1997,9,04


渚の英雄伝説 −第7話−

アスカ、暴走!


−反乱討伐軍旗艦「初号機」医務室−

マリーンドルフ伯惣流アスカはベッドに身を横たえ、見知らぬ天井を見上げていた。彼女の意識が戻ってから、まだ5分もたっていない。

「私、生きてる」

コンコン。入り口の方からノックの音がする。続いてプシュと短くドアの開く音。更にコツコツと堅い軍靴の足音が2つ近づいてくる。

最初に視界に入ってきたのは、自分と同年代の男の子の姿。線の細い、まだあどけない少年の顔、それに不釣り合いなほど立派な軍服。

「あのー、大丈夫?」おずおずとたずねる声。

「アンタ、誰?」

「銀河帝国軍少将ジークフリード碇シンジ」

『少将?こんなさえない男の子が?少将っていったら艦隊指揮官クラスじゃ・・・』

突然、あることに思い至りベッドから飛び起きるアスカ。驚きで目を見はる目の前の少年の首に手を伸ばし思いっきり絞め上げる。

「アンタね、このアタシを殺そうとしたのは。いったいどーいうつもりなのよ」

「が、ぐう」いきなり首を絞められ、うめき声しかだせないシンジ。

「ちょっと、何とかいいなさいよ。だいたい人質がいるってのに、あんな無茶な攻撃しかけるなんて頭おかしいんじゃないの?」

「ぐ・る・じー」

「何よ、男の子でしょ。これくらい我慢しなさいよ。だいたいアタシなんか下でもっとひどい目にあったんだからね。あのリツコとかいう女、今度会ったらただじゃおかないんだから」

「・・・」

「ちょっと、わかってんのアンタ。なに死んだふりなんかしてんのよ」

「・・・」

「もうそれくらいで勘弁してあげてくれないかい?」

「なによアンタは」

「シンジ君の副官さ。それよりも、これ以上やると死んじゃうよ」

「フン、アタシを殺そうとした奴なんて死んで当然ね」
いっこうにシンジの首にかけた手を放す気配はない。

「言いにくいんだけど、そういう事を裸でやるのはどうかと思うよ」

「!」
初めて自分が何も身につけていないことに気づくアスカ。みるみる全身を赤く染めていく。

「出ていけバカァ!」
渾身の力をこめてシンジをカヲルめがけて投げつける。

シンジを受け止め全速力で撤退するカヲル。

「はあ、はあ、はあ」
病室には息の荒いアスカ一人が残された。

『あの男も、ぜったい殺す』




アスカの病室からシンジを抱えて撤退したカヲルは、すぐさま空いている病室のベッドにシンジを横たえる。

「まったく、なんて乱暴な娘なんだ。でも、彼女のおかげでこんなおいしい場面を迎えることができたのだから、感謝の極みだよ」
妖しい笑いを残すと、無防備にベッドに横たわるシンジの胸にそっと頬をあてる。

「おや、シンジ君の鼓動が聞こえないね」

シンジの胸から顔を起こしつぶやくカヲル。
「死んでるシンジ君より生きてるシンジ君の方が価値があるのさ、僕にとってはね。シンジ君の死、それが唯一の絶対的恐怖なんだ。僕たちには未来が必要だよ」
静かに錯乱するカヲルであった。

幸いなことに、シンジが臨死体験をしたところは医務室であり、緊急医療スタッフによる蘇生措置が速やかに行われ、シンジはその命をとりとめた。
一方、病室で暴れ回るアスカには装甲擲弾兵が投入され、ようやくのことでその身柄を取り押さえることに成功する。報告を受けてカヲルが面会に行くと、拘束具を引きちぎらんばかりに暴走するため、まともな話し合いは帝都につくまでされることはなかった。



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