1997,12,20


渚の英雄伝説 −第18話−

アタシが主役よ!



同じ頃、マリーンドルフ伯惣流アスカの私室。

「・・・以下省略って、アンタ馬鹿ぁ、このアタシの話を書かないでどーしろっていうのよ! ほら、とっとと書きなさいってば! あ、こら、まだ、アタシの話は終わってないんだから、ちょっと、どこに行く気なの・・・」

−レンテンベルグ要塞−

日向とロン毛の手により、無理矢理オフレッサーのもとへ運ばれるマヤ。
一応の抵抗を試みるものの、あっという間に薬で眠らされ、為すすべも無い。
気が付いた時には、敵の予想侵攻ルートである第6通路に放置されていた。
もちろん、しっかりとオフレッサーを着込んでいる。
周囲に人の気配はい。

「・・うそ・・本当に私1人だけ、置いていかれたのかしら・・・」

途方に暮れるオフレッサー(マヤ)。その時、視界の隅にウィンドウが開き、リツコの顔があらわれる。

「先輩!よかったー、本当に置いてきぼりにされたのかと思っちゃいましたよ。それで今、先輩はどちらにいるんですか? 」

「あなたの後方、リアクターのある方向よ。私はここからマヤを援護するわ」

「先輩・・・」

リツコの言葉に素直に感動するマヤ。しかし・・・

リツコの乗るUSSエンタープライズ号は、マヤの遥か後方の宇宙空間をガイエスブルグに向かって突き進んでいた。マヤから見ればリアクター方向の延長線上に位置している為、リツコの言葉は嘘ではない。マヤが勘違いしていることは気づいているが、無論そんなことを指摘したりはしない。

−ブリュンヒルト艦橋−

レンテンベルグ要塞を攻略することは、既にカヲルが命令している。それに加えて、どうせ攻略するならできるだけ無傷で入手し、今後のガイエスブルグ攻めの後方基地として利用する方針が新たに決定された。

「む、無傷で手に入れるって、カヲル君はそんな簡単に言うけど、実際どうやるのさ」

「どもってるよシンジ君。久し振りの出番で緊張しているのかい?」

「そ、そ、そんな事ないよ、変なこと言わないでよ・・」

思いっきり緊張している。
しかし、それは久し振りの登場の為ばかりではない。ガイエスブルグが近づくにつれて、何やら得体の知れないプレッシャーを感じるシンジであった。

「・・私が守るもの」

シンジの重苦しい雰囲気を察したレイがつぶやく。

「え、どうしたの、綾波・・その、突然」

カラ振り

タメが足りなかったみたい。私の台詞、難しい・・・

「・・・・・・」

自らの台詞の自省モードに突入したレイ。その沈黙が発散する重苦しい雰囲気は、シンジのそれなど足元にもおよばない。周囲にいる者を見る見る精神汚染していく。

「アカン。なんでワシ、電車なんかに乗っとるんや・・・なんや、センセと綾波かい」

「隊長!自分は隊長を残しては先に進めません・・・バカヤロー(バキ)・・・うぐぅ・・」

「優しいトコロ(ポッ)優しいトコロ(ハート)優しいトコロ(ウフ)・・・」

「僕の中の碇シンジ、綾波の中の碇シンジ、カヲル君の中の碇シンジ・・・」

もはやブリュンヒルトのブリッジで正気を保っているのは、聖なる光につつまれたカヲルただ一人。だが、その心の壁も、ジワジワとレイに浸食されている。

「まずいね、このままではみんなレイに取り込まれてしまう・・」

プシュ

カヲルのつぶやきと同時にブリッジのドアが開かれる。

「ちょっと、アンタたち!アタシのいない所で、なに勝手に話を進めてるのよ!」

怒れるアスカ登場。前回のラストでも、今回の冒頭でも肩すかしをくらい、あまつさえ自室で出番を待っていた為、ブリッジでの会話に出遅れたことで、かなりご立腹のようである。

「・・・・・」

未だ自省モードのレイ。

「何やってるの、アンタ。相変わらず暗いわね」

レイの精神汚染も、怒髪天モードのアスカには効果がないようだ。

「アスカちゃん・・」

「何よ」

アスカが平気なのをいぶかしむカヲル。

「何ともないのかい?」

「何がよ!」

「・・鉛のように鈍感だね、君の心は。驚異に値するよ・・・びっくりしたってことさ」

「アンタ、死にたいの?」

ズイっと迫るアスカ。おだやかな微笑みを浮かべるカヲルの顔が目の前に迫る。

「・・・・」(ポッ)

照れてどうする、アスカ

「あれ?アスカ、来てたんだ」

いち早く精神汚染から抜け出したシンジが背後から声をかける。自分の中で納得がイったのか、レイも普段の状態に戻ってこちらを見ていた。

「な、な、何よ。来ちゃ悪いわけ」

あせってカヲルから離れるアスカ。

「別に、そんなこと言ってないだろ」

「ふん、どーだか。で、戦況はどうなってるわけ?」

「そんなの、アスカに関係ないじゃないか・・・ぶつぶつ」

不平をこぼしながらも、現状を説明するシンジ。まぁ、まだ何も決まってないのが現状なのだが。
シンジの要領を得ない説明を受けて、アスカがあざやかに微笑む。

「そう、こういう場合は先ずリーダーを決めなきゃね。ア・タ・シ・がリーダーよ、文句ある?」

腰に手をあてて胸をはるアスカ。

「あの、アスカちゃん」

「何よ!」

「僕は元帥なんだけど・・・」

「アタシはリーダーよ! 文句あるの!」

「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・」

まだ、何か言いたげなカヲルを無視して話をすすめるアスカ。

「いい、これからレンテンベルグ要塞を奪取するわよ。それには要塞中央にある反応炉を押さえる必要があるわ。最短距離で反応炉に至るルートがここよ」

ビシっとアスカが示したのは第6通路であった。

「あの、アスカちゃん」

「今度は何よ!」

「そのルートは敵の抵抗が一番多いと予想されるんだけど・・・」

「アンタ馬鹿ぁ、だ・か・ら・ここから行くんじゃない。正面から堂々と敵をうち破ってこそ、真の勝利者と言えるのよ。だいたいアンタも使徒のはしくれだったら、たとえ火の中水の中、アダム目指して一直線。それが使徒の心意気ってもんでしょ!細かいことは気にしたってしょうがないんだから」

あきらめてレイに助けを求める視線を送るカヲル。

「そう、そうかも知れない」

レイはアスカの無茶な説明に肯定的であった。
完全にあきらめて、天を仰ぐカヲル。

「それで、誰があそこに行くの?やっぱり僕かな・・」

シンジの不安げな声。

「シナリオでは帝国軍の双璧が行くことになってたわ」

淡々と指摘するレイ。
レイの言葉に双璧に目をやるアスカ。

不安げな表情のウォルフガング・洞木ヒカリ
怪しげな表情のオスカー・フォン・相田ケンスケ
この二人が帝国軍の双璧らしい。

「ヒカリに行かせる訳にはいかないし、メガネ一人じゃどうも不安ね。ジャージ、あんたが行きなさい。メガネはカメラマンとして同行。戦況を逐一報告するのよ」

「よっしゃ!こーいう時のためにワシがいるんやからな」

「従軍カメラマンかい。見る目があるじゃないか」

まんまとアスカの手に乗る二人。このまま帝国軍を手中におさめ、第二のルドルフとなることができるのかアスカ?

「次回からは『アスカの英雄伝説』よ!」(嘘)


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