1997,10,15
渚の英雄伝説 −第12話−
静止した闇の中で
アスカとカヲルの話は、まだ続いていた。
「なるほど、そういうことか。つまりアスカちゃんは僕の味方をしてくれるから、そのかわりマリーンドルフ家を今のまま認めよ、ということだね」
”アスカちゃん”呼ばわりにヒクヒクしながらも、なんとか笑顔を保つアスカ。
「そういう事よ。アタシはアンタに賭けたんだから、しっかりやってよね」
「いいのかい、僕を信用して」
「ブラウンシュバイク公かアンタか、どっちかを選ばなきゃいけないんだから、しょうがないじゃない。毒を食らわば皿までって言うしね。」
「それは誉めてくれてるのかな、感謝に値するよ。ところで、ひとつ聞いてもいいかな?」
「何よ?」
「どうして僕を選んでくれたの?」
「アンタが勝つから」
「どうしてそう思うんだい?」
「男のくせに、いちいち細かい事にこだわるわねー。いいじゃない、そんなことどうだって」
「そんなこと言わないで、教えてよ」
「カオよ」
「顔?」
「アンタのカオ」
「顔がどーかしたの?」
「どーみたって向こうの方が悪役だもの。アタシは正義とともに戦うのよ!」
「はぁー」
「何よ、その態度は。このアタシが誉めてあげてるのよ、もう少し嬉しそうな顔しなさいよ、まったく」
「はぁー」
「ところでさぁ、今度の皇帝、いったいアレは何者なの?」
「えっ、ユイ皇帝のことかい?」
「やっぱアレって、あの冷血女の子供なわけ?」
ガタン
「アスカちゃん、そういう事はちょっと僕の口からは・・・」
「やっぱりねー。アレはどう見たってそーだものねー」
ガタン
「いや。だから、その・・・」
「隠さない、隠さない。まぁアンタにとっては身内のハジを世間にさらしたくないって言うのもわかるけどさ。それにしてもあのヒゲメガネ、予想以上に鬼畜よねー。5才の娘がいる14才の未亡人だなんて」
ガタガタ
「アスカちゃん、そんな話をどこから・・・」
「なんかここにくる途中、テレビや新聞にいろいろ出てたわよ」
『シンジ君、僕が冗談で渡した情報まで流してしまったんだね・・・』
「ヒゲメガネに飽きたコブつき冷血女、今度はアンタの中将さんを狙ってるんだって」
バン
カヲルがどんなに頑張っても開くことのなかったロッカーの扉が、勢いよく開かれる。
『なるほどね、こういう方法があったのか。でも僕にはアスカちゃんのマネはできないな、命はおしいからね。』
「さっきからガタガタうるさいわね。いったい何なのよ」
背後に異様な気配を感じ振り向くアスカ。そこには何故か全身を血で真っ赤に染めた白い肌の少女。
「あはは、いるならいるって言ってよね。ちょっとカヲル」
かなりヤバイ雰囲気を感じ、慌てて助けを求めようとカヲルの方を振り向く。しかし、そこにカヲルの姿はなかった。
(カヲルは既に机の下に避難していたから)
カヲルが逃げたことを確認して、呆然とつぶやくアスカ。
「せっかくやったのに・・・・やだな、ココまでなの」
孤独のうちに己の死を覚悟するアスカであった。
「あなたは死なないわ」
背後からかかる意外な声、しかしその声は氷のように冷たい。
「・・ここは3階だもの」
カヲルの机の向こうには、大きな窓がある。外はいい天気だ。
「さよなら」
ドーン
「いやー、何よこれー」
「レイー、どーして僕までー」
ベチャ
壊れた窓のそばに立ち、地上を見下ろすレイ。その瞳には満足そうな輝きが浮かぶ。
執務室での騒ぎを聞きつけて、ヒカリとケンスケが駆けつける。そこには、床に延びたシンジに膝枕するレイ。二人とも血塗れである。部屋の中は荒れ、大きな木製の机が窓ごと消えていた。
「いったい、何があったんだよ」
「爆弾テロ、カヲルとマリーンドルフ伯が巻き込まれたわ。犯人は反皇帝派、全惑星に至急包囲網を敷いて」
「了解!」
レイの言葉を真に受けて、あわてて部屋を飛び出すケンスケ。歴史の歯車は、ひょんなことから廻り出す。
「綾波さん、その血は?ケガしてるんじゃない?」
全身を血で赤く染めている二人を心配するヒカリ。
「私は大丈夫。これは碇君の血だから」
−解説:静止した闇の中で−
それはシンジとレイがロッカーの中に消えた直後の出来事
(うわぁ、綾波まで来たの。ちょっと、そんなにくっつかないでよ)
(無理よ碇君、ここは狭いもの)
(だからって、そんな・・・・あっ)
(・・・)
密室、暗闇、綾波で脳が熱膨張しているシンジ。
碇君とひとつになりたいという思いだけが熱暴走するレイ。
二人の接触は
”シンジの胸に飛び込んだつもりが、おもいっきりシンジの顔面に頭突きをかましてしまうレイ”
というお約束な事態を招く
大量の鼻血を流して沈黙するシンジ。
全身にシンジの返り血?を浴びることになったレイ。
碇君の血、血、血の匂い
血の色は嫌い
・・・でもちょっと嬉しい
本格的にやばいぞ、レイ。
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