「熱がぜんぜん下がらないや。」

誰も居ないマンションの一室で布団に包まりながら、僕は手に持ってた体温計を見ながら

そう呟いた。

ゴホゴホと咳が出て息苦しくて、少し頭痛もして熱ぽい、吐き気が無いのが救いだけど。

昨日のシンクロテストの時からかなり頭が痛くて熱っぽい気がしていたけど、手に持って

いる体温計のタイマーが39.1℃の所で止まっているのを見て、それらが気のせいじゃ

無いことが実感できた。

体温計のスイッチを切ってからケースに戻ると枕元に置き、腕を掛け布団の中にいれる。

痛い頭をできるだけ動かさないようにしながら、時計を見と1時ちょっと過ぎを示してい

る。

二人が帰ってくるにはまだまだな・・・・

昨日は心配してくれたマヤがアスカと一緒に家まで送ってくれて、ついでにと晩御飯まで

作ってくれてアスカと食べてすぐ寝たけど・・・やぱり本格的に風邪になったみたいだな。

これだったら昨日の内に医務室に行って風邪薬を貰ってくればよかった。

それにしても暇だな・・・僕はDATを取り出して音楽を聴いてみたけど、頭に響くので

聞くのを止めた。

音楽を聞く事ができないと、この部屋だと特にする事がないから僕は再び寝ることにした。

そしてそのまま夢の中へと入っていた。





そして僕は台所からの『トントントン』とリズムカルにまな板を包丁で叩く音で目が覚め

た。

最初は何の音か分からなくて少し驚いたけど、聞き耳を立てると誰かが台所で料理をして

いるいたいだ。

誰だろう?ミサトさんかな?それともアスカ?

時計を見るともう五時になっている、この時間だとアスカかな?

ミサトさんはまだ帰ってくる時間じゃないし、この状態でミサトさんの手料理を食べるは

かなり辛いものがあるし。

まあアスカ料理があまり上手とは言えないけど。

僕はアスカだと思い「アスカお帰り。」と声をかけた。

でも、その声は僕が驚く程かすれていた。

風邪の影響が喉にまで出ているみたいだ。

台所の物音は、僕の声が聞こえたのかピッタリと鳴りやんだ。

でも、返事は無かった。

あれ?おかしいな?

いつもなら、アスカの『なによ!バカシンジ』て怒鳴り声が聞こえるはずなのに今は聞

こえてこない。

ミサトさんなのかな?

でもミサトさんなら、『あれシンちゃん、アスカだと思ったの?』なんてからかった声

が聞こえてくるはずだし。

2人じゃないとしたら誰だろう?

マヤかな?昨日の事を知っているし、ミサトさんから僕の事を聞い様子を見に来てくれた

のかもしれないな。

それとも、アスカとミサトさんが2人して僕の事をからかっているのかな?

