辞令

華王




〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜〜〜

優しいいチュロの音色がステレオのスピーカーから軽やかに流れてくる。

その軽やかで重厚な音色は私を優しく夢の世界から現実の世界へと誘ってくれる。

でもすぐには起きないで、そっと耳を傾ける。

やがてチェロの音色が優しく私を包み込んでくれる、朝の幸せな一時。

そのチェロの音色はまるで彼のよう、やさしいけど力強いそして繊細な音色まるで彼に

暖く包まれる感覚すら錯覚させる。

でもやがてその曲も終わる。

私は静かにベットから身を起こす、そして軽やかな足取りで洗面所にいき冷水でそっと

顔を洗う。

顔を洗い終えると静かに深呼吸をする、そして鏡に映る自分に向かって。

「おはよう」

とささやく。

今日は鏡に写る自分をじっと見る。

「変わらないか・・・」

その顔はほとんど10年前と変わっていない、さすがに少しは大人びた顔つきになっていた

が、今でもよく高校生に間違われることがある。さすがに最近は中学生に間違われる事はな

くなったが。

この前も街を歩いていたら、高校生に声をかけられた。

「私て綺麗なのかな?」

思わず口から心に思った言葉が出てくる。

自分ではそうは思ってはいないが、周りの人に聞くと綺麗だよと言ってくれる。

その事を思い出し私は改めて自分の顔を観察してみる。

眉のラインで切り揃えられた前髪、腰の近くまで伸びている後ろ髪、その髪全体はまるで

漆黒の闇のように黒くそして光り輝いている。

そして何時もは小さなフレームレスの眼鏡隠されている茶色ぽいやさしげな瞳。

優しい瞳と、よくマッチしている美しい曲線を描いている眉。

そして口の下にある小さなホクロ。

私は自分を観察し終わると、そっとやさしく両手で自分のかたを抱く。

「細い肩・・・・」

思わず口に出すほどその肩は細かった、いや細いのは肩だけではなく身体全体が細い

のだが。

誰かに強く抱きしめられただけで壊れてしまいそうなほど細い、まるでベネチアングラスのよう。

片手を肩からそっとはずしてそっと身体をなぞっていく、肩、鎖骨、そして胸の膨らみ・・・

10年前は人より小さかったその膨らみも、今では人より少しは大きい程度に膨らんでいる。

「・・・・・世間では私みたいな人を美人と言うの?」

また思わず独り言が口からもれる。

でもその身体はまだ誰にも触れられたことのない美しく無垢まま。

でも、彼意外には決して触る事もできない。

いや、たぶん彼もその体に触ることはないだろう、そして私は永遠に無垢なままなのかもしれ

ない・・・



顔を洗い終えるとシャワーを浴びるため浴室に入って行った。

浴室に入ると、シャワーを浴びるために蛇口を右方向にひねる。

サ―――――――――――

シャワーの蛇口からお湯が勢いよくでってくる、それほど大きくない浴室は発生した湯気で

見る見る曇っていく。

暖かいお湯の粒が身体全体を徐々に温めていく、そして色白の肌が少しずつ桃色へと変わっ

ていく。

以前左京さんが私の肌を見て、「いいわねマユミて肌が白くって、まるで処女雪みたいじゃ

ない」と言ってたけ、でも本当に処女雪みたいに白いのは綾波さんの肌だろう。

彼女の肌は処女雪よりも白磁器みたいに白かった、その白い肌に私は触りたいと思った事が

何度となくあった。

綾波さんは人形と言われるのを嫌がってたけど、その美しい顔と透き通ような白い肌は私で

も嫉妬するほど美しかった。

でも、もう綾波さんはいないけど・・・・・

いったんシャワーを止め、シャンプーを手に取り髪を洗う。

両手でいったん泡立て、その泡で優しく髪をいたわるようにゆっくりとゆっくりと洗う。

そしてシャンプーをシャワーで洗い流し、リンス、トリートメントの順でキレイに髪を洗い

上げる。

髪を洗い終わると、次は身体を洗い始める。

ボディーソープを海綿のスポンジにたっぷりと染み込ませ、少し力を入れてゴシゴシと擦る

ように洗う。

髪と身体を丁寧に洗い終えると、並々とお湯が入っている浴槽に身体をゆっくりと沈めてい

く。

適度に暖かいお湯に包まれていると、身体の疲れがゆっくりと溶け出していくのがわかる。

リラックスしたのか、自然と口から歌が出てくる。

彼との思い出の歌、もうこの曲を知っているのは彼と私しかいない歌・・・

そして彼との絆の歌。

よく音の響く浴室はやがて私の歌で満ち溢れていった。



浴室から出ると、無地のバスタオルですっかりと暖まった身体から、水気を拭き取っていく。

そしてそのバルタオルを身体に巻き付け、もう一枚バスタオルを取り、髪の水気を軽く拭き取

るとドライヤーを軽くあて、完全に乾かす。

それが終わるとドライヤーとブラシを使って丁寧に髪をブラッシングしていく。

枝毛の無い、長いきれいな黒髪。私の一番のお気に入り。

それが終わると化粧を始める。

化粧といっても軽く薄いリップみたいな口紅を塗る程度、会社の同僚の人に「マユミはもと

がいいから化粧も軽くていいわね。」と言われるくらいホントに私の化粧は薄い。

だいたい、口紅とファンデイションを軽く塗るくらい。

化粧を終えると、鏡の自分に微笑み足取りも軽く洗面所からでていった。

今日の朝食は手抜きをして、晩御飯残りをレンジで温めたものとトーストと一杯のハーブ茶。

それらをゆっくりと食べ終えると、ベランダのハーブに水をやり戸締まりと火の元のチェックを

して会社へと出勤していった。





山岸 麻由美 23歳、誕生日は1月11日、第二東京大学文学部史学科卒。

現在、富士櫻銀行 第二東京副本社 営業本部 宣伝部 宣伝課所属 入社2年目

それが現在の私。

私の図書司書になるとゆう夢はかなえられなかったが、それなりに充実した毎日を送って

いる。

職場は自宅から路面電車で20分の所に近場にあり、同僚ともそれなりに仲良くしているし、

上司の私への評判もなかなかいいみたい。

余談だが、入社半年たった時に会社の恋人と、奥さんにしたい両ランキングで一位になった

と同期の男性に教えてもらったことがある。

その時は恥ずかしくてつい赤面してしまったが。

その男性になんで私なんかが一位になったのと聞くと、そのなにげないしぐさと、素直な君

がいいんだよと言われた。

私はただ自然に振る舞っているつもりだったから、周りがそんな目で見ているとは気ずいて

いなかった。

最後に僕も君に一票入れたから、今度お礼にデートしてねと笑って言ってたっけ。

私が会社に出社すると掲示板の所に人垣ができていた。

その中にいた同期の女性が私を見つけると挨拶もせずに。

「マユミこれ見て見て。」

と私をその人垣の中に連れていった。

その人垣の中にある掲示板には一枚の張り紙があり、それにはこう書いてあった。



第二東京副本社 営業本部 宣伝部 店頭宣伝課所属

山岸 麻由美

上の者

七月一日付をもって

第三新東京本社 社長室付秘書課

転属を命ず。

人事課課長 野風 誠





「・・・・・・・え?ウソ」

私の口から出た言葉はそれだけだった・・・・・





第2話 アスカの想いヘ

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Ver1.10