1997,8,25
渚の英雄伝説 −第5話−
ちょっと、アタシを忘れてない?
−カストロプ動乱−
ことの発端は一週間ほど前、現カストロプ公の実母、ベーネミュンデ公爵夫人赤木ナオコが急死したことに始まる。
それまで皇帝の愛妾としてG計画に深く関わっていたナオコの急死。公式には事故死と発表されたが、その真相については様々な噂が語られている。
ナオコは生前G計画に関わると同時に、カストロプにおいて生体コンピューターを生産し莫大な利益をあげていた。そして当然のごとく所得隠しによる巨額の脱税も行っていた。
帝国税務署もその事実を確認していたが、皇帝の愛妾である彼女に遠慮がありこれまで何の対応もとらないままであった。それがナオコの死亡とともにカストロプ公赤木リツコに対し、過去の脱税分をすべて支払うよう請求がなされた。
これにキレたリツコは税金の督促に帝国から派遣されてきたマリーンドルフ伯を人質に帝国に対して反乱を企てたのである。
−カストロプ公国衛星軌道上−
銀河帝国軍少将ジークフリード碇シンジは反乱討伐軍指令として旗艦「初号機」の私室から艦橋に向かって歩いている。
ここまで討伐軍は何の抵抗も受けずに侵攻することができた。そもそも単一星系国家で、惑星守備隊程度の戦力しか持ち合わせていないカストロプ公国が反乱を起こす事自体が無謀なのである。しかし、地上の反乱軍はこちらからの降伏勧告になんの反応を示さず、徹底抗戦の構えを見せている。
「さて、これからどうしよう」
そうつぶやきながら艦橋にはいるシンジ。
艦長以下、艦橋搭乗員が敬礼で迎える。
「待っていたよ、シンジ君」
「うわぁ!」
驚きの声をあげるシンジ。
艦橋にはここにいるはずのないカヲルの姿があった。
「カ、カヲル君。どうしてここにいるの?」
「違うよ、今の僕の名前はベルゲングリューン。君の副官さ」
「ど、どうして・・・」
「僕は困ったシンジ君のミカタなのさ」
「そういいながら、メガネをかけるのはなぜ?」
「だめなのかい?」
「そういうわけじゃないけど」
うやむやのうちにカヲルの存在を認めてしまう。
正直、これかの展開を考えると不安でたまらなかったシンジはカヲルがいてくれる事に感謝していた。
−惑星地表 カストロプ公公邸−
「ちょっと、あんたバカ?帝国にさからって無事でいられると思ってるの」
人質の立場をわきまえず吠えまくるマリーンドルフ伯惣流アスカ。
「いったい私をどーするつもりよ」
「別に、危害を加えるつもりはないわ」
冷静に答えるリツコ。
「ふん。私を人質にしたくらいで帝国が兵をひくとでも思ってるの」
「もちろん、思ってないわ」
「ふぇ?」
「さぁ、これに着替えて」
「なによ、この紅いレオタードみたいなのは」
「プラグスーツよ」
それまでさんざん悪態をついてきたアスカの顔から血の気がなくなる。
「アスカ、あなたは人質じゃないわ。私たちの最後の切り札、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンのパイロットなのよ」
突然、アスカの足下の床が割れる。
「いやー、何よこれー」
落とし穴に虚しく消えるアスカの悲鳴。
行き着く先はエントリープラグである。
無理矢理エントリープラグに押し込まれるアスカ。
いつの間にかプラグスーツに着替えている。
モニタースクリーンの一部にリツコの映像が映し出される。
「アスカ、準備はいい?」
「いいわけないでしょ。だいたいどーやって動かすのよこれ」
「あなたの考えた通りに動くわ、心配しないで」
「へぇー、すごいもん作るじゃない。でもなんとかならないのこの格好」
アスカはプラグスーツ1枚でいることにとまどっている。
「せめてヘルメットくらい欲しいところよね」
もっともな意見である。
「準備、いいわね。そろそろ行くわよアスカ」
返事も待たずにカタパルトから打ち出す。
突然の衝撃にも負けず叫ぶアスカ。
「アスカ、弐号機発信しまーす」
けっこうその気のアスカであった。
轟音と共に地上に舞い降りる弐号機。
と、その時何かに気づくアスカ。
「ねぇ、この背中から生えてる命綱みたいなのは?」
「アンビリカルケーブル。外部から供給される電源よ」
「えーっ。信じらんない。これってコンセントさして動いてるの」
「しかたないでしょ。反応炉抱えて格闘戦したい?」
「でも、もしコンセント抜かれたらお終いじゃない」
「アスカ、今の発言はトップシークレット。他言無用よ」
「あんた、本当に頭いいの?」
小声でつぶやくアスカ。
「で、敵はどこなの?」
「衛星軌道上よ」
「あんたバカ?どーやってここからそんな遠くの敵をやっつけるのよ。ロケットにでも
乗って飛んでけって言うの」
「ポジトロン・スナイパー・ライフルがあるわ。計算では衛星軌道上の敵にも有効なはずよ」
「へぇー。やればできるじゃない!」
すっかり反乱の片棒を担ぐアスカ。
嬉々としてライフルを構える。
「さって、いくわよ。目標をセンターに入れてスイッチと」
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