私はショッピング街に最近できた化粧品の店に向かって歩いていた。

その化粧品店は、学校やNERVで今話題になっている店だった。

雑誌を読んでいて欲しい商品があったんだけど、場所がいまいち分からなかったけど。

昨日訓練の後マヤと話していて場所を教えてもらったのだった、流行りモノに詳しい彼女が教える

くらいの店なのだからかなり人気のある店と思って間違いないだろう。

この手の事にはヒカリやミサトはあてにできないから。

でも、ヒカリも少しは知ってるみたいだったな。

私は地下街から外に出て信号を渡ると、目当ての店の前に着いた。

店名名前はClown、日本語に訳すと道化師か。

店の外見は普通の化粧品店に比べて、重厚なクラッシクな感じのする外観をしている。

普通は化粧した後を良く見せるために、前面ガラス張りにして明るくしてるのに。

それなのにこの店は、大理石を使ったヨーロッパ風の外観をしている。

少し変わってるなと思ったけど、店内に一歩入るとその訳がなっとくした。

この店は品揃えの殆どをヨーロッパのブランド品で揃えていた。

確かにこれなら店の外観と合うなと納得できる。

外観と品揃えでアピールしているのだろう。

でも私の欲しいのは外国ブランドの高級化粧品じゃなく、もっとシンプルな物だから関係ないけど。

私は店内を歩きまわって目当ての品物を探して歩いた。

思わず衝動買いしたくなる物もあったけど、お小遣いと相談すると買えない物が多い。

やがてリップグロスの近くに目当ての商品を見付けると。

「あ、これか。」

とつぶやくきながら私は目当て商品を手に取った。

それは平べったい小さな小ビンで綺麗にラッピングされている。

「リップにしては可愛いな。」

そのリップは普通のスティックタイプじゃなく、ハンドクリームみたいなタイプになっている。

片手に収まる大きさだからかなり小さいけど、ブランド物だから値段は高いのかなと思って値札を

見ると。

まあ中学生のお小遣いで考えると気持ち高いくらいだった。

私はその商品を持ったままレジへと向かった。



Chocolate Taste

華王


『お願い、私を一緒に連れてって!』

『だめだよ・・・君はここに残るべきだ。僕はにはもう残された時間が無いんだ。』

『ならその残された時間を一緒に過ごさせて。』

『・・・・・・・』

『お願い!』

『駄目だよ・・・』

テレビから昔の恋愛映画の台詞が流れてくる。

この時間帯によく放映している古い映画だけど、なんか悲しいストーリーで少し胸にくる物がある。

今私は床に横になりながら、一日中殆どテレビを見ていた。

独りだと何もする事がなく、また何をしていいか分からなかったから。

洗濯物なんて3人居てもそれ程溜まっていないからすぐに終わるし。

掃除なんて自分の部屋と台所、客間くらいしかする場所がないから午前中には全てが終わっていた。

ミサトの部屋なんて入るだけでも嫌だし。

お昼にマヤに教えてもらったお店に買い物に行ったけど、寄り道をしないですぐ帰ってきたし。

御飯も自分で作って三食とも独りで食べていた。

ペンペンが一緒だったけど、物言わぬペンペンだ相手だと居ないの変らないから。

ペンペンが聞いたら怒るかもしれないけど。

最近は何時も誰かが私の回りに居たけど今日は誰も居ない。

私は最近感じていなかった寂しい想いをしながら食事を食べたのだった。

ドイツでは一人でも寂しいなんて思ったことも無かったのに。

その後食器を片付けて戸締りをすると、何もする事が無く暇を持て余して映画を見てたけどつい

見入ってしまっていた。

そして気がつくとかなり遅い時間になっている。

ミサトは今日も帰りが遅い。

たぶん・・・加持さんと一緒にいるのだろうな。

昔は隠れて合っていたけど、最近は口には言わないけど堂々と合っている。

昔は加治さんのことになると向きになっていたけど・・・最近は少し違う。

私には他に気になる事ができたから。

私はテレビから目を離すと後ろを振り返った。

後ろにはペンペンがソーファーの上で気持ち良さそうに寝ている。

時折寝返りをしているのが見ていて面白いけど。

でも食事をする時の様子は少し怖いな。

シンジは・・・まだ帰ってきていない。

シンジは朝からマユミと一緒にデートに出かけていた。

直接は聞いていないけど、電話をしていた時の受け答えの様子では映画を見た後遊園地に行く予定を

立ててたみたいだった。

そして学校で会ったマユミの様子だと、シンジから誘ったみたいだ。

マユミがシンジを誘う方が考えられないけど・・・シンジが誘うなのも私には考えられないな。

何か二人の間にあったのかな。

そして今日朝早くシンジは出かけて行ったけど、今二人で何してるのかな・・・

気になるな・・・

見に行ってみたいけど・・・もし二人がキスのを見かけたら・・・・て思うと行けなかった。

はぁ・・・・気になるな・・・

大きなため息が漏れる。

「もうバカシンジ!」

私は近くにあったクッションを壁に向かって投げ付けた。

