「お父さん、行って来ます。」

マユミはそう言い残すと、鞄と編みかけセーターが入った紙袋を手に取り足取りも軽く玄
関から出て行った。

「・・・・マユミも、もうそんな年頃なんだねかーさん。」

一人で朝食を取っていた山岸 怜冶(りょうじ)は、愛娘見送った後置いて壁に飾ってあ
る妻の写真に寂しそう話かけた。

「昨日も夜遅くまでセーターを編んでいたんだよ、いったい誰にあげるのか・・・・まっ
たくマユミもまだまだ子供だと思っていたが、もう一人の女子なんだね。片親だから色々
と心配してたんだがどうやら問題ないようだ。」

怜治は、食べ終わった朝食を片づけると出かける用意をして寂しそうに出て行った。そし
て玄関に鍵を掛けながら呟いた。

「・・・・しかし、ゲンドウと同じ親同士になるのは嫌だな・・・・」




クリスマス
華王




「あれマユミだいぶ進んだね、でもよくこんな複雑な編み込みができるね。」

その日の放課後、私は図書委員の仕事をするために図書室の受付のカウンターに座ってい
た。何時もなら本を読んでいるか、新しい蔵書にビニールのカバーを付けてデーター入力
とバーコード付けをしているのだけれど、最近はセーターを完成させるためにすっと編み
物ばかりしている。ここでそんなことをしていると、図書司書の先生に怒られるのだけれ
ど今は特別に許してもらっていた。そして今も編み物の本を見ながらセーターを編んでい
る。そんな私に同じクラスの霧島マナさんが声をかけてきたのだった。

「あ、マナさん。はい、昨日も夜遅くまで編んでいましたからだいぶ進みましたよ。あと
5日しかありませんけど、このまま行けばなんとかクリスマスイブまでに間に合いそうで
す。」

「ふ〜ん。ああ、私もセーターとはいわずせめてマフラーでも編んでいればよかったかな。
そうすればムサシの奴も少しは私に感謝しただろうし。」

マナさんは、少し後悔したかなと顔に出しながら残念そうに呟いた。

「でも大丈夫ですよ、クリスマスまであと5日ありますから。マフラーくらいなら急げば
間に合うと思いますよ。」

「ダメダメ。私編み物なんてできないもん。それに毛糸で編み物をするなんてチマチマし
たことなんて嫌いだから。」

「そうですか?でも編み物は手で編むんじゃなくて、心で編む物なんですよ。」

「心で?」

「はい、編むときにプレゼントする相手の事を思ってこうやって一目、一目、心を込めて
編むんですよ。」

私は、そういいながら一目一目とゆっくりと編んだ。
そして私が編んでいる様子を見ていて、マナさんは意地の悪い笑みを浮かべた。

「ふ〜ん。マユミも変わったよね。昔はそんなんじゃなかったのに。やっぱり好きな人が
できると変わるのね。」

「そ、そんことないですよ。」

私は赤くなりながら反対したけど、マナさんは止めなかった。

「マユミも昔はもっと消極的だったのに、いったいダレのせいで変わったのかな?」

「そんな事・・・」

「はい、はい。ジョウダンよ冗談。もうマユミもそんなにムキにならなくてもいでしょう。
それよりちょっと聞きたい事があるんだけどいい?」

「え?なんですか?」

「セーターのサイズてどうやって計ったの?胸囲は抱き合った事くらいあると思うから解
ると思うけど、もしか他のサイズは夜こっそり・・・・」

「マナさん!」

マナさんの言ってる事が、冗談だと解っていてもつい反応して怒鳴ってしまった。でも私
に怒鳴られたマナさんは平気な顔をしてジョウダンよ冗談と笑いながら言った後「ホント
にマユミはからかいがいがあるね。」と言った。私はそれにも反論しようとしたけど、又
からかわれそうだったの止めてしまった。

