『碇 アスカ』

私は、そう書かれた新しい免許証を飽きることなく眺めている。

これは役所行き婚姻届を提出した後で、運転免許センターに行き古い

『惣流・アスカ・ラングレー』と書かれた免許証から、新しい『碇アスカ』と

書かれた免許証に替えてきた物だ。

嬉しい。

ただ名字の表記が『惣流・ラングレー』から『碇』に変わっただけなのに。

こんなにも嬉しいなんて。

私はこの嬉しさが嘘や幻じゃない事を確かめる為にも、免許証を眺めていた。




碇 アスカ


華王

毎日私は、寝室に差し込んだ朝日で目覚める。

目覚めた私は隣で寝ているシンジを起こさないように、注意しながら

シーツを手繰り寄せると、昨日のシンジに脱がされたままの身体を隠す。

今更隠すのも変だけど、夜と違って朝日の中シンジの前で裸のままで

居るのはさすがに恥ずかしいから。

シーツで身体が隠れた事を確認すると、私はシンジの方を向く。

窓から差す柔かい朝日を浴びたシンジの寝顔を、私はベットの隣から

幸せそうに眺める。

目の前のシンジはスゥスゥと寝息をしながら、幸せそうに寝ている。

「かわいい寝顔」そう呟くと私はくすりと笑いながら、シンジの頬に

唇を寄せるとそっとキスをする。触れるか、触れないかの軽いキス。

唇をシンジから離すと、キスをした事が急に恥ずかしくなって頬を

赤く染めて俯いてしまう。

昨日の夜はそれ以上に恥ずかしい事をしたのに・・・

それよりも、寝ているシンジに隠れてソッとするキスの方が恥ずか

しいなんて、初な中学生でもないのに。

昨日の夜の事を思い出すと、赤くなった頬がさらに赤くなってしまう。

火照って顔全体が赤くなったのが鏡を見なくても分かる。

これも全てシンジのせいなんだけどな。

「シンジ・・・好き・・・」

そう呟いて、もう一度頬にキスをする。

毎朝行う誰も知らない、私だけの幸せな時間。

シンジと身体を交わっている時より、こうしてシンジの寝顔を眺め

ている方が幸せを感じる。

もっとシンジに触れたくてなって、シンジの後ろ髪にそっと触れる。

手が触れた瞬間、シンジはビクッとして身震いした。

シンジが起きたかと思って、私は慌てて手を離して目が覚めたか

どうか確認する。

シンジは身震いはしたけど、目は覚まさなかったようで少し姿勢を

動かしただけでそのまま眠りついている。

シンジが起きなかった事に安心すると、手をそっとシンジの髪まで

伸ばすとゆっくりと優しく撫で始める。

シンジの柔かい髪の感触を確かめながら、

シンジと二人だけの生活に、私は幸せを感じている。

毎日が淡々と過ぎている日々だけど、二人で居るだけで嬉しい。

もしも、これでシンジが私の事を本当に愛してくれているならいいのに。

シンジが私に心の底から『愛している』て言ってくれるだけでいいのに・・・

でも、絶対にそんな事にならないのは分かっている。

シンジの心の中にはマユミが居るから。

シンジはマユミとの約束で私のもとにに居る。

サードインパクトの後、シンジはマユミに私に贖罪をするために一緒に居ると

約束をした。

エヴァに関わり心を壊し、シンジに犯された私の心を癒すために。

そして、罪を償ったらマユミのもとに戻ると。

だから、私はシンジに心の傷を癒して貰うために毎日シンジに辛く当たっている。

本当はシンジに優しく接したいし、甘えたいのに。

悲しいけどそれが私とシンジの生活、結婚して新婚になってもそれは変わる事がない。

変わる時はシンジが私のもとを離れる時だから。

私は悲しい想いを少しでも慰めるために、毎朝シンジの髪を撫でている。

シンジが起きている時にはできないから。

