1997,11,18


渚の英雄伝説 −第16話− または外伝その2

マヤ、覚醒?



時計の針は少しもとにもどしたままで・・・
レイの言いがかりにより首都星オーディン脱出を迫られたゼーレの面々は、リツコの部屋へとなだれ込んだ。
人々がそこで見たものは、裸の大男を前に嬉しそうな顔のリツコ。

「・・・あなたたち・・・何か誤解してない?」

「リーツコー、アンタこの状況をどう誤解しろって言う気なの」

「りっちゃん、恋愛はロジックじゃないのよね。ママは応援するわよ」

ジト目のミサト、何やら嬉しそうなナオコ。

「母さんが何を喜んでるのか知らないけど、いい、この子はマヤよ」

ビっと隣の大男を指差すリツコ
・・・暫く流れる沈黙の時間・・・
ミサトの顔にようやく理解の表情が浮かぶ。

「マヤを改造しちゃったんだ・・・」

(まぁ、リツコにいきなりこれがマヤだと言われたら、そう考えてもおかしくないか)

「人体改造手術・・・すでに実用段階に移行していたのね」

科学者としてのナオコのつぶやき。

人体改造手術・・・この言葉が男達の逃走本能に火をつけた。

すかさずこの場を逃げ出すキール、躊躇無くその行動を支援する加持。日向、ロン毛も慌ててその後を追う。

部屋の扉に取り付くが、扉はいっこうに開く気配を見せない。

「なぜ開かん」

「入るとき無理矢理こじ開けましたからね、どこかおかしくなったかな」

「早く、早く開けて下さい」

再び電子ロックと格闘する加持。
プシュという音とともに、少しだけ扉が開く。
その幅、約15センチ。

「くぅおおぉ!」

「じじい、何つかえてんだよテメー。邪魔だよ、邪魔!」

「ここは一番スレンダーなこの俺が」

「ざけんなよロン毛。ちゃんとした役もなしにノコノコついて来やがって。オメーが改造されちまえばいいじゃねーか」

「ふん、ぬうぅ!」

「じじい、いい加減そこをどけって」

「あ、失敗」

扉を開けようと電子ロックと格闘していた加持。間違えて扉が5センチほど閉まってしまう。

メキョ

にぶい音が響き、じじい沈黙。



「何やってるの、アナタ達」

背後からかかるリツコの声。

「いいえ、なんでもありません」

『俺なのか?やっぱり俺なのか?どう考えたって俺しかいないよな・・役なしだものな、俺』

「赤木、楽しいことが見つかったのか・・・(何言ってんだ俺は)」

「・・・」

扉にはさまれ沈黙するキール。

「無様ね・・・でも改造手術なんてしてないわよ、私」

不満顔のリツコ。視線の先の野郎共はみんな逃げ腰。くるりと向きを変えてミサト達に目をやれば、こちらも慌てて逃げ腰となる。

「まさかママを改造したりしないわよね?」

「まさか親友を改造したりしないわよね?」

「・・・アナタ達、私のことを改造マニアだと思ってるわね。マヤ、あなたも黙ってないで何とか言いなさい」

ピクリ

オフレッサー(マヤ)の体が動く。

「動くの、これ?」

「当たり前でしょ、ミサト。でなきゃ兵器にならないわ。それから、何度も言うけど改造なんかしてないわよ。マヤは中でパイロットをしてるだけなんだから」

「入ってるだけなの、この中に?」

「ええ、パイロットですもの」

ほー

その一言に胸をなでおろす一同。人体改造手術のピンチは脱出したようだ。

「脅かさないでよ、もー。それにしても、よーくできてるわね、これ」

シゲシゲとオフレッサー(マヤ)を眺めて感想をもらすミサト。
ふと、視線がある一点に釘付けにされる。

「あら、すごーい。これって、役にたつわけー?」

ニヤニヤとイヤらしい笑いを浮かべながら問い掛ける。

「何バカなこと言ってるのよ。でも神経接続はされてるから、理論上は役にたつはずね」

どーでもいいような細かい所にも手を抜かない。いや、あえてどーでもいいような所にこだわりを持ってこそ真の科学者。リツコはそう理解している。

「聞いた、マヤ?よかったじゃなーい」

ポンとオフレッサー(マヤ)の背中をたたくミサト。

「何が言いたいの?」

怪訝な表情で問い返すリツコ。

「だーって、そうじゃなーい。いい、マヤ。これはチャンスよ!しっかりリツコをモノにしなさい」

「ミサト、あなた何言ってるのよ」

クルン

それまで白目を剥いていたオフレッサー(マヤ)が、いきなり正気にかえる。

「・・先輩。葛城さんの言葉を聞いて、どうして先輩がこんなことをしたのかわかりました。そうだったんですね、先輩・・」

「マヤ、それはたぶん違うと思うわ」

「いいんです、先輩。私、よくわからないけど、一生懸命やってみます」

何をする気なのか、一心にリツコを見つめるオフレッサー(マヤ)。
さりげなくリツコの側から離れるミサト。

「あら、私の理論通り、ちゃんと役にたつのね・・ってマヤ、あなた何考えてるの?」

ジリジリと無言で間合いを詰めるオフレッサー(マヤ)。
部屋の隅にかたまって、興味シンシンでこちらの様子を伺う面々

「マヤ、落ち着きなさい。ほら、まわりをよく見て」

リツコの言葉も耳に入る素振りはない。

「本格的にヤばいわね、目がイっちゃってるわ」

こんな状況でもまだ余裕があるリツコ。
おもむろに白衣のポケットから怪しげなリモコンを取り出す。

「パイロット、強制射出」

カチ

スポーン

ドカ

ベチャ

「こんな時のために速度0、高度0でも作動する緊急脱出装置を付けておいて正解だったわね」

「リーツコー、説明してくれるのありがたいんだけど、天井のあるところで使うもんじゃないわよね」

強制射出されたマヤは勢いよく天井にぶつかり、そのまま床に崩れ落ちている。

「それに、緊急脱出装置がどーして外部からのコマンドで作動するのよ」

「こんな時のタメって言ったでしょ」

「あんたはいつもそう。結局私たちのことなんてなーんにも信用してないんでしょ」

「切り札は常に用意しておくものよ。信用うんぬんの問題じゃないわ」

「お二人さん。そんなことより、マヤちゃんをどうにかしてあげないと」

加持の言葉に、床でヒクヒクいってるマヤに目を向ける。首があらぬ角度で曲がっている。

「そうね、今はこっちの方が先みたいね」

「あと、あそこで扉にはさまってるジーサンもひとつヨロシク」

「・・・いいわ、まとめて船に転送してあげるから。あそこなら医療設備も整ってるし、みんな、行くわよ」

リツコの一言に全員の顔がひきつる。

「心配しないで、途中で混ざっちゃったりしないから」

「りっちゃん、シャレになってないわよ」

「転送!」

こうしてリツコの船(USSエンタープライズ号)に乗り込んだ一同は、無事、首都星オーディンを脱出する。
無事というには多少語弊がある気もするが・・・。

うーむ、銀河の歴史がまた1ページ・・・か?


続きを読む
メニューに戻る