1997,12,25
−エンタープライズ−
「レンテンベルグ要塞を包囲中の敵艦に動きがあります。強襲揚陸艦が要塞表面にとりつきました。どうやら突入を開始する模様です」
ここぞとばかりに活躍するオペレーターA。勿論、彼の出番はこれだけである。
「始まったわね。リツコ、迎撃の準備はいい」
当然、ミサトの出番もこれだけである。
「ええ、いつでもいけるわ」
コーヒー片手にのんびり答えるリツコ。パンパンと顔をはたき、真面目な表情を作るとマヤに指示を送る。
「マヤ、来るわよ!」
−レンテンベルグ要塞−
「マヤ、来るわよ!」
ディスプレイにはリツコの緊迫した表情。
「先輩、すいません。あの、これってどうやって動かすんですか?」
前に動かした時は『先輩とひとつになりたい』モードだった為、無意識にオフレッサーを操ることができたのだが、今回は装甲服を着込んでいることもあり、未だ身動きがとれないでいる。
「マヤ、今は歩くことだけを考えて」
リツコの指示にうなずくマヤ。
「歩く」
フニ
「歩く」
フニ
「先輩、歩くとなんだか足の裏がフニフニいうんですけど」
「足音で敵にこちらの位置が知られない為の消音装置よ、問題ないわ」
「そうですか、あと、お尻がどうもムズムズするんですけど。何かが生えてるみたいな・・」
一生懸命、自分のお尻を確認しようとするが、装甲服に動きを制限され、その場をクルクル回るだけの結果となってしまう。
「姿勢制御用のスタビライザーが機能している証拠よ、気にする必要はないわ」
「・・・あの、装甲服なんですけど、どうして表面が毛皮でおおわれているんでしょうか?」
「某宇宙戦艦の装甲にも使用されているコットンアーマーよ。着弾の衝撃を吸収し、熱を拡散、帯電させてビームもはじく優れものよ」
「でも・・白地に黒と茶のブチ模様というのはおかしくありませんか?」
「迷彩と思ってくれていいわ」
「・・・納得できません」
「マヤ、来たわ」
第6通路の入り口の扉が開かれ、黒のジャージを着た少年を先頭に、同じように黒のジャージに身を包んだ敵兵がなだれ込む。帝国の誇る黒色ジャージ騎兵の一団である。
一瞬、そのままの勢いでマヤに向かって殺到するかと思われたが、目の前の物体を見ると唖然とした表情でその場に立ちつくしている。
「なんや、化け猫かい」
トウジが目にしたものは、三毛猫の着ぐるみを着た大男の姿であった。あまりの不気味さに突撃したものかどうか、判断に迷いが生じる。
「マヤ、敵はヒいているわ。今がチャンスよ」
マヤの目は黒ジャージの少年にそそがれている。まさかジャージ1枚で白兵戦に出てくるバカがいようとは、想像の範疇を越えている。装甲服すらつけない生身の人間相手にマヤがオフレッサーでパチキかまそうものなら、おそらく相手はぐっちゃんぐっちゃん。原型すらとどめぬであろうことは、容易に想像できる。
「先輩・・でも・・・私には、できません」
「・・・マヤ」
遠巻きに様子を窺っていたトウジは、相手が動き出さない事に焦れ始めた。周りにいる連中も、あえて自分から戦端を開こうとしない。
「なんや、あの格好は、縫いぐるみで戦争ができるかっちゅーんや。決めた!ワシは行くでぇ」
自らの格好を省みることなく、オフレッサーに特攻するトウジ。
−ブリュンヒルト−
『第6通路の扉の向こうで我々を待ち受けていた謎の化け猫。それは依然、我々の目の前で不気味な沈黙を守っています。おおーっと、ここでトウジが行ったぁー!化け猫に向かって突っ込んで行きます』
ケンスケのナレーション付き映像がブリッジのメインスクリーンに映される。
「無茶だよトウジ。武器も持たないで」
「死んだわね、アイツ」
アスカの無神経なコメントにハラハラとスクリーンを見つめるヒカリ。
お茶をすするレイ、フンフンと鼻歌を口ずさむカヲル。
『おおーっと、これは強い!予想に反して強いぞトウジ。左右のパンチの連打が相手のボディーに連続ヒットだー。さらに回し蹴りが1発、連環転身脚かー。すかさず相手の背後にまわって胴に腕をまわした。バックブリーカーの体勢だー。しかし、重い。装甲服の重量を合わせれば200キロはありそうな巨体はびくともしません。』
−エンタープライズ−
「ちょっとリツコ。マヤは何をやってるの。一方的にやられちゃってるじゃない」
たまらずミサトが悲鳴をあげる。
「マヤ、命令よ。戦いなさい!」
リツコの言葉にもマヤは無言。
−ブリュンヒルト−
『トウジはまだ頑張る。渾身の力をこめて敵の巨体を投げようとしています。おおーっ、浮いたー。それまで微動だにしなかった敵がゆっくりと後方へ倒れ始めました。ああーっと、これはやはり、トウジは巨体の下敷きです。だいじょうぶかトウジ』
トウジのピンチにドキドキのヒカリ。レイとお茶をすするシンジ。カヲルにちょっかいを出し始めるアスカ。
−レンテンベルグ−
「いかん、隊長のピンチだ、全員突撃!」
オフレッサーに押しつぶされたトウジを救出すべく、黒色ジャージ騎兵がわらわらと群がる。囲まれてボコボコにされるオフレッサー。
−エンタープライズ−
「ちょっとリツコー! 何とかしてよー!」
パニくるミサト。
「大丈夫よ、あの程度では、オフレッサーにダメージを与えることはできないわ」
「でも、このままじゃこっちも相手にダメージを与えられないじゃない」
駄々をこねるミサト。さらに何事かリツコに文句を言おうとしたその時。
「りっちゃん」
今まで沈黙を守ってきたナオコがリツコを呼び、ニヤリと口元をゆがめる。
「あるんでしょ、りっちゃん。切り札が」
「さすがは母さんね」
ゆっくりと背後をふりかえるリツコ。マッドな2人に挟まれて右往左往するミサト。
「ダミープラグ起動」
リツコの指示がとぶ。勿論オペレーターAには何のことだかさっぱりわからい。とりあえず笑ってごまかす。
「・・・・・」
扉に挟まれた傷のため、未だ生死の境をさまようキールの存在を気にかけるものは誰もいなかった。