手紙

華王


前略

碇 シンジ様、お元気ですか?

私は元気です。

私は銀行員として無事二年目を迎えることができました。

少しずつですが、仕事も重要な事を任されることが増えてきました。

それにこんな私にもかわいい後輩ができ、先輩に怒られながら面倒をみています。

皆、私より優秀なのですぐいろいろ覚えてくれるのでそれほど手間がかからず

内心ホットしています。

シンジさんはどうですか?

教師生活は慣れましたか?

フフフ、なんか変ですよね、シンジさんが教師だなんて。

それも母校に勤めてるなんて、私も一時ですが通った学校なんですもんね。

こうして眼を閉じるとあなたが一生懸命授業をしてる姿が浮かびます。

でもなぜか生徒としてなんですよね。

そうそう、この前父から手紙が届きました。

でもただ一言

『すまん』

としか書いてありませんでした。父らしいですよね、9年ぶりなのに。

でも、この一言が私にはとても嬉しかったです。

では、お元気で。

草々
















・・・・・・あなたに会いたい。

もうシンジさんと別れてから9年たちました。

あなたに会いたい。

でもだめですよね、あなたには奥さんがいるのですから。

でも私の想いは変わりません。

たとえあなたが私を見てくれないと分かっていても。

最後に一言だけ書きます。

私はシンジさんが好きです。

山岸 マユミ











僕は泣いていた。

マユミの想いを知っていながら裏切っている事で泣いていた・・・・

確かに彼女からの手紙は、これが始めてではなかった。

今までも年賀状や残暑見舞いの形できていたが、そこには社交辞令的

な内容しか書いてなかった。

それだけに誠実なマユミの想いがより深く感じられた。

でも僕がその想いにこたえる事はできなかった。

たとえ僕が同じ想いを持ってたとしても。

そして僕は今もマユミを裏切る行為をし続けるいる。

僕には彼女を捨てる事ができないのだから、僕が彼女に行った罪を償うまで・・・・









僕は一ヶ月前、アスカと結婚した。

結婚式も披露宴もない婚姻届を出しただけの結婚だった。

アスカが言うにはこれも復讐の一環らしい。

昔のアスカからは想像できないけど、でもそんなアスカにしたのは誰でもない

僕なんだから・・・・

あれからアスカは変わった。

まず左目が見えなくなった・・・・これは僕の所為じゃないけどアスカはそうだと

思っている。

何度も違うと言っても信じてくれない。

確かに完全に僕の所為じゃないとは言えないけど。

そして性格が変わった。

僕以外の人の前では昔みたいに振るってるけど、僕の前では綾波みたいに人形の

ように振る舞っている。

いやたぶんもっとひどいだろう、綾波は無口だったが僕に対して優しい視線を送って

くれた。でもアスカは僕に対して憎しみのこもった視線しか送ってくれない。

そして夜、僕の部屋に入ってきて抱かれている・・・・

そして僕が抱き終わったあとは決まって

「気持ち悪い・・・・・」

と呟き自分の部屋へと帰っていく。

これがアスカの復讐なのかな?

僕には解からないけど。

そして一ヶ月前、何時のようにアスカを抱いた後「気持ち悪い」と呟く変わりに

僕の前に黙って持っていた封筒から婚姻届を差し出した。

最初それがなんだか僕には解からかった、電気を消した部屋のなかでいきなり紙

を見せられて解かるほど眼はよくないし。

さっきまでの余韻が体全体を浸っていたからだ。

そんな僕を訝しく思ったのかだだ一言「サイン」と呟いた。

それでも僕はそれがなんのかわからなかった、アスカから紙を取りじっくりと見て

からそれが婚姻届だと気が付いた。

「アスカこれ?」

「サイン」

「・・・・・解かった」

心のなかでは釈然としないモノがあったがこれもアスカの復讐なんだと理解して。

僕は婚姻届の自分の欄にサインをした。

でももしも、僕がその時アスカの顔を見ていたら後の出来事は多分変わっていただろう。

アスカの顔に浮かぶそのかなしげ表情をみていたら・・・・・・

「はい」

サインを書き終えると、アスカに婚姻届を手渡した。

アスカは暫くのあいだ受け取った婚姻届をじっと見つめていた。

・ ・・・・その時間が僕にはとても長い時間にかんじられた、このまま時が止まって

しまったと思えるくらいに。

そして、心のなかでマユミとの関係が永遠に終わった事を感じていた・・・・

そうもうマユミとは恋人として会えない事を。

しばらくしてアスカが婚姻届から眼を放し、折りたたんで封筒にしまった。

永遠に感じられたそれらの動作は時間にしたらそれほんの数分に過ぎなかった。

アスカは裸のまま後ろを向き僕の部屋から出た行った。

そしてあと襖を後ろ手で持ちながら、顔だけ僕の方に向けて

「気持ち悪い。」

といつものように呟いた。

そしてそのまま自分の部屋に帰っていった・・・・・・






そして気が付くと僕は自然と涙を流していた。

声も出さず、ただ涙を流していた・・・・・・・






第1話 辞令ヘ

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Ver1.11