壁に当たって跳ね返ったクッションはペンペンに当たり、抗議声を上げたけど。

私の様子を見て効果無しと判断したのか、自分の冷蔵庫を改造した部屋へ入って行ってしまった。

・・・ペンペンにも見捨てられてしまった。

「ただいま!」

ペンペンが出て行くと同時にシンジが帰ってきた。

シンジを玄関まで迎えに行きたかったけど、私は関心無い素振りをするために近くに転がっていた

雑誌を読み始めた。

洋間に入ってきたシンジは再び「ただいま」言いながらリュックを部屋の隅に置いた。

部屋に入ってきたシンジを見ると、片手に一目でチョコとわかるプレゼントを持っていた。

「あ〜ら無敵のシンジ様のお帰りで。本日はさぞ楽しまれたのでしょうね。」

私はシンジの楽しそうな顔見るとつい憎まれ口を言ってします。

「うん楽しかったよ。」

でもシンジはニコニコしながらそう言ってソファーへと腰を降ろした。

すると図ったように机の上の電話が鳴り出した。

「はい葛城です。」

シンジはすぐに受話器を取るってでた。

「あ、マユミさん。うん、僕も今家に着いたよ。

うんうん。いや別に・・・・・」

どうやら電話の主はマユミみたいだ、シンジは片手で受話器を持ちながら器用上着を脱いでいる。

盗み聞きする気は無いけど、すぐ側で電話してると嫌でも声が聞こえてくる。

その会話からだと帰りにマユミのことを家に送り届けてきたみたいで、帰りが遅くなったみたいだ。

マユミが何度もシンジにお礼を言ってるのが聞こえる。

私は雑誌を読みながら聞こえないフリをしてるけど。

横目でシンジを見ると、とても嬉しそうに電話をしている。

片手にプレゼントを持ちながら。

そんなシンジを見てると文句を言いたくなるけど・・・私も前にヒカリのおねえさんが紹介した男と

遊園地にデートしたに行った事があるから。

私に文句に言う権利は無い。

それにシンジが誰かとどこに行て、何をしようが、私に断る必要は無いのだから。

でも、なんか嫌だな。

シンジが違う娘と一緒に遊園地なんかに行くのって。

・・・そういえば今日はバレンタインデーか。

確か日本では女性から男性にチョコレートをプレゼントする日だったな。

いちおヒカリに言われて買ってあるけど・・・

このまま渡すのはなんか嫌だし、間抜けみたいだ。

それにマユミに遅れを取った事になるから。

マユミは負けたくない。

でもどうしたらいい?

もう後数時間でヴァレンタインは終わるのだから、早く渡さなければもう渡せなくなるのに。

何か良い方法は・・・・

私は暫く考えた後、良い考えが浮かんだ私は居間を出て自分の部屋へと向かった。

部屋に入ると机の上にあるClownと書かれた袋を開けるとリップを取り出した。

そしてリップの封を開けると、手鏡を見ながら小指で取ったリップを丁寧に唇に塗る。

鏡に写った私はの唇がリップのせいで一層綺麗に見えている。

これなでいいかな。

私はすぐに自分の部屋を出て居間に向かう。

居間に入るとシンジが電話が終わったみたいで机の上の漫画雑誌を読んでいた。

私はその横を通りながらさっきまで寝転ろんでいたところに座った。

そしておもむろに口を開いた。

「ミサト、遅いわね。」

「うん。」

シンジは興味無さそう返事をする。

少しムっとすけどかまわず続ける。

「ねえ、シンジ。キスしようか。」

「え?」

「キスよ。」

「ど、どうして?」

「退屈だからよ。」

「退屈だかって、そんな・・・」

「前にももしたかでしょう」

「うん・・・」

「じゃ、しようよ。」

「でも・・・」

「違う女の子とデートした日に違う子とキスするのが怖いんだ。」

「怖くないよ。キスぐらい・・・いいよ、やってやるよ。」

「いくわよ。」

「息しないで。」

「え・・・」

「鼻息がホッペにかかって、こそばゆいのよ。」

「う、うん・・・」

私は目を瞑っているシンジに近づくと、そっと唇を重ねる。

唇にシンジのぬくもりを感じる。

もっとそうしていたかったけど、すぐに唇を離した。

そのまま私はシンジの顔を見ないように部屋を出て廊下に出る。

自分の顔が見なくても赤くなっている分かるくらいドキドキしている。

胸に手をあてると、胸もドキドキしている。

なんか二回なのに凄く緊張してたみたいだ。

自分では冷静だったつもりなのに、これだとシンジに気づかれたかもしれない。

前は緊張しなかったのに・・・

今回緊張したのは、シンジのこと意識し始めたからかな。

「あ、チョコの味がする。」

そんなシンジの声が聞こえた。
私はその言葉に釣られてそっと唇を舐める。

確かに唇はチョコの味がする。

私が唇に塗ったリップはチョコレートの味がする物だった。

シンジにキチンとしたチョコレートは渡せなかったけど。

こんなバレンタインデーもいいかな。

そして私はそっと唇に指をあてて、微かに残るシンジのぬくもりを感じていた。


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