私はシンジの部屋をあとにして自分の部屋にもどると、シンジがサインをした婚姻届を見つ

めながら思った。

これであの女に勝てる!

たしかにその時私はそう思っていた。





アスカの想い

華王



私は婚姻届を大事に畳んで封筒に仕舞うと、かぎ付きの引き出しにそっと仕舞い込んだ。

そしてかぎをかけ開いてないかどうか何度も確認をする。

何度か確認し終わって安心すると、身体を洗うためシャワーを浴びにいった。

脱衣所に行くと長い髪が邪魔にならないように髪を軽くポニーテールみたいに結い上げる。

鏡の隣りにある引き出しを開け、中から赤いゴムを取りだす。

そのゴムを唇で咥え、そして両手を後ろに伸ばし髪を掻き揚げその根元を咥えていたゴムで

縛った。

一連の作業を終えると、フッと鏡に映る自分の姿に視線がいった。

そこには一人に女が映っていた。

そう成熟した一人の女が・・・・

思わず私は顔をそむけた、いやだ・・・

私は大人が嫌いだったそして私は思う、なぜ私は大人になったのだろう?と。

子供の頃は早く身も心も大人になりたいと思っていた。

そして周りの大人に認めてもらおうと、自分なりに一生懸命背伸びをしていた。

たとえその行為が周りから煙たがれてたとしても。

そして大人になった今は、その薄汚れた大人になった事を悲しんでいる。

大人になる事の本当の意味を子供の頃は考えもしなかった。

大人になることは薄汚れるコトだということを・・・・

私はできるだけ鏡に映る自分を見ないようにしながら浴室へと入っていった。

浴室に入ると、シャワーを浴びるために蛇口を右方向にひねる。

サ―――――――――――

シャワーの蛇口からお湯が勢いよくでてきて、浴室の鏡が湯気で曇る。

これでここでは自分の姿を見ることはない。

そう思いながらシャワーで身体を洗い流す前に、私はそっと自分の身体に触わる。

その身体は完全に成熟した大人の身体・・・

身体に触わると情事の後の軽く火照った様子が、微熱となって手にその感触を伝える。

この身体についさっきまでシンジが触れていた。

そう思うと、身体に付いた残滓でさえいとおしく感じる。

そして赤く腫れた愛撫の跡を指で軽くなでる。

シンジが私を愛した跡を・・・・

私は愛撫の後を指で軽くなでながら思う、でも愛してるのはこの身体だけね・・・

身体だけで私の心までは愛していない・・・

夜、私を抱きながらいつもシンジの瞳は私を通りこして遥か遠くにいるあの女を見てい

る・・・

もしかしたら・・・シンジの瞳にはこの私があの女に見えているのかもしれない・・・

イヤダ!

そんなイヤダ!シンジには私だけを見ていてほしい。

シンジには私の心も身体も全部見ていてほしい。

ちがう女なんか目もくれないで、私だけを見ていてほしい。

気が付くと私は涙を流していた、それに気が付くと涙をそっと指ですくう。

そして熱いシャワーを顔にあてて完全に涙の跡を洗い流した。

フゥ

思わずため息が洩れる、駄目ねまだまだ弱いな私。

一人になるとつい感情が心から溢れ出てくる、いつもシンジにたいしてあんな態度を取って

たら私の事なんか好きになるはずないのに。

でも私には冷たくあたる以外に方法がなんだから・・・・・

もしも、私が優しくしたらたぶんシンジは自分の罪が償えたと思ってあの女の所に帰ってい

ってしまうかもしれない。

そう、シンジが一番好きなあの女のところへと・・・・

それが解かっているからシンジに対して冷たくあたる・・・たとえそれが自分達の心の傷を

さらに深くしていると解かっていても。

それでも私はシンジと一緒にいたい!





