「あ、雪だ。」

私の耳に、誰かのそう嬉しそうに呟く声が聞こえてきた。
そして私もそれにつられるように夜空を見上げた。
ビルの谷間から見える小さな夜空に少しだけだけど、粉雪が舞っていた。
まだ降り始めたばかりで回りを見渡していた私には気がつかないかけど。

「・・・・なんか嬉しいな、誕生日に雪が降るなんて。」

私はそれをみて思わず微笑んでしまう、この第三新東京で雪が降るなんてそう珍しい事では
はないけど、自分の誕生日に降るなんてやっぱり嬉しい感じがする。
雨が降るとなんか寂しい感じがするけど、雪だと心が嬉しい気持ちで一杯になる。
寒くならないように着ているコートの襟元をマフラーで絞め直しながら、思わす心で思った
事がつい出てしまう。

「でも、雪が降ると寒くなるのかな?」

私は粉雪が降る中を、一人ただ待ち続けていた。あの日の約束を信じて・・・




Birthday前編
華王




「ねえ、マユミ。昨日の約束ちゃんと覚えてる?」

一学期の中間試験も終わった金曜日の放課後、私が鞄に教科書やノートを入れて帰る準備
をしていると、後ろの席の霧島 マナが何時ものように私の背中をシャーッペンで裏でつ
つきながらそう言ってきた。

「え。あの、その、約束て本当だったんですかマナさん?」

「当たり前じゃない、私が冗談でマユミに電話したと思ってたの?」

マナは机の上に身を乗り出してそう言った。

「でも・・・・・」

私はその返事通り、その約束に乗り気ではなかった。
その約束とは昨日マナが、夜中に電話してきた事で私とマナと男子二人でダブルデートを
する事だった。
相手は近くにある、第三新東京市立第一高等学校に通う男の子の二人組。
マナさんが声をかけた相手がダブルならとOKしたらしく、その人数合わせに私に声をか
けたのだった。
でも正確には声をかけた、ではなく無理矢理承知させたの方が正しいのだけど。その時も
マナは何時ものように、夜遅くに勉強していた私に電話をかけてきて、挨拶もそこそこに
いきなり切り出した。

「ねえマユミ、明日暇?」

「ええ、試験も終わりますからたぶん暇だと思いますけど。」

「なら大丈夫ね、明日ダブルデートするから用意しておいて、じゃあね。」

「え!マナさんダブルデートていったい?。」

ガチャプープープー・・・

マナはそれだけ言うとすぐに電話を切ってしまった。
その後私がマナに電話をかけ直して、ダブルデートの相手の事や、なぜ私にも声をかけた
か等を教えてもらったのだった。でもなぜ私に声をかけた理由までは教えてもらえなかっ
たけど。
私とマナとの関係はいつもこんな調子で、私はいつもマナに振り回されてばかりいる。
初めてマナと出会ったのは幼稚園の時だけど、その時から私は気が付くとマナにいいよう
に扱われているのかもしれない。
でもそれは私にとってそれほど嫌な事ではなかった。どちらかと言えば奥手の私を、マナ
が色々な所の連れ出してくれたおかげで、私が自分からは行かないような所にも行ったし。
それなりに交友関係も広がる事ができた。そう考えると私とマナとの関係は、私に限って
考えるとそれなりにいい関係だった。
マナの方は解らないけど・・・

「ねえ、マユミ聞いてるの?」

 私は一人黙って考えに沈んでいたようで、マナが不審がって声をかけてきた。

「え、あ、聞いてますよ。」

「そう、ならいいんだけど。」

でも、私は今日の事は嫌だった。昨日いきなり電話で言われたのは、何時もの事だから別
に構わないけど、ダブルデートだなんて・・・私には無理だよ・・・
それも知らない男子とデートだなんて・・・そんなこと私にできるはずがない。それに相
手の男子も、私みたいに可愛くない人とデートなんかしても嫌な思いをするだけだろう
し・・・・
やっぱり断ろう。マナには悪いけどどう考えても私に無理だ。
私はマナに断る事をありのまま告げた。

