1997,11,18
「・・・あなたたち・・・何か誤解してない?」
「リーツコー、アンタこの状況をどう誤解しろって言う気なの」
「りっちゃん、恋愛はロジックじゃないのよね。ママは応援するわよ」
ジト目のミサト、何やら嬉しそうなナオコ。
「母さんが何を喜んでるのか知らないけど、いい、この子はマヤよ」
ビっと隣の大男を指差すリツコ
・・・暫く流れる沈黙の時間・・・
ミサトの顔にようやく理解の表情が浮かぶ。
「マヤを改造しちゃったんだ・・・」
(まぁ、リツコにいきなりこれがマヤだと言われたら、そう考えてもおかしくないか)
「人体改造手術・・・すでに実用段階に移行していたのね」
科学者としてのナオコのつぶやき。
人体改造手術・・・この言葉が男達の逃走本能に火をつけた。
すかさずこの場を逃げ出すキール、躊躇無くその行動を支援する加持。日向、ロン毛も慌ててその後を追う。
部屋の扉に取り付くが、扉はいっこうに開く気配を見せない。
「なぜ開かん」
「入るとき無理矢理こじ開けましたからね、どこかおかしくなったかな」
「早く、早く開けて下さい」
再び電子ロックと格闘する加持。
プシュという音とともに、少しだけ扉が開く。
その幅、約15センチ。
「くぅおおぉ!」
「じじい、何つかえてんだよテメー。邪魔だよ、邪魔!」
「ここは一番スレンダーなこの俺が」
「ざけんなよロン毛。ちゃんとした役もなしにノコノコついて来やがって。オメーが改造されちまえばいいじゃねーか」
「ふん、ぬうぅ!」
「じじい、いい加減そこをどけって」
「あ、失敗」
扉を開けようと電子ロックと格闘していた加持。間違えて扉が5センチほど閉まってしまう。
メキョ
にぶい音が響き、じじい沈黙。
「何やってるの、アナタ達」
背後からかかるリツコの声。
「いいえ、なんでもありません」
『俺なのか?やっぱり俺なのか?どう考えたって俺しかいないよな・・役なしだものな、俺』
「赤木、楽しいことが見つかったのか・・・(何言ってんだ俺は)」
「・・・」
扉にはさまれ沈黙するキール。
「無様ね・・・でも改造手術なんてしてないわよ、私」
不満顔のリツコ。視線の先の野郎共はみんな逃げ腰。くるりと向きを変えてミサト達に目をやれば、こちらも慌てて逃げ腰となる。
「まさかママを改造したりしないわよね?」
「まさか親友を改造したりしないわよね?」
「・・・アナタ達、私のことを改造マニアだと思ってるわね。マヤ、あなたも黙ってないで何とか言いなさい」
ピクリ
オフレッサー(マヤ)の体が動く。
「動くの、これ?」
「当たり前でしょ、ミサト。でなきゃ兵器にならないわ。それから、何度も言うけど改造なんかしてないわよ。マヤは中でパイロットをしてるだけなんだから」
「入ってるだけなの、この中に?」
「ええ、パイロットですもの」
ほー
その一言に胸をなでおろす一同。人体改造手術のピンチは脱出したようだ。
「脅かさないでよ、もー。それにしても、よーくできてるわね、これ」
シゲシゲとオフレッサー(マヤ)を眺めて感想をもらすミサト。
ふと、視線がある一点に釘付けにされる。
「あら、すごーい。これって、役にたつわけー?」
ニヤニヤとイヤらしい笑いを浮かべながら問い掛ける。
「何バカなこと言ってるのよ。でも神経接続はされてるから、理論上は役にたつはずね」
どーでもいいような細かい所にも手を抜かない。いや、あえてどーでもいいような所にこだわりを持ってこそ真の科学者。リツコはそう理解している。
「聞いた、マヤ?よかったじゃなーい」
ポンとオフレッサー(マヤ)の背中をたたくミサト。
「何が言いたいの?」
怪訝な表情で問い返すリツコ。
「だーって、そうじゃなーい。いい、マヤ。これはチャンスよ!しっかりリツコをモノにしなさい」
「ミサト、あなた何言ってるのよ」
クルン
それまで白目を剥いていたオフレッサー(マヤ)が、いきなり正気にかえる。
「・・先輩。葛城さんの言葉を聞いて、どうして先輩がこんなことをしたのかわかりました。そうだったんですね、先輩・・」
「マヤ、それはたぶん違うと思うわ」
「いいんです、先輩。私、よくわからないけど、一生懸命やってみます」
何をする気なのか、一心にリツコを見つめるオフレッサー(マヤ)。
さりげなくリツコの側から離れるミサト。
「あら、私の理論通り、ちゃんと役にたつのね・・ってマヤ、あなた何考えてるの?」
ジリジリと無言で間合いを詰めるオフレッサー(マヤ)。
部屋の隅にかたまって、興味シンシンでこちらの様子を伺う面々
「マヤ、落ち着きなさい。ほら、まわりをよく見て」
リツコの言葉も耳に入る素振りはない。
「本格的にヤばいわね、目がイっちゃってるわ」
こんな状況でもまだ余裕があるリツコ。
おもむろに白衣のポケットから怪しげなリモコンを取り出す。
「パイロット、強制射出」
カチ
スポーン
ドカ
ベチャ
「こんな時のために速度0、高度0でも作動する緊急脱出装置を付けておいて正解だったわね」
「リーツコー、説明してくれるのありがたいんだけど、天井のあるところで使うもんじゃないわよね」
強制射出されたマヤは勢いよく天井にぶつかり、そのまま床に崩れ落ちている。
「それに、緊急脱出装置がどーして外部からのコマンドで作動するのよ」
「こんな時のタメって言ったでしょ」
「あんたはいつもそう。結局私たちのことなんてなーんにも信用してないんでしょ」
「切り札は常に用意しておくものよ。信用うんぬんの問題じゃないわ」
「お二人さん。そんなことより、マヤちゃんをどうにかしてあげないと」
加持の言葉に、床でヒクヒクいってるマヤに目を向ける。首があらぬ角度で曲がっている。
「そうね、今はこっちの方が先みたいね」
「あと、あそこで扉にはさまってるジーサンもひとつヨロシク」
「・・・いいわ、まとめて船に転送してあげるから。あそこなら医療設備も整ってるし、みんな、行くわよ」
リツコの一言に全員の顔がひきつる。
「心配しないで、途中で混ざっちゃったりしないから」
「りっちゃん、シャレになってないわよ」
「転送!」
こうしてリツコの船(USSエンタープライズ号)に乗り込んだ一同は、無事、首都星オーディンを脱出する。
無事というには多少語弊がある気もするが・・・。
うーむ、銀河の歴史がまた1ページ・・・か?