1997,10,23
渚の英雄伝説 −第13話−
敵、敵、敵、僕の敵
薄暗い部屋、長方形の机につく3人の男女、そして空席が4つ。
お誕生日席に座るブラウンシュバイク公キール・ローレンツ。その左右にベーネミュンデ公爵夫人赤木ナオコとアンスバッハ・加地リョージが向かい合わせに座る。
「諸君、今日集まってもらったのは他でもない。今後の我々の行動についてだが」
「皇帝を僣称するあの人形、それを操る銀髪の小僧。許しておくわけにいかないわ」
「なら殲滅しますか。でもどうやって?」
「そういう力仕事に打って付けの人物がいるではないか」
「某作戦部長ですか」
「あんな無能な女、あてになるものですか」
「いやはや、これは手厳しい。でも、他に誰か適任者がいますか?」
「勿論よ、入ってきて」
新たな登場人物が2人。
金髪、黒眉、泣き黒子、きっちり白衣まで着込んでいる。後ろにはショートカットの黒髪の女性がピッタリと付いてくる。
「何よ母さん、いきなり呼び出したりして。あら、加地君、お久しぶり」
「こいつは驚いたな、生きてたんだ。親子そろってしぶといね」
「誰がシツコイですって」
「母さん、そんなこと誰も言ってないわよ。それより今日は何の用件なの?」
「そう?あっそーだ、りっちゃん、カストロプはどーなったの?」
「ああ、アレね。この前の攻撃で、地軸がちょっと・・」
「ちょっとって、どーいうことよ。あそこはママの故郷なんだから」
「そんなに怒らないでよ。それに脱税してたのは母さんじゃない」
「りっちゃんだってやってたでしょ」
「私がやってたのは節税、見つかるようなヘマはしないわ」
「何よ、ママがヘッポコみたいな言い方しないでよ」
「あー、赤木博士」
「「はい?」」
「いや、ナオコ君。君ではなく若い方の」
「誰がバーサンですって」
「誰もそんなこと言ってないってば。はい、何でしょうブラウンシュバイク公」
「親子の会話に水を差してすまないが、放っておくと延々と続きそうなのでな。それと私のことは議長と呼ぶように」
「議長・・ですか」
「うむ、それでいい」
『はぁー。私のまわりって、こんなのばっかりね』
「何か言ったかね?」
「いいえ、それより私は何故ここに呼ばれたのでしょうか?」
「話の途中だったな。ナオコ君、説明してくれたまえ」
「りっちゃん。こっちは変わらず地下に潜りっぱなしです。支給のお弁当にも飽きました。上では第二遷都計画による第三新東京市の計画に着工したようです。」
「母さん、それシナリオが違う」
「なんだ、ちゃんとわかってるじゃない、話が早くて助かるわ。実戦指揮の件、勿論OKよね」
「イヤよ、そーいう力仕事は私のガラじゃないわ。ミサトの方がお似合いね」
「エ〜、りっちゃんまであんな能ナシを買ってるわけ?」
「ミサトはね、成功率の低い作戦しかたてられないけど、それでも勝つことができるのよ。とても私にはマネできないわ」
「ちょっとリツコ。それって誉めてくれてるわけ?」
新たな登場人物が更に2人。
藍色の髪、でかい胸、赤い色のジャケットをきっちり着込んでいる。後ろにはメガネのオールバックが続く。
「あら、いたの?」
「いたのって、アンタね」
「よっ、コンチまたご機嫌ナナメだね」
「ゲッ、カジ。アンタこんな所で何やってんのよ」
「一応、キール議長の懐刀って役割なんだけど」
「アンタみたいな抜き身の刀、よく平気で懐に入れとけるわね。持ち主の常識を疑うわ」
「あー、私の事を言ってるのかね」
「エっ、えー本日はお招き頂きありがとうございます。葛城ミサト・フォン・メルカッツ上級大将ただいま参上しました。まぁ、素敵なメガネですこと、サイバーな感じがアレですわね、オーホホホ」
「ミサト、アナタ、変わったわね」