「やっぱり、私にはダブルデートだなんてダメですよ。今まで男子と付き合った事も無い
んですよ。それに・・・私なんかとデートしたって・・・相手の人に不愉快な思いをさせ
るだけですから・・・・・私・・・マナさんみたいに綺麗でもないし・・・性格も暗くて
無口ですから・・・やっぱり無理ですよ。マナさんお心遣いは本当に嬉しいですけど。」

最後の方は声が小さくなってしまったけど、なんとか言う事ができた。

「そう、ならいいわよ。」

以外とマナはそう言ってイスに座り直した、そして帰る用意を始めたのだったそれを見て
私は意外に思った。普通はもっとしつこく引き下がるのに、やっぱり本当は冗談だったの
かもしれない。
私は内心ホッとしたけど、それは間違いだった。
マナは、イスから立ち上がると。

「じゃあマユミ今度紹介してね。」

と言った。

「え?」

「だって、マユミのせいで今度のダブルデートがダメになるんだから、その代わりに誰か
新しい彼を紹介してね。」

「わ、私に、そんな事できるわけないじゃないですか。」

「だって、私て今フリーでしょう。だからこれからの夏の相手を捕まえようとしてるのに、
それをマユミが邪魔をするんだから。だから違う人を紹介してね、それがダメなら一緒に
来るのね。」

「そ、そんな。」

「なら決定ね、今日の1時に駅前の金太郎像の前で待ち合わせだから、軽く食事でもして
から行こうね。そういえば、新しくできた喫茶店のババロアが美味しいらしからそれでも
食べてから行こうね。じゃあマユミ行くよ。」

「あ、マナさんちょ、ちょっと・・・・・・・」

と、マナは私はいつものように嫌がる私を引きずるように学校を後のしたのだった。







「ねえ、マユミほら見て。そこから2人が見えるでしょう。」

私はマナの指さした方を見ると、金太郎像の横に学生服を着た高校生くらいの2人組が立
っていた。ここからだとあまり見えないけど、一人は肌が黒いのが確認できた、たぶん彼
がマナの言っていたムサシさんだろう。だともう一人がシンジさんて事になるのか・・・
私は最初、2人を見てそれくらいしか思わなかった。

「どうわかった?」

さっきまでババロアを食べていたスプーンで、私の事を指さしながらマナはそう言った。
それをみて少し行儀が悪いな、と思ったけど気にしないようにした。それにマナのババロ
アは、これで確か三個目のはずだ。

「はい見ましたよ、あの肌が黒いぽい方がムサシさんですね、もう一人の方はあまり見え
ませんでしたけど。」

「そうそう、彼がムサシなのよ。どうかっこいいでしょう?」

私が見ても幸せそうな顔をして、マナはそう言ってきた。それを見て少し嫉妬したので少
し意地悪をする事にした。

「マナさん、そのババロア確か三個目ですよね。確かダイエットしてるんでしたよね?」

「そう?ならいいけど。そうそうムサシの連れて来た彼ならマユミも気に入ると思うよ。
少し聞いたんだけど、マユミと同じで読書が趣味だそうだし。
じゃあ時間だから行こう、これ以上待たせると帰っちゃうかもしれないし。」

「そんなこと・・・・」

「そう?ならいいけど、そろそろ時間だから行こう。」

鞄を手に立ち上がると、マナは私を置いてさっさと先に歩きだしてしまた。
ダメだなマナには私の嫌みなんか通じないみたいだ。
もう少し嫌味な事を言った方がいいのかな?
でもそうんな事したら気を悪くするかもしれないし・・・・
でも、マナみたいに申し少し胸はあった方がいいな。私はそんなに胸が大きくないから、
男の子て胸の大きな女性が好みみたいだし・・・・なんかマナが少し羨ましいな。
A組のアスカぐらい大きければ私ももてるのかな?

「ほら、マユミ早く!もう行くよ。」

「は、はい。」

思わず考え込んでるうちに、マナは支払いをすませて先に店の外に出て私の事を怒りなが
ら呼んでいた。私はそう返事をしながら鞄を持つと店の外へと歩いて行った。
そしてそんな私達の様子に待ってたいた二人も気がついたみたいで、此方へと歩きだして
いたのだった。




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