「・・・ですから、先生がたも・・・・」

けだるい朝の定例職員会議、職員室の真ん中でただ一人教頭が熱心に話をしている。

でもその間僕はボ〜と机の上に飾ってある鉢植えをただ無心に眺めながら、ここ2・3日の

事を思い出していた。




シンジの想い

華王



その日は僕が顧問をしている部活のために少し遅めに家に帰ると、アスカが珍しく先に帰宅

していてしかも様子がどうも変だった。

確か予定では今日は遅くなる予定だったはず、と思いながら僕は黙って晩御飯の支度を始め

た。

僕は晩御飯の支度をしていても、僕にはアスカの様子が気になってTVを見ている姿をチラ

チラと盗み見した。

TVを見ているアスカは僕に冷淡に接しているのに何時もの姿ではなく。妙にそわそわして

落ち着きがなく、どうもなにかの機会を探ってるみたいだった。

やがて晩御飯が出来上がり、一緒に晩御飯を食べてる時もなんか心ここにあらずのようだっ

た。

僕はそれがなんなのか解からなかったけど、夜になってアスカが部屋に入ってきて僕に抱か

れた後に婚姻届を差し出してそれがハッキリした。

最初はアスカが僕にやっと心を開いてくれたのかと思ったけど、僕の「アスカこれ?」の言

葉に続いてアスカの口から発せられた「サイン」とい感情のこもらない言葉でそれが違う事

である思い知らされた。

「・・・・・解かった」

心のなかでは釈然としないモノがあったがこれもアスカの復讐なんだと理解して。

僕は婚姻届の自分の欄にサインをした。

「はい」

サインを書き終えると、アスカに婚姻届を手渡した。

アスカは暫くのあいだ受け取った婚姻届をじっと見つめていた。

そして確認し終わると、アスカは裸のまま後ろを向き僕の部屋から出た行った。

そしてあと襖を後ろ手で持ちながら、顔だけ僕の方に向けて

「気持ち悪い。」

といつものように呟き、そのまま自分の部屋に帰っていった。

僕はその後アスカの出した婚姻届の意味について考えていた。

なぜ今になって出したのだろう・・・・

でも僕にはどうして解からなかった、しばらくして眺めていた天井が霞んでいたので自分が

涙を流しているのに付いた。

アスカは次の日の朝、自分で作った朝食も食べずに家を出て出社する前にさっそく市役所

に婚姻届を出しに行ったみたいだった。

その様子は僕から見ても変だった、あんなにすぐに婚姻届を出をしたいなんて・・・

でもなぜなんだろう?僕の事をあんなに嫌っているのに。

まだ、その時アスカの想いを知らなかった僕はそんな事を思っていた。

そして朝食を食べながら、夫婦になるのは意外と簡単だな〜と思った。

僕は、なんか夫婦になるにはもっと難しい事か、何かあるのかなと考えていた。よく考える

かなり幼稚な考えだと解かるはずなのに。

だからアスカがそんなに焦っているのが解からなかったのかもしれない。



その日は、アスカが何時もより早く家を出てしまったので僕も早く学校に行く事にした。

食べていた朝食を流しに片づけ、着替えるために自分の部屋へと戻って行った。

部屋に戻ると、立てかけてある背広を取って着替え、鞄を取って中身をチャックしてから本

棚に隠してあるマユミさんの写真に「行ってきます」と小声で挨拶をしてから部屋を出た。

リビングに行くと、カギとガスのチェックをしてから壁に立てかけてある時計を見ると時間

がかなりあったので、いつもの車ではなく健康のために歩いて行くことにした。

気持ちいいな〜。

久しぶりに歩く朝の街はとても気持ちのいいものだった、いつもは騒がしいはずの街の騒音

もこの時間帯だとまったくの無縁で今は街全体がひっそりと静まりかえっている。

静かだな、そう思いながら歩いているとよく行く商店街にさしかかった。

そして僕の視線にある一軒のお店が目についた。

そこはウエディングドレスを取り扱ってるお店だった。

綺麗だな・・・ウインドウに飾られている、マネキンが着ているウエディングドレスは朝日

に照らされて可憐で清楚でとても美しく見えた。

いいな・・・思わずそんな言葉が出るくらい、朝日に照らされたウエディングドレスは綺麗

だった。

アスカ・・・着たいのかな・・・僕は昨日の事を思い出してそう思った。

やっぱり女性だから着たいよな・・・ウエディングドレスを着たアスカも見てみたいし・・・

よし帰りにパンフレットを貰って帰ろう。

僕はそう決めると学校へと歩き始めた。

そう言えばこうして歩いて中学校に行くなんて、9年ぶりだな。

学校に近づくにつれてそんな事が僕の心をよぎった。

あの時は僕の周りにアスカや綾波やトウジやケンスケや洞木さんが居たんだな、短い間だと

マユミさんとマナもいたのに、今は一人か・・・・

そう思いとなんか悲しい気持ちになってきた。

そう考えると僕はあまりにも多くのものを失ったのかもしれない、たとえそれが避けられな

い運命だったとしても・・・・



「おはよう、碇先生!なんか元気ないぞ!」

僕がそんな考えに沈んでいると、後ろから誰かが抱き付いてきてそう話かけてきた。

僕が慌てて振り替えると、背中に一人の女子中学生が抱き付いていた。

彼女は僕と目が合うとニッコリ微笑んできた、呆気にとられてた僕もしょうがないから彼女

に多少引きつりながらも微笑み返した。

後で考える、朝っぱらから青年が中学生に後ろから抱き付かれて顔う向き合せて微笑み合っ