「で、本当にサイズはどうやって知ったの?まさか本人には聞けないだろうし。」

「ええ、さすがにプレゼントする本人にサイズの事を聞けなかったので、トウジさんに教
えてもらいました。」

「ふ〜ん、トウジに聞いたんだでもよく知ってたね。」

「ええ、でもトウジさんはヒカリさんに聞いたそうですよ。」

それを聞くとマナさんは少し不機嫌そうな顔をした。

「はいはい、そこにもお熱いカップルがいたのね。」

と拗ねていた。

「でも、マナさんにはムサシさんがいるじゃないですか。」

「ムサシは違うわよ。ムサシと私はそんな中じゃないて。私達は幼稚園からのだたの腐れ
縁よクサレエン。」

「そうですか?私から見ても付き合ってるように見えますけど・・・・」

「だから違うの!」

マナさんはそう言って反論してたけど、顔が少し赤くなっていた。
口ではいつも違う違うと言っているけど、何時もムサシさんと一緒に行動をしている。昔
はケイタさんが混じってたけど、最近はケイタさんとケンスケさんが一緒に軍用機なんか
を見に行ってるみたいで別々に行動してるみたいだけど。でもその所為で2人がさらに仲良くなったように私には見えるけど。

「・・・あれマユミ、目の下にくまが手出るよ。」

マナさんは、話題を変えたかったのか私の顔を見てそう言った。目の下に薄くクマが出て
いるのは私も気が付いていたけど、自分で理由が解っているからそれほど気にしていなか
った。

「そうですね。最近は夜遅くまでセーターを編んでますから、たぶんそのせいだと思うん
ですけど。」

「ダメだよちゃんと寝ないと、いくら時間が無いからって睡眠はキチンと取らないと。」

「そうですね、でもあと5日ですから大丈夫ですよ。」

「そうかな?まあ本人がそう言うのなら大丈夫だと思うけど・・・美容のためにも睡眠は
キチンと取らないとだめだよ。」

マナさんは少し照れくさそうにそう言い残すと、図書室から出て行った。そして私は編み
物を再開したのだった。




五日後のクリスマスイブの当日、マユミが授業中に突然倒れた。みんな驚いて教室中がざ
わめいたけどヒカリが静かにさせて、トウジに頼んでマユミをおんぶして連れて行った。
どうやら最近の睡眠不足がたたってついに倒れてしまったようだ。結局最後まで帰ってこ
なかったから、放課後私が鞄とセーターの入った紙袋を持って保健室に行った。保健室に
行くとマユミは起きていたけど、先生に「疲れが溜まっていみたいだからあまり負担をか
けないように。」と言われたけど、なんとか2人で話をするができた。

「マユミ大丈夫?」

「大丈夫ですよ、マナさん。こうして保健室で横になってましたから。」

マユミは私の前で元気そうにしてみせたけど、どう見ても空元気にしか見えなかった。そ
れがマユミの事をより病的に見せていた。

「ねえマユミ、私の前でそんなに無理しまくていいよ。」

「・・・・本当はちょっと辛いですね。でもセーターは完成したんですよ。」

「あ、そうなんだ。でもその代わり授業中に倒れるのはどうかな?て思うけど。」

私の口調は詰問風になっていた。確かにセーターを完成させた事はよかったけど、その代
わりに身体を壊してはどうしようもない。そこまでしてセーターを完成させたかったマユ
ミ少し腹が立ったからだった。

「すみません、マナさんにご迷惑をかけてしまって。でもセーターだけは完成させたかっ
たんです。」

そんな健気なマユミを見ると、私は何とも言えなくなってしまった。そして後ろに気配を
感じで窓ガラスをみると、心配そうに立っているシンジの姿が写っていた。それを見て内
心笑ってしまった。

「まあ、自分の身体の事は自分が一番知ってると思うからまあいいけど。それより廊下で
セーターをプレゼントする相手が待ってるみたいだから、私はそろそろ帰るね。」

「え・・・・」

マユミは本当に驚いた顔をして廊下の方に振り返った。そしてそこにはシンジの姿があっ
た。そしてシーツで恥ずかしそうに口元を隠してしまった。そんなマユミを見ていると思
わず頬ずりしたくなるくらい可愛かった。

「あ、シンジさん・・・」

マユミが驚いてそう呟くと、シンジがおずおずと保健室の中に入ってきた。

「あの、その・・・授業中に倒れたんで心配したて来たんだけど・・・マナが居たから入
れなくて・・・その・・・」

シンジは私が見てもかなり動揺していた。それをみてからかいたくなったけど、マユミの
事を考えて止めておいた。

「じゃあ邪魔者の私は帰りますか。じゃあお二人さんお幸せに、マユミプレゼントをキチ
ンと渡すんだぞ。」

と言うと私は保健室から出ていった。私のセリフがせいで2人とも顔を真っ赤にしていた。
私はそんな2人を見ていて、帰りに腹いせにムサシでも呼んで遊ぶに行こうかなと考えな
がら帰路についたのだった。



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