義理チョコ?
華王



今日はヴァレンタイデー、そのため教室が何時もよりざわめいていて普段はノンビリとし

ているこのクラスも幾分緊張感に満ちている。

それに、教室の匂いを嗅ぐとほんのりとチョコレートの匂いがしている。

そんな中、マユミはトウジの前に立つと遠慮がちに声をかけた。

「鈴原さん、ちょっといいですか?」

「お、なんや山岸かいな。わいに用か?」

机にうつ伏せになってヨダレを垂らしながら寝ていたトウジは口元をジャージの袖で擦り

ながら顔を上げると、マユミに返事をした。

でも、ボーとしていてまだかなり眠さそうに見える。

マユミはトウジが起きたのを見ると、後ろ手に隠していた物を前出してトウジに向かって

差し出した。

トウジの目の前に、一見して手作りの品とわかる小さい袋が差し出されていた。

マユミは少し赤らめながら、さらに差し出すように物を前に出した。

「あの・・・これ・・・バレンタインチョコなのですけど、よろしかったらどうぞ。」

「お、悪いの〜山岸。ほんま嬉しいで。」

トウジはマユミからチョコを受け取った、マユミは受け取ってもらえた安堵感からかホッ

トした顔をした。

「よかった、喜んで貰えて。手作りですので早く召し上がってくださいね。」

「そうか、手作りか。なら早よ食べなあかんな。」

そう言って一目で手作りと分かるラッピングを、トウジは乱暴に無造作にバリバリと破き

袋に手を突っ込んでチョコを全部取り出し。

一気に全部たべてしまった。

トウジはチョコをほお張りながら、恍惚とした顔をした。

その様子を見ていてマユミ眉が一瞬ピクと動いたが、トウジはチョコを食べるのに夢中で

気が付かったみたいだ。

「いや〜ほんま美味いでこれ。まあ義理チョコの味なのが減点やな。」

「そ・・・そんな事ないです・・・」

「ええんや、そんな気つかわんといても。わいはこの義理チョコだけで十分や、いや〜

このチョコ手作りだけあってホンマ美味いわ。委員長のくれた市販のチョコとは大違いや

な、まあチョコだけにチョコとしか無いのが残念やがな。」

しかし、そのチョコを恍惚とした顔でほお張っているトウジの幸せは、そう長くは続かな

かった。

何時の間にか後ろに来ていたヒカリに耳を思いっきりつねり上げられた

トウジはそのあまりの痛さにイスから立ち上がって耳を押さえている。

「イタタタ」

「なんですて鈴原!私のあげたチョコがそんなに気に入らないのなら返しなさいよ。」

「痛いで、委員長。」

「自業自得でしょう、私のチョコが気に入らないなんて言うからでしょう。」

ヒカリはさらに耳を釣り上げる。

「冗談や冗談に決まっとるやないか。」

「たとえ冗談でも、言って良いことと悪いことがあるのよ!」

「フフフ」

マユミは二人のやり取りを見ながら口元を手で隠しながら笑っている。

そして、そんな三人の事をシンジ横目で見ていた。






「そうか・・・マユミさんはまだ義理チョコしか配ってないのか。本命チョコを配る相手

て一体誰だろう?」

そんな事を呟きながら、まだ続いている三人のやり取りを見ている。

シンジは前の授業が終ってから机の上に寝そべっていた、回りから見ると寝ているように

しか見えない。

僕はさっきからマユミの方ばかり見ていた、だからマユミがトウジにチョコを渡した時は

一瞬ドキッとしたけど。

結局義理チョコだって分かってホッとした、誰かに本命チョコ上げるって事知っていたから。

でも・・・なぜこんな事を思っているだろう。

僕とマユミは親しい友達で、まだ恋人同士してわけじゃないのに。

だから、マユミが誰にチョコをあげても僕には関係ないはずなのに・・・

なのに・・・なぜこんなに気になるのだろう?

やっぱり昨日の事が原因なのかな・・・

僕はそう考えながら昨日の事を思い出していた。





あの蒼い髪はカヲルくん?

夕飯の買い物の帰り道で、目の前を歩いている蒼い髪をした人を見た。

この街に蒼い髪をした人なんてカヲルくんか綾波しかいないから、男子の服装をしている

ならカヲルくんて事になる。

「カヲルくん!」と声をかけるようとしたら。

カヲルくんは誰かと一緒に話しながら歩いている事に気が付いた。

呼ぼうとして上にあげた手を下ろしながら、二人の観察してみた。

一人は確かにカヲルくんだけど、もう一人は長い黒髪でスカートを穿いているから女性み

たいだ。

後ろ姿だけだと年齢はわからないけど、着ている服装と身長からしてたぶん僕らと同じく

らいの年齢の人みたいだ。

カヲルくんはそんな隣の人と恋人同士みたいに楽しげに話し込んでいる。

手を組んでないけど、後ろから見ているとかなり親密な仲なのが分かる。

なにより、横を向いて話し込んでいるカヲルくんの顔が、笑いっぱなしになっている。

何時も僕に対して向ける微笑みより、真剣な笑いで。

何時ものカヲルくんとは少し違う感じがするくらいだ。

でも、隣の人は一体だれだろう?