そしてその疑問は直ぐに解決された。

台所から足音がして、僕の部屋の前で止まると襖を開けてマユミが躊躇しながらに顔を出

したのだった。

僕は突然のマユミ登場でかなり驚いた。

まさか、マユミが居るとは思わなかったから。

マユミは、「シンジさん、失礼します。」と言いながらそっと部屋に入ってきた。

マユミは部屋に入ると、襖を少し開けた状態まで閉めて僕の枕元で正座した。

でもその後、どうしたらいいのか解らないのかただ僕の見つめていた。

そのまま暫く気まずい雰囲気のまま見つめあっていたけど。

やがてマユミさんが思い出したように心配そうな顔をしながら、

「シンジさんお身体の様子はどうですか?」とたずねてきた。

「もう大丈夫だよ、一日中寝てたから今朝よりだいぶよくなったから。」

「そ、そうですか・・・よかった。」

そう言ったマユミは、胸に手を当てながら心底ホッとした様子だった。

でも僕には気になる事があったので、とりあえず質問してみることにした。

「ねえマユミさん、なんでここに居るの?あとアスカやミサトさんは居ないみたいだけど

2人は?」

少し失礼かもしれないけど、その事が気になったので素直に聞いてみた。

でも、マユミさんは気にした様子もなくすぐに質問に答えてくれた。

「アスカさんは洞木さんと一緒に買い物に行きました、シンジさんの事を心配してました

けど。前からの約束だったみたいで洞木さんは「今度でいいよ」て言ってましたけど、

約束だからて行ってしました。

ミサトさんからは電話がありました、今日は少し帰りが遅れるそうです。」

「そうなんだ。でもどうしてマユミさんがここにいるの?」

マユミはその言葉を聞くと赤くなって俯くと小声で答えた。

「シンジさんが心配だったから・・・」

声が後半消えそうになりながそう言った、それを聞いたシンジも赤くなって二人して俯い

てします。

しかし、マユミはさらに続けた。

「アスカさんにシンジさんが風邪を引いて寝込んでると聞いたので、カギを預かってお邪

魔したんです。それに寝込んでいると食事も食べてないだろうと思って、食材も買ってき

ました。今お粥作っているんですけど・・・よろしかったら召し上がりますか?」

マユミは上目遣いで僕を見ると、断られないかどうか心配そうにしている。

そんな様子を可愛いと思いながら、僕はマユミを安心させるために返事をした。

「喜んで食べるよ、朝から何も食べてなくて腹ペコなんだ。」

「よかった。」

僕の返事にニコッと喜ぶとマユミは立ち上がって「今持って来ます」と言いながら部屋か

ら出て行った。

そしてお盆の上に湯気がたっている土鍋に入ったお粥とお茶碗を持って来た。

お盆を床に置くと、寝ながらでも楽に食事ができるように。

僕の枕元にクッションを置いて上半身を起き上がらせてくれた。

その後土鍋からお茶碗にお粥よそると、お茶碗を手に持って小さな匙て少し取ると自分の

口元に持っていくと息でフ〜と冷ましてから、僕にどうぞと差し出してくれた。

「あ、ありがとう。とても美味しいよ。」

「そうですか。」

「うん。味付けもちょうどいいしお粥の出来もいいよ。」

「よかった〜」

僕らは話しながら、マユミの差し出したお粥を食べつづけた。

マユミは僕にせっせとお粥を食べさせてくれているけど、でも今朝から何も食べていない

僕の食欲が凄くてマユミはずっとお粥をよそってばかりだった。

そしてすぐに土鍋一杯にあったお粥もすっかり空になっていた。

そんな僕の様子にマユミは少し驚いるみたいだった。

「美味しかったよマユミさん。」

「よかったです、喜んでもらえて。」

僕のその言葉聞いて喜んでくれた。

そして「食後のデザートもあるんですよ」と言うと、台所に行きしばらくして

からリンゴの擦ったのを持ってきてくれて、また僕に食べさせてくれた。

ホントはそこまでしてもらうほど、体の調子は悪くないけど。

マユミにそうしてもらえるのが嬉しかったから、結局そのまま全部食べさせて貰った。

マユミも「風邪にはリンゴの擦ったのが一番体にいいんですよ」と言って微笑んでくれた。

でも一生懸命僕の世話をしてくれているマユミを見ると、少し罪悪感を感じる。

食事だって少し我慢すれば自分で作れて食べる事もできるし。

付きっきりで看病してもらって、しかも寝ながら食べさせてもらうなんてなんか重病人み

たいだし。

でも、こうも思うこうして人に看病して貰うなんて始めてなのかもしれないと。

お母さんが生きていた時も、仕事が忙しくて付きっきりで看病なんてしてもらった事無か

ったし。

先生の所ではこんな事してくれるはずもなかったから。

僕がそんな事を考えている間、マユミは風邪薬を飲ませると僕の上半身を起き上がらせて

いたクッションを片付けて。

食事一式を台所に持って行き、帰りに濡れタオルを持ってきて僕の額に乗せてくれて、

頭の下にはアイス枕まで置いてくれた。

