に出るためのな」

「しかし、危険過ぎます」

「先ほどの攻撃で、要塞砲は使えなくなったのであろう。このままここにいても始まらん。ここは出撃だ」

「ですが議長、敵は指揮官を失ったとはいえ、その戦力をいささかも失ったわけではありません」

「・・・葛城君、ご苦労だったな。後はゆっくり休みたまえ」

「それって・・・」

ミサトは後の言葉を飲み込む。一瞬、キールをキッとにらむと敬礼だけして踵をかえした。

 

−ブリュンヒルト−

シンジは何も写っていないスクリーンを呆然と見つめている。
さっきまで、そこには弐号機とカヲルの姿が映っていたのだが。

「嘘だ!カヲル君が死んだなんてそんなの、嘘だ!」

「事実よ、認めなさい」

感情を無理に押さえ、淡々とすら響くアスカの声。

『死んだの? アイツが? ・・・・これでこの連載も終わりね。そして次回からは、アタシが主役の『惣流伝』が始まるのね』

アスカは、こみ上げる笑いを必死に押さえていた。

「勝手に僕を殺さないでほしいな、アスカちゃん」

はっとして振り向いたその先には、何事もなかったかのように微笑むカヲルの姿があった。

「カヲル君!」

「なんでー?なんでアンタがここにいるのよ!消滅したんじゃなかったの?」

「強力なATフィールドで敵の目をごまかした隙に、ディラックの海を使って帰ってきたのさ」

さも当然のような顔で説明するカヲル。

「やっぱりアンタ、存在そのものが反則ね」

呆れるしかない。『惣流伝』も、おあずけである。

「こんな事は、これっきりだよ。アスカちゃん」

「どーだか。ところでアンタ、アタシの弐号機はどうしたのよ?」

「ゴメンよ、アスカちゃん。敵の目を欺くには、弐号機の回収は不可能だったんだ」

「えー!」

アスカがカヲルに食ってかかろうとしたその時。

「敵艦隊、要塞より出撃しました」

オペレーターの報告が、まだ戦闘中であることを思い出させる。

「これを待っていたんだ。シンジ君、艦隊の配置は?」

「言われたとおり、D−17で配置してあるけど」

「そう、予定通りだね。本隊はこのまま後退。敗走すると見せかけ、うまく敵を誘い出すのさ」

艦隊戦を間近に控え、ブリッジは再び緊迫した空気につつまれる。

そんな中、冷静にすべてを見つめるメガネの存在に気づくものなど誰もいなかった。

「連載終了の危機は脱したように見える。だが、安心するのはまだ早くないか?僕はどーもサブタイトルが気になるんだ。『涙』、『最後のシ者』ときたら、次は『終わる世界』に決まっている。そして、その次は・・・・」

黙れ!ケンスケ。


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