1997,9,10
渚の英雄伝説 −第8話−
嘘と沈黙
−NERV第3ケージ−
先日シンジが勅命を受けたのと同じ場所、玉座には同じように皇帝ゲンドウの姿がある。
「よくやったな、シンジ」ゲンドウがシンジに声をかける。
まさか、皇帝から誉められるなどとは考えてもいなかったシンジはどう返事してよいかわからずオロオロしていた。
それはともかく、シンジは勅命を果たし中将に昇進し、カヲルの元帥府でのナンバー2の座をゆるぎないものとした。
−NERV皇帝控え室−(そんなものあるのか?)
レイはここからシンジを見ていた。皇帝の言葉で舞い上がってるシンジはレイの存在に気がつかない。いつにも増して悲しげな表情を浮かべ、部屋を後にするレイ。
廊下を歩きながら自分自身の世界に入っていく。
「謀略、カストロプ動乱作戦」失敗
ますますカヲルと碇君を結びつけてしまったみたい
こういうのを藪蛇と言うのかしら
次はもっとうまい方法を考えよう
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「偽装、イゼルローン要塞奪回作戦」
カヲルを主力とした本体をイゼルローン要塞に向かわせて敵の目を集める
その間に碇君の別働隊がフェザーン回廊を突破して同盟首都星に迫る
カヲルにはイゼルローンでトールハンマーの餌食になってもらって
碇君はフェザーン占領の栄誉をつかんでもらおう
フフフ、これで完璧ね
運良くカヲルがイゼルローンから無事に帰っても
門閥貴族達をちょっと煽ってやれば・・・
危ない妄想に浸っているレイは、廊下の角で何かとぶつかり現実世界に帰ってくる。
見ると5才くらいの女の子が足下に倒れていた。この子とぶつかってしまったらしい。
「何するのよ、ばーさん」
女の子は起きあがりながらレイに向かって言う。
スパーン
すかさずレイの平手打ちが炸裂する。相手が幼女であってもレイに容赦はない。
「お姉さんでしょ」静かに諭すように話しかけるレイ。
その迫力に言葉を失う幼女。
「!」
幼女の顔を見て、レイはめったに見せることのない驚きの表情を浮かべる。
青い髪、白い肌、赤い瞳。
どこから見ても、自分の小さい頃にそっくりである。
その時、廊下の向こうから背筋がかゆくなるような猫なで声が響く。
「ユイちゃーん、何処でしゅか〜?」
その声の主が角の向こうから表れる。
銀河帝国皇帝フリードリッヒ碇ゲンドウその人である。
「ほわぁ!レイ!」
レイの存在が意外だったのか、文字通り飛び上がって驚くゲンドウ。
きつい目でゲンドウを睨むレイ。
「久しぶりだな、レイ」必死に威厳を取り繕うゲンドウ。
「この子、誰」静かな声で詰問する。
「親戚の子を預かる事になったんだ」
亡き妻、ユイの尻に敷かれていたゲンドウ。ユイの生き写し、レイの怒りの表情にも殊の外弱い。条件反射的に謝りそうになるのをグっとこらえる。
「名前は」
「碇ユイ」
「どうして私と同じ顔をしているの?」
「他人の空似というやつでは・・・」
「年はいくつ?」
「水槽から出て2週間くらい」
「ベーネミュンデ公爵夫人が亡くなったのも、ちょうどそれくらいね」
「そうだったかなー」
「私とはどういう関係なの!」
「遠い親戚にあたるのかなー、なんて」
「洗いざらい、全部白状しなさい」
「うう、ごめんなさい」
レイに対してとことん弱いゲンドウ。ついに抵抗虚しく全てを語る事になってしまった。
レイをゲンドウの下に引き取ったのが5年前。
ユイによく似たレイの姿に心を奪われるゲンドウ。
しかしレイはレイでありユイではない。ゲンドウに心を開くことはなかった。
なまじ姿が似ているばかりにユイに拒絶されたかのような衝撃をうけるゲンドウ。
ならば自分だけを見てくれるレイを作ってしまえと、レイのクローンの作成に着手した。
幸いなことに、ベーネミュンデ公爵夫人赤木ナオコはバイオ技術の権威でもある。
いやがる彼女をなだめすかし、5年の歳月をかけてレイのクローン「碇ユイ」は完成する。
完成するまで毎日ユイの水槽の前でニヤニヤしていたゲンドウだが、いよいよユイが水槽から出てくると、あまりのうれしさにすっかりフヌケと化しユイを溺愛する。そんなゲンドウの姿を見て、すっかり愛想をつかしたナオコはゲンドウの下を去る。愛妾に逃げられたとも発表できないので、公式には死亡したということにして取り繕ったのはまた別の話である。
レイは黙ってゲンドウの話を聞いている。その背後からは青白い怒りのオーラが立ち上るのを抑えることができない。それを見たゲンドウはあわててフォローを考える。
「あー、レイ。ほら、君の妹だよ」
「・・・」
ATフィールド全開
レイの心の壁にはじき飛ばされるゲンドウ。
「碇君が呼んでる」
そう言い残し、レイはNERVを後にした。
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