ている様子はかなり妖しいものだった・・・・

僕はしばらくは呆気に取られていたが、少し正気に戻ることができなんとか教師の威厳を取

り戻すために怒ることにした。

「いきなりなにをするんですか、朝霧さん。だめですよそんな事したら。」

「だめだよ碇先生、急に真面目になっても。」

どうやら彼女の方が一枚上手のよだった。

彼女は朝霧 真由美(マユミ)と言う名前で、僕が担任をしている2年B組の学級委員長を

している子で外見はホクロの無い山岸さんそのものだった、でも性格は昔のアスカと霧島さ

んを足して2で割ったような感じだけど。

僕が初めて朝霧を見た時は思わすマユミさんと、声をかけてしまったくらいあまりにも似て

いた。

「先生よく私の名前知ってるね。」

て朝霧は笑って言ってたけど。

しかも関係がそれだけではなく、その後も朝霧が僕のクラスの学級委員長になったり。

僕が顧問をしているアーチェリー部に朝霧が入部した事で、さらに仲がよくなってしまった

のだった。

でも僕は朝霧の姿が今でも好きになれていなかった、朝霧の姿を見ているとマユミさんが僕

に『早く私を迎えに来て』と責めているような気がして。

そして中学の時に起きたいろいろな出来事を思いだすから、だから気が付くと自然と朝霧を

避けている自分に気が付くことがある。

だからこんな朝早くから朝霧に会うのはかなりの苦痛だった。

「うん?どうしたの碇先生大丈夫?気分でも悪いの?」

そんな事を知らない朝霧は、心配して僕の顔を覗き込んでくる。

「いやあ、大丈夫だよ。」

と朝霧を気がつかれないように視線の外にはずしながら、口ではそう言う。

「そうかな、まあいいや。ねえねえ碇先生聞いてよ。」

朝霧は少し不思議そうにしていたが、あまり気にしないみたいだった。

そして、僕は朝霧の話しを聞きながら二人して一緒に登校したのだった。

そして僕らは、朝霧の話のネタが尽きてきたころちょうど学校の前に着いた。

「じゃあね、碇先生。職員会議が終わったら日誌取りにいきますから」

校門に着くと、朝霧はそお言い残し僕に手を振りながら生徒用の玄関に向かって一人で歩き

始めた。

「フ〜」

朝霧が居なくなると思わずため息が洩れた、やっぱり一緒にいると緊張してるみたいだな。

ぼくはそんな事を思いながら職員室へと歩き始めた。

職員室に行くとまだ朝早いせいなのか他の先生方はあまり来ていないらしく、人影はまばら

だった。

自分の席に座ると、端末を起動してからメールのチェックをする。

父兄からのメールが何通か着ていて、その全てが前回の中間テストについての内容だった。

親は子供に関しては心配症なんだな、と内心笑いながらメールが来ていた親の子供の成績一

覧表を呼び出してメールの内容と確認する。

一人極端に成績が下がっている生徒がいるので、これは対処した方がいいなと思い返事のメ

ールを書き。本人にも面接をする予定を組んだ。

これで終わりかな、と端末の電源を切ってから鉢植えに水をあげるためにコップを片手に席

を立った。

給水室で、コップに水を酌んでから自分の席に戻ると隣りの席の潮先生が来ていた。

「おはようございます」

と鉢植えに水をやりながら挨拶をする。

「おはよう、シンジくん」

潮先生もそう挨拶を返した。

潮先生は本名 潮 祢琥(うしお ねこ)といい、僕の高校時代からの仲のいい友達だ。

潮の印象は名前のとうりネコで、髪をいつも短くカットしていて活動的な女性なので名前どう

りネコといったのが第一印象だった。名前の由来は父親が大の阪神ファンだかららしい。

性格はさばさばして細かい事には拘らない男っぽい性格をしている、でも本当は繊細で優し

い性格なんだけど。

潮とは高校、大学、職場と一緒でもう腐れ縁といった間柄になっている

「今日も朝から鉢植えの水遣りかいシンジくん。」

そして潮は僕のことをシンジくんと呼んでいる、なんかそう呼ばれるとカヲルくんの事を思

い出すんだけどね。

「うんそうだよ、でももうそろそろ花も終わりかな。」

「そうだ、でもこの春はその植木に楽しませてもらったからね。」

「うん、残念だけど十分楽しんだからね。」

「まあ、また来年咲くからからそれまで待てばいいなからね。」

「そうだね。あ、これ頼まれてた書類。」

そう言って僕は鞄から書類の入ったフロッピーを取り出した。

「ありがとう、シンジくん。お礼に晩御飯をごちそうするよ、今日はアスカさん遅番の日

だったよね。」

「うんそうだけど、今日は用事があって駄目なんだ。明日でいいかな?」

「ああ、別にかわないよ。じゃあ明日で。」

「うん。」

僕は鉢植えに水をやり終えると席に座って今日の授業の準備を始めた。

そしていつものように職員会議が始まるのだった。



その日の僕は早く学校を引き上げ、朝見たウエディングドレスを取り扱ってるお店に行きウ

エディングドレスと結婚式場のパンフレットをもらった。

そして指輪を買うためにギュエリーショップに行き、安物だけどプラチナの指輪を買った。

でも指輪の値段を見て確かに給料三ヶ月分に設定されてるのは驚いたな。

あとケーキと花束と買った。

そして帰りの遅いアスカのために豪華な晩御飯を作る事にした。

そして夜遅くアスカが帰ってきた。



第4話 結婚指輪へ

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