僕はその事が気になった、カヲルくんは特に誰かと付き合っていると言う話は聞いた事が

ないから。

隣の人がカヲルくんの彼女だったりしたら、特ダネかもしれない。

そう思いながらさっき声をかけそびれた僕は、そんな二人のことが気になってなんかスト

ーカーみたいだなと思いながらも、気配を殺してしばらく後をつけていたった。

しばらく後をつけてて、前を歩いている二人は十字路に差し掛かると立ち止まって向かい

あった。

どうやらこの十字路で別れるみたいだ。

やば、僕は慌てて電信柱の影に隠れてそっと二人の様子をうかがった。

でも隠れた位置が悪かったせいで、カヲルくんの顔は見えるけど、もう一人が一体誰なの

か顔が見えなくてまだ分からない。

十字路で立ち止まった二人は向かい合った二人は直ぐには別れないで、カヲルくんが持っ

ていた荷物を手渡している所だった。

荷物は近くのスーパーのロゴが入った買い物袋で、袋一杯に荷物が入っている。

買い物帰りなのかな?

その様子からそんな感じがしたけど、普通の買い物にして荷物の量が少し多い感じがする。

荷物を手渡した後も二人はまだ話し込んでいる。

二人の会話が気になった僕は隠れながらも、二人の話声が聞こえる位置まで移動した。

そして声が聞こえる所まで移動すると、ちょうどもう一人の人の顔を見ることができた。

僕はその顔をみて愕然とした、マユミさん?

そう、その人は確かにマユミだった。

なぜマユミよカヲルくんが一緒に?

僕はその意外性のある組み合わせにかなり驚いた。

僕はてっきり見知らぬ三年の先輩辺りだと思っていたからだ。

カヲルくんの場合はもっと年上の可能性があるかもしれないけど・・・

カヲルくんとマユミ・・・

意外性の高い組み合わせだけど、少し考え込むとそれ程意外性の少ない組み合わせかもし

れない事に思いついた。

マユミは読書好きで図書室に入り浸っているのは、クラスの皆が知っているくらい広く知

れ渡っている。

それに意外と知られていないけど、カヲルくんはかなりの読書家でかなりの読書量を誇っ

ている。

だからもしかしたら、読書を繋がりとして二人は知り合ったのかもしれない。

でもそうかもしれないけど・・・なんか理由もない怒りを感じる。

まだ楽しげに話し込んでいる二人を見てさっきの驚きは消えて、今度は二人の会話に耳を

傾けた。

「・・・・僕にはくれないのかい?」

「あ、もちろん渚先輩にも差し上げますよ。」

「それはよかった、わざわざ重い荷物をここまで運んだかいがあったね。」

「べつに、そんな事されなくても差し上げますよ。いつもお世話になっていますから。」

「でも、義理チョコなのだろう?」

「ええ・・・まあ・・・」

「残念だね〜マユミくんからの本命チョコなら大歓迎なのに。」

「あ、ありがとうございます。」

「まあ、既に渡す相手が決まっているみたいだからね。まったくその相手が羨ましいよ。」

「あ・・・でも、貰って頂けるか分かりませんか・・・」

「そうなのかい?まあ君からのチョコを断る人なんて居ないと思うけどね。」

僕は二人の会話に耳を傾けたまま安心した気持ちと、不安な気持ちになった。

安心したのは、たまたま買い物帰りで一緒になっただけなのと、カヲルくんとマユミ付き

合っているわけじゃない事が分かったけど。

マユミに好きな人が居たなんて・・・僕は少しショックだった・・・

僕はそのまま隠れるように二人の近くから去って行った。






「シンジさんちょっといいでしょうか?」

放課後帰り支度をして、教室かでようとした時後ろから声をかけられた。

立ち止まってすぐに振り返るとそこにはマユミが居た。

「なによう?マユミさん」

ホントは声をかけられた事が嬉しかったけど、マユミがさっきトウジのチョコをあげてい

た時の様子が頭を過ぎってついきつい言い方で返事してしまった。

マユミはビクとしたけど、何事もなかったに用件を伝えた。

「すみませんが、用があるので少しの間お時間いただけますか?」

「ここだとダメなの?」

「ここだとチョット・・・」

マユミは少し困った顔をした、それを見て少し罪の意識を感じた。

「僕は別にいいけど。」

「そうですか。」

マユミはさっきまでの表情をいっぺんさせ微笑んだ。

そして、僕を促してテニスコート裏へと歩いていた。

僕らがテニスコート裏に着くと、マユミは持っていた鞄の中からチョコを取り出した。

そのチョコはさっき見たのよりも大きくて、包装も豪華な感じがした。

「シンジさん、これバレンタインデーチョコですよろしかったらどうぞ。」

マユミは顔を赤らめて、もし僕が貰うの拒否したら泣き出してしまいそうな顔でチョコを

差し出している。

「ありがとう・・・でも義理チョコなんだよね。」

僕はそう言いながら受け取った。

するとさっきまで赤くなっていたマユミが急に怒ったような顔つきになった。

「・・・そう思うなら今すぐ食べてみてください」

そして少し冷たい感じでそう言った。

「う、うん。」

急変したマユミの態度にそれだけ言うと、袋のラッピングを解いて中からチョコを一つ取

り出すと口の中に放り入れた。

チョコは生チョコタイプで、さっきトウジに渡していたのとはタイプが違っていた。

そしてそのチョコはとても甘くて、ほんのりと苦かった。

「義理チョコの味がしますか?」

僕が食べたのを見届けると、マユミは独り言のように呟いた。

僕はその言葉に首を横に思いっきり振った。

喋るために口を開けたら折角のチョコがもったいなかったから。

マユミは僕のその様子見て、微笑みながら口をひらいた。

「ならどんな味がしますか?」

少し照れたながら。

僕は何時もより少し意地悪だったマユミを見ながら答えた。

「それは・・・」