惣流・アスカ・ラングレー・ 23歳、誕生日は12月4日第三東京大学法学部卒

現在、三笠弁護士事務所所属 現在富士櫻銀行担当 弁護士歴4年 国籍 現在は独逸

これが現在の私。

私はEVAを降りた後、将来弁護士になろうと思った、いやそう心に決めた。

とくにたいした理由はなかったけど、弁護士になって世の中を良くしていこうと思ったのが

一番の理由なのかもしれない。

だからシンジと少し離れても飛び級して弁護士になった。

でも、今は弁護士という仕事に幻滅している。

実際の仕事で無実の罪の人を救うなんて事はなく、いかに容疑者の罪を軽くするかや、人の

欲望や醜い争いの後処理がほとんどだった。最悪の場合はどう見ても事件の犯人なのに検察

の出した証拠のアラを見つけたり、証人を上手く誘導し有利な証言をさせ無罪にする事もあ

る。

こんな仕事ばかりしていると、弁護士という仕事が実は一番汚い職業だと嫌になるほど解か

る。

そんな事を四年間もしていて辞めようかと思いはじめてた矢先あの事を知ったのだった。

その時私は仕事の有能さを認められ、民間訴訟や刑事事件の担当から会社の富士櫻銀行の顧

問弁護士補助に移った。

これで仕事も少しは良くなるかと思ったがそうではなかった。

初めての顧問弁護士としての仕事は、とある支店長代理の横領の内密の処理だった。

銀行は意外と横領が多いらしく初めての仕事としてはまあ妥当な代物らしい。

私はその仕事を一週間で処理し、その報告を三笠代表と人事課長の野分さんに処理内容を

報告した。

三笠 巌は私の勤めている三笠弁護士事務所の代表で、日本でも指折りの弁護士だ。

セカンドインパクトの前からかなり名の知れた人物で、一代で三笠弁護士事務所を日本有数

の弁護士事務所にした手腕は私でも凄いと思う。

でも外見はまあ平凡なお年寄りといった感じだが、そんな三笠代表は私の提出した報告書を

じっくりと読み、一部修正を加えるだけでOKをくれた、まあ始めてとしては合格らしい。

その後修正を加えると、野風課長に会いに富士櫻銀行本社に向かった。

私は事務所の駐車場に止めてある自動車に乗り込み、ゆっくりと発進させた。

自動車を運転しながら私は弁護士バッチを外す。

今回の依頼は特に内密にとのことだった、どうやら少しマスコミに嗅ぎつけらかなり深刻

な事態になりそうだったみたいだ。

まあ、私が上手く処理したから表沙汰になる事ないと思うけど・・・

車を銀行から少し離れたパーキングに止めサイドブレーキを引く、そしてバックミラーを自

分の方に向け化粧をチャックする、少し口紅が薄いかったのでサイドボックスを開け口紅を

取り出しゆっくりと唇に塗る。

口紅を塗り終わると口紅と鏡代わりに使ったバックミラー元にもどす、助手席にある書類と

ハンドバックを取るってドアを開け銀行に向かって歩き始めた。

オフィス街をしばらく歩いていて私は妙な視線に気がついた。

すれ違うたびに、男どもが私に見とれてるみたいだった。

まあ、こんなお昼どきに制服を着ていないOLが歩いていたら嫌でも目立つし。

こんなスタイルバツグンの美人が颯爽と歩いていたら男の視線が集まるのも無理ないか。ま

あ見るのはタダだし、でも目立つのはマズイかな・・・と考えながら少し早足にした。

富士櫻銀行に着くと、まず受付に行き約束が入っている事を確認し野風課長の所在を確認し

た。

在社中だと確認すると、連絡を取ってもらった。

しばらく受け付け係が話し込んで課長室に行く事になった。私は来訪者用IDカードを貰い

それを胸に付けると課長室に行くためにエレベータに乗り込んだ。

エレベータは30階に止まった、私はトビラが開くと同時に出て課長室に向かう。

課長に特別な部屋が与えられたてるのは少し変な感じがするが、人事課長という特別な仕事

を考えると当然なのかもしれない。

課長室の前に行くとドアをノックする。

「どうぞ」

部屋の中から返事がして、失礼しますと返事をしながらドアを開けた。

部屋に入ると書類整理をしている姿が目に入った。

野風課長は顔だけこちらに向けると、

「ああ、おはようございます、惣流さん。すみまっせんがチョット手が離せないので五分程

お待ちいただけますか。」

と書類に眼をもどしながら言う。

「ええ、かまいませんよ。」

私はそお言うと来客用のソファに座った。

閑だったので野風課長の様子を見る事した。

たしか歳は今年で36歳。まあその歳で人事課長という要職に就くくらいだからかなり優秀

だという事は考えなくても解かる。まあルックスは中の上か上の下とといった所かな。

まあ見た目はぎりぎり20代と言っても通るくらいだからかなりモテルようだった。

それに隔日でジムに通ってるらしくかなり逞しい体つきをしている。

確かにかなりモテルだろうな〜と考えられた。

性格はまだ4回しか会ってないがなかなか性格もいいみたいだ。それにまだ独身だから社内