これじゃあ本当に重病人みたいだな、僕は思わす苦笑した。

マユミの看病と、食事をしてお腹が膨れたのか眠くなってきた。

僕はマユミにお休みと言うと、そのまま寝てしまったのだった。





やがて僕は目覚めた、起きた僕の視界に時計があって見ると9時を指していた。

もう夜なんだな、アスカが帰ってきているかもしれないな。

そんな事を思いながら起き上がった僕は、壁に寄りかかりながら寝ているマユミに気が付

いた。

手に読んでいた本を開いたまま持っていて、気持ちよさそうに寝ている。

でも僕の気配に気がついたのか、マユミは傾いた眼鏡を直しながら起きた。

そして立っている僕を見ると、寝ていた姿を見られたのが恥ずかしかったのか顔が少し赤

くなっていた。

「すみません、寝てしまいました。」

謝りながら立ち上がっると、僕のおでこに手を当てて熱があるかどうか確かめた。

僕のおでこに触れたマユミは少し冷たかった、その冷やっとした感触とマユミの指の柔か

らさに少しドキドキしてしまう。

もしかしたら、これだけで体温が数度上がったかもしれない。

マユミは「熱が下がりましたね」と言うと指を離した。

それが少し残念だけど、マユミのほっとした顔を見るとうれしかった。

でも、一つ疑問に思うことがあったなぜマユミは帰らなかった?といことだ。

もう時間は9時を回っている、もう普通なら家に帰っている時間だ。

僕を看病してくれているのは嬉しいけど、こんな夜遅くまで看病してもらうはさすがに

気がひけた。

あと女の子なんだから夜道の一人歩きは危ないと思うし。

「マユミさんもう九時だけど、家に帰らなくて大丈夫?僕は送って行けそうにないから心

配なんだけど。」

「大丈夫ですよ、お父さんが迎えに来てくれるそうですから。」

「そう、ようかった。」

それを聞いて僕は安心した、こんな遅い夜道を一人で帰らせるなんて心配だったから。

いくら日本一治安の第三新東京市でもやっぱり心配だから。

でも、マユミはなぜこんな時間まで残っていたのだろう?

残ってくれていたのは嬉しいけど、勝手に帰ってくれてもよかったのに。

僕はそのことを聞いてみる事にした。

「ねえ、マユミさん。なぜ先に帰らなかったの?べつに僕が寝てたんなら先に帰ってくれ

ても良かったのに。」

僕の言葉を聞くとマユミは少し悲しそうな顔をした、そしてすぐにその問いに答えてくれ

た。

「シンジさんが目覚めた時に、一人だと寂しい想いをすると思って残っていたんです。

私は小さい時に両親を無くしたので、一人の寂しさを知っていますから。シンジさんに

そんな想いをして欲しくなかったから・・・」

そうだ、僕はとても大事な事を忘れていた。

マユミは幼かった頃に両親を殺されて天涯孤独だったんだ、今のお父さんも養父で血の繋

がりは無いんだった。

何時もはそんな事を感じさせないマユミを見てて忘れてるけど、マユミの心の中では片時

もその事を忘れている訳ではないんだ。

そんなマユミが一人で居る人をほおって先に帰る事なんてないだた。

僕はそのことを思い出して二人の間に気まずい雰囲気が出たけど。

マユミはそれを打ち消すように声をだした。

「あ、シンジさん。」

「なに?マユミさん。」

「ミサトさんとアスカさん用に晩御飯を作っておいたんですけど、もしもお二人がお食事

まだでしたら食べて貰ってください。お口に合うか分かりませんけど・・・」

「大丈夫だよ、二人とも料理があまり上手じゃないから。マユミさんの美味しい料理なら

喜んで食べるよ。」

マユミの僕の心をさっして話題を変えてくれた事に感謝しながら、笑いながらそう返事を

した。

そして、僕はマユミを玄関まで送っていた。

玄関に行く間にリビングを見てみると、確かにマユミが作ったミサトとアスカ用の晩御飯

が作られていた。

それは見るだけでとても美味しそうで冷めても美味しく食べれるような献立になっていた、

病気じゃなかったら僕も二人と一緒に食べたいくらいだ。

でも、さっきお粥を食べたばっかりでお腹がまだ一杯だし、体の調子もまだ悪いから残念

だけど今度の機会にするしかないようだ。

マユミは僕に電話を借りて、家に電話してお父さんに迎えに来て貰う準備をすると玄関で

靴を履いて荷物を持つとすっかり帰る準備が整っていた。

「それではシンジさん、お体をお大事にしてくだいね。」

「うん。マユミさんも帰り道気をつけるね。」

「はい、それでは明日学校で会いましょう。」

マユミはそういい残すと玄関から出ていた。





次の日、マユミの看病のおかげで風邪の治った僕は学校に登校したけどマユミ会う事が

出来なかった。

なぜなら、今度はマユミが風邪を引いて学校を休んだからだ。

今度は僕がお見舞いに行かなくちゃね。

一人で居るマユミに寂しい想いをさせたくないから。




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