1997,11,09


渚の英雄伝説 −第15話− または外伝その1

・・先輩!



時計の針を少しもとにもどして・・・
レイの言いがかりにより首都星オーディン脱出を迫られたゼーレの面々は、何の役にも立たない会議を中断し、リツコの部屋へと向かっていた。
そして、ここはそのリツコの部屋の前。

「皆さん、ちょっとここで待っててもらえるかしら」

「な〜に〜リツコ、別にアンタの部屋がどんなにとっ散らかってても、私はぜーんぜん気にしないわよ」

「ミサト。そんなことは言われないでも、あなたの部屋を1度でも見ればよーくわかるわ。普通はもう少し気にするものよ」

ヒクつきながらもそう言い残し、扉の向こうに消えるリツコ。

「フゥ・・」

扉を背に軽いため息を一つ。
どうにも周りのペースに流されている自分を感じる。特にミサトの存在がよくない。
どーして夜逃げの手伝いなどするハメになったのか?

「・・私じゃないのに」

何の解決にもならないことは分かっているが、思わず漏れるつぶやき。

「・・先輩」

「きゃっ!」

部屋に入ってからまだ灯かりもつけていない。薄暗い部屋の奥からいきなり声をかけられ、思わず小さく悲鳴をあげてしまう。

「マヤね、脅かさないでよ」

部屋の灯かりをつけようとスイッチに手をのばす。

「ダメです」

暗闇に目が慣れているのか、マヤの方からはリツコの動きが見えるようだ。

「どうしたのよ、いったい?」

なんとなく見える人影に近づこうと手をのばす。その時、人影の方がリツコに飛び込んできた。なりゆきでマヤの肩を抱く形になる。
手に触れるのは素肌の感触。

「・・先輩」

リツコの腕の中には、わずかに震える細い肩。恐る恐る肩から下に手をのばしてみるが、どこまで行っても続く素肌の感触。

「・・あっ、先輩」

リツコの手の動きに敏感に反応するマヤ。

「マヤ、あなた・・」

「いいんです、先輩。私、先輩のためなら・・」

「・・・あなた、私の気持ちに気づいていたの?」

それはマヤが待ち望んでいた言葉。
祝福の鐘が頭の中に鳴り響く。
あふれる涙を止めることができない。

コクリとうなずくマヤ。

「そう、いいのね。もう後戻りはできないわよ」

マヤはただうなずくのみ。

「こっちへいらっしゃい」

リツコは涙を流し立ち尽くすマヤの手を引き、優しく奥の部屋へいざなう。


「あのバカ、いつまで待たせる気かしら」

リツコの部屋の前で待たされる面々、待ちつかれたミサトがぼやく。閉じられた扉はまったく開く気配を見せない。

「何か必要な準備でもあるんだろ」

のんびりと構える加持。

中で何が進行しているか、この時点で気づくものなど誰もいなかった。


マヤは瞳を閉じ、全身を包む暖かい感触にその身をまかせていた。

「・・先輩、んっ」

わずかに口を開くと、容赦なく口の中に入ってくる生暖かい感触・・・思わず飲み込んでしまう。

「マヤ、LCLを飲んだらダメよ」

遠くから聞こえるリツコの声。目を開けてあたりを見まわそうとしてみたが暗闇ばかりで何も見えない。

「動かないで、目を閉じてじっとしてて。まだ神経接続の途中なんだから」

『神経接続?』とりあえず、言われた通りじっと待つこと暫し。

「さぁ、いいわよ。ゆっくりと目を開けてごらんなさい」

目を開けてみる。目の前にリツコがいる。
それだけで体の力が抜けるのがわかる。かなり緊張していたらしい。
目の前のリツコ。感じる違和感。何かが違う。

『私、先輩を見下ろしている』

いつも見上げているリツコの顔が自分の目線より下にある。それもかなり下だ。気がつけばやけに低い天井。なんだかリツコが縮んだようだ。

「どう、マヤ?」

「なんだか、先輩が小さくなった感じがします」

「そうじゃないわ、マヤ。あなたが大きくなったのよ」

大きな鏡の前に行き手招きするリツコ。彼女が何を言ってるのか理解できないマヤ。妙に狭く感じる部屋の中を歩き、リツコのそばへ。

『やっぱり、先輩、ちっちゃい。私の胸までくらいしかない』

ふと自分の胸に目をやり、我が目を疑う。

「先輩、ナイ、ありません。私の胸、うそ、ちゃんとあったのに」

両手で自分の胸を確かめてみる。

「こんなに固くなかった・・・いやー、胸毛があるー!」

「マヤ、落ち着きなさい。ほら、鏡をよくみて」

もう何がなんだかわけがわかない。言われて鏡に目をやる。
リツコの隣に身長2メートルを軽く超える見たこともない大男が立っている・・・しかも裸で。

「どう、マヤ。私が新しく開発した汎用人型決戦兵器、人造人間オフレッサーの感想は?」

マヤの耳にはリツコの言葉が意味をなさない。

「エヴァの技術を生かし、プラグスーツ、エントリープラグ、エヴァを機能的に一つに集約してコンパクトにしてみたの。単三電池2本で連続120時間の作戦行動が可能なの。さすがにATフィールドは無理だけど」

リツコの説明をよそに、マヤの心は真っ白な空間をさまよっていた。

「それにしても、まさかマヤの方からパイロットを志願してくれるとは思わなかったわ」

『ここはドコ?私はダレ?』

(マヤちゃん、逃げちゃダメだ。まぁ無理もないけど)


「遅い!人をいつまで待たせれば気が済むのよ、リツコのやつ」

「本当、遅いわね。りっちゃんに何かあったのかしら」

「案外、一人で先に逃げ出したかな?」

ヒク

加持の一言にその場の全員の顔がひきつる。

「まっさか〜、アンタじゃあるまいし。リツコがそんなことするハズないでしょ・・・たぶん」

「そーよ、りっちゃんはそんな子じゃない・・・といいな」

「ここでこうしていても始まらん。加地君、構わないからドアを開けたまえ」

「はぁ。赤木のやつ、セキュリティに妙な細工してなきゃいいけど・・」

ブツブツとボヤきながらも電子ロックと格闘すること1分。プシュっという音とともにリツコの部屋の扉が開かれる。ドヤドヤとリツコの部屋になだれ込む一同。

そこで人々が目にしたものは

鏡の前で裸の筋肉ダルマを相手に嬉しそうなリツコの姿

「ウソ、リツコ、あんたマッチョが好みだったの」

「こりゃまた、まずい所に踏み込んだみたいですよ、議長」

「むぅ、赤木博士。君の趣味をとやかく言うつもりはないが、せめて今は趣味よりも仕事を優先してくれないかね。いや、無理にとは言わないが・・」

「・・・」(ポー)一人顔を赤らめるナオコ

「・・・」×2(思わずうつむく軟弱男が2人)

後編へ続く


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