でも人気が高いみたいだ。

そんな私の視線に気が付くと野分課長は顔を上げると。

「惣流さん照れるかそんなに見つめないでくださいよ。惣流さんみたいな美人に見つめられ

ると仕事に手が付きませんよ。」

と笑いながら言う。

どうやら茶目っ気も十分あるみたいだ。

「ならじっくりとお顔をじゃ拝見しないと。」

私も笑いながら言うと、立ち上がって机の方に歩いていった。

見る気はなかったが、机に近づくにつれ整理している書類が眼に入ってきた。

そして私はその書類をみて思わず立ち止まった。

そこにはそうあの女が写っていた。

あの女を写真でも見るのは9年ぶりだった、そしてその写真を見た瞬間私の心に激しい恐れ

と、嫉妬が渦巻いた。

写真としては微笑んでいる女性が写っている平凡な写真かもしれない。

でもそれは私嫉妬させるのには十分だった、その微笑みはまさに穢れなき天使のよう。

薄汚れた私とはまるで違う・・・

その時、突然野風課長が声をかけてきた。

「あれ、惣流さん。山岸くんの事知ってるんですか?」

どうやら、私が熱心に写真をみているのが気になったようだ。

一瞬騙そうかと思ったけど、人事課長をしてる人を旨く騙せるとは思えなかったので。嘘を

含んだホントの事を話すことにした。

「ええ、知り合いと程ではないんですけど。中学の時に山岸さんが一週間ほど転校生として

同じ学校に通ってたんですよ。あと、共通の知り合いがいたので短い間でしたけど少し仲良

くしてものですから。この写真をみてつい懐かしくなってしまって。」

「そうなんですか、ならよかったですね。今度山岸くんはこちらに転勤になるんです。

ほら、この前鳥海専務付の秘書だった八雲くんが寿退社したんでその代わりなんですけど。

でもよかったですね、山岸くんも知らない土地に来て知り合いのいるいないではだいぶ違

いますからね。

でも、山岸くんはかなり優秀みたいですね。社内評価によると総合でA+ですよ。点数で

みても97点ですからね、将来が楽しみですよ。

とくに情報処理の能力が・・・・・・」

私はそんな野風課長の言葉を来てはいなかった。

あの女がここに来る・・・

私の心のなかでその事だけがクルクルと回り続けている。

あの女がここに・・・・

私はその事に恐怖した、その事がどんな結果を産むか。

シンジを取られる!

その時嫌な考えが浮かんだ、そうだ結婚すればいい。

結婚すればシンジを取られなくすむ。

そう考えるといくぶん心が軽くなった気がした、でも心のどこかでそれは違うと言っている

気がする・・・・・

私はそれをあえて無視した、たぶん自分でもそれが本当は一番正しいと解かっていても。

私はそう自分の気持ちを押え込むと仕事の話へ戻っていった。

でもなかなか仕事に集中する事ができない。

仕事は内密に処理した事の事後報告だけだからそれほど手間のかかるものではなかった。

そんな仕事に集中できない私をみて、野風課長は体調を崩したようだと勘違いしたようで

早めに終わらせてくれた。

私は内心感謝しながら、すみません体調を崩したようでと謝りながら課長室を後にした。

そしてエレベータに素早く乗り込み、受付で来客用IDカード返却し。

そして急いで自動車の所までたどり付くと、急発進させ市役所へと車を走らせた。

私は運転しながらまだ心が乱れてるのが解かった。

助手席に放りだしてある携帯を取り、事務所に仕事が終わった事と調子が悪いので早退

させてもらうと連絡をいれる。

携帯の電源を切りながら思う、やっぱり恐いのかなと。嫉妬よりも恐れの方ががやっぱり強い

みたいだ。

やっぱり私は穢れた大人なのね・・・

そんな事を考えている車はいつのまにか市役所に着いていた。

自動車を駐車場に駐車させるとすぐ車から降り、市役所の中に入って行き受付の所に置い

てある婚姻届をてに取った。

「これね」思わず独り言がもれる。

その婚姻届を丁寧に折り畳むとバックから封筒を取り出し、そこに仕舞ってバックに入れる。

車の戻ると自宅へと発進させた。

でも、自宅に戻ってから私は途方にくれていた。

「どうやってシンジに話せばいいの?」と

家に帰ってからはそればかりを考えていた。

そして婚姻届がしまわれている引き出しをボンヤリと眺めていた。

いくらなんでもシンジが帰宅したあと話を持ち掛けるのは、どう考えても不自然だったし。

食事が終わったあとに切り出すのも変だ。

ではどうしたらいいか、結局シンジに抱かれた後に何も言わずに差し出してサインを貰う事に

決めた。

そして夜になると、私は婚姻届の入った封筒を後ろに隠し持ちながら。

シンジに抱かれるためにシンジの部屋に入っていった・・・・



第3話 シンジの想い

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Ver1.12