「うむ、これかね。光コンピュータを組み込んであってな、コイツのおかげで不自由せずにすんでいる」
「・・・」
「新聞を読むにも、放して見る必要がない。便利な世の中になったものだ」
『老眼なのね』
「マヤちゃん、俺達って何なんだろうね」
「葛城さんがメルカッツ上級大将ですから、日向さんはシュナイダー少佐ですね。てっきり赤木先輩と私でやると思ったのに。でも、そうしたら私は本当に何なのかしら?日向さん、どう思いますか?」
「少佐、この僕が?葛城さんの副官。じ〜ん。嗚呼、我が人生に悔いナシ・・・」
「も〜、自分の世界でイっちゃわないで下さいよ〜。本当に私って何なのかしら」
「伊吹二尉はまだマシっスよ、俺なんか出番すらナイっスから」
「イヤー、変な声が聞こえるー!先輩ー!」
「どうしたの?マヤ」
「あーん先輩、今、変な声が〜。それと、私の存在っていったい何なんでしょう」
「マヤ、その件で話があるの。私の部屋で待っててくれない?用が済んだら私も行くから」
「誰が用済みですって」
「そんな事、誰も言ってないじゃない。本当にバーサンはシツコイわね」
「ハイ、先輩。じゃあ、私は先に行ってますから、必ず来て下さいね」
「キー、りっちゃん。あなたって娘はー」
「苦しいから、母さん、ちょっと首絞めないで」
「で、どう。最近つきあってる男いるの?」
「それがアンタに関係あるわけ」
「少佐・・・副官・・・葛城さん・・・」
「アンタなんか、アンタなんか」
「私の替わりはいないのよ」
「じつは遠近両用でな」
もはや収集のつかなくなった部屋の中。しかし、その喧噪を上回る勢いで開かれた扉。慌てて入ってきた男はロン毛。
「何事だ、今は重要な会議中だぞ」議長が一喝する。
「非常事態っス。全惑星規模での封鎖網がしかれつつあります」
「なんだと、どういうことだ戦闘員A」
「戦闘員Aっスか?」(泣き)
「状況は正確に報告しなさい」
戦闘員Aの泣きにも、同情の素振りを微塵も見せずに突き放すミサト。
「はぁ、何でも元帥府で爆弾テロ騒ぎがあったようで、元帥が空を飛んだとか、元帥の首が空を飛んだとかの怪情報が流れていますが、未だ確認はとれていません」
「ふむ、加地君、君の仕事か?」
「いいえ、俺は何もしかけていませんよ。葛城じゃないのか?」
「爆弾なんか爆発させて喜ぶ人間、誰だか決まってるじゃない」
ミサトのもっともな一言に、その場の全員の視線が集まる。
「・・・私じゃないわよ」
「別にリツコがやったなんて言ってないけどな〜」
「りっちゃん、偉いわね。それでこそママの娘よ」
「赤木博士、君の趣味に口を出すつもりはないが、少々ツメが甘かったようだな。結果として我々の立場を苦しいものにしてしまった。この責任とってもらうぞ」
「だから、私じゃ・・」
「全惑星規模の封鎖網、突破しないことには始まらないからな」
「あのカストロプからまんまと逃げ果せたアンタのことだから、何か逃げ道を確保してあるんでしょ?」
「そうなの?りっちゃん」
「あるには、あるけど・・・」
「やっぱ持つべきものは頼りになる友達よねー。で、どうやって脱出するわけ?」
「スタートレックでお馴染みの転送装置よ、私の部屋から軌道上の船まであっと言う間ね」
「流石は赤木博士。では諸君、ここはひとまず解散する」
リツコに先導されて部屋を後にする面々。さりげなくその面子に紛れ込むロン毛が約1名。
「何か忘れてないかしら?」
ふと、立ち止まり考えるリツコの背中をミサトがど突く。
「ほら、さっさと歩きなさいよ。後がつかえてるんだから」
その頃リツコの部屋では、シャワーを浴びて準備万端整えたマヤが、リツコの帰りを今や遅しと待ち構えていた。
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