1997,8,09

渚の英雄伝説 −第3話−

銀河帝国皇帝の居城、NERV。そこにはいくつもの謁見室がある。
そのひとつ「第3ケージ」にローエングラム伯カヲルはいた。
先の戦いにおいて、圧倒的に不利な状態を覆しての大勝利に対して、帝国元帥の地位が 与えられようとしている。

玉座の前に進み膝をつくカヲル。
銀河帝国皇帝の声が頭上に響く。

「見事な戦いぶりだったな、ローエングラム伯」

玉座の肘掛けに両肘をつき、やや前屈みになり顎の前で両手を組む。
赤いサングラスの奥から冷ややかな目でカヲルを見下ろす人物。
銀河帝国皇帝フリードリッヒ碇ゲンドウ。

ななめ後方には国務尚書リヒテンラーデ侯冬月コウゾウが直立する。

きざはしを上り、最敬礼とともに辞令を受け取るカヲル。
瞬間、カヲルの視線と皇帝の視線が交錯する。

「久しぶりにレイに会っていけ。あれも喜ぶ」

「はい、お言葉に甘えさせていただきます」

権力にまかせて彼から姉を奪った張本人が目の前にいる。
カヲルは華やかな笑顔をうかべながら心の中だけでつぶやく。
『もう少し、あと少しで手が届く。待っていてくれレイ』



カヲルが退室するのを見送るゲンドウ、その背後から冬月がささやく。

「よいのか碇」

「何がだ」

「レイの弟とはいえ、あんな得体の知れない奴にあれほどの権力を与えて」

「ふっ。問題ない。すべてはシナリオ通りだ」

「本当にシナリオ通りでよいのだな?」

(冬月、心の声)
『死ぬつもりか、碇』

「われわれに残された時間は短い」(ニヤリ)

ゲンドウの心の内は、冬月といえどはかりがたかった



ジークフリード碇シンジ大佐は式典に参加する資格を与えられていなかった。
彼は控え室で缶コーヒーを飲みながらカヲルを待っていた。

「甘いや、これ」
顔をしかめてつぶやくシンジ。

その時、控え室の扉が開いて、いつもの微笑みを浮かべたカヲルが入ってくる。

「やあ、僕を待っていてくれたのかい」

「そりゃそうさ、ここで待っていろと命令したのはカヲル君じゃないか」

「きょうは?」

「この後は綾波の所に報告に行くんだろ」

「帰る家、ホームがあるという事実は幸せにつながる、よいことだよ」

「わけのわからないことを言ってないで、早く綾波の所に行こうよ。陛下の許可は もらったんだろ?」

「僕は君ともっと話がしたいな、一緒に行っていいかい?」

「だから、早く綾波の所に行こうよ」

「シャワーだよ これからなんだろ」

「・・・・・・」

「だめなのかい?」

「そういうわけじゃないけど・・・」


グリューネワルト伯爵夫人綾波レイの館は、NERV敷地内の一角にある。
深い木立をぬけ、キラキラとオレンジ色に輝く池のほとりに立つ瀟洒な洋館。
レイはその入り口の前に立ちカヲル達を待っていた。

「レイ!」(カヲル)
「綾波!」(シンジ)
レイに向かい駆け寄る二人。

「レイ、君がグリューネワルト伯爵夫人だなんてね」
「綾波・・・」
「・・・碇君」

「まあ僕も帝国元帥なんて偉そうな肩書きをもらったけど」
「元気だった、綾波」
「・・・うん」

「実際の所、他人からどのように呼ばれようと問題じゃないんだ」
「すこし背、延びたかな」
「そう?・・・そうかもしれない」

「欲しかったのはレイを僕たちのもとに取り戻す力なのさ」
「綾波の顔を見たら、なんだかほっとしちゃった」
「どうして?」

「レイ、もうそんなに長くは待たせないよ」
「ぜんぜん昔と変わってないから」
「・・・何を言うのよ・・・」

「・・・・・レイ」
僕はここにいてもいいのかと考えはじめるカヲル。

「立ち話もなんだから、中に入ってもいいかな?」
「うん」

「そうだカヲル」
初めてカヲルに目をむけるレイ

レイの視線を受けて強ばりかけていた表情が緩む
『僕はここにいてもいいんだ』(カヲル)

「地下室にケーキがあるから取ってきて」

それだけ言って、再びカヲルの存在を忘れる

「入って、碇君」
「じゃあ、おじゃまします」

「常に人間は心に痛みを感じている。心が痛がりだから生きるのをつらいと感じる」

つぶやきながら地下室に向かうカヲル。
彼の心もまたガラスのように繊細であった。



レイ、心のむこうに


今日は碇君が私の家に来るの。(カヲルも来るけど)
カヲルの式典が終わってからずいぶんたつけど、何してるの?
すこしでも早く、早くあいたい
だから、ここにいるの
玄関の前に、1時間も前から
早く来て、碇君

「レイ!」(カヲル)
「綾波!」(シンジ)

来てくれた、こっちに走って来る

「レイ、君がグリューネワルト伯爵夫人だなんてね」
「綾波・・・」
「・・・碇君」

ここまで一生懸命走ってきてくれたの、すごい汗

「まあ僕も帝国元帥なんて偉そうな肩書きをもらったけど」
「元気だった、綾波」
「・・・うん」

頬にも血の気がさして、なんだかお風呂上がりみたい

「実際の所、他人からどのように呼ばれようと問題じゃないんだ」
「すこし背、延びたかな」
「そう?・・・そうかもしれない」

めずらしい、カヲルの顔色がこんなにいいなんて

「欲しかったのはレイを僕たちのもとに取り戻す力なのさ」
「綾波の顔を見たら、なんだかほっとしちゃった」
「どうして?」

カヲルの髪、濡れてる。この子が汗なんてかくはずないのに

「レイ、もうそんなに長くは待たせないよ」
「ぜんぜん昔と変わってないから」
「・・・何を言うのよ・・・」

まさか、本当に2人でお風呂に入っていたの?

「・・・・・レイ」
「立ち話もなんだから、中に入ってもいいかな?」
「うん」

私だって、一緒に入ったことないのに・・・

「そうだカヲル」

いけない、このままじゃ碇君が間違った道を歩んでしまう

「地下室にケーキがあるから取ってきて」

ケーキはセントラルドグマよ、頑張ってカヲル

「入って、碇君」
「じゃあ、おじゃまします」

とにかく、これいじょう碇君とカヲルを二人きりにはさせない

碇君は私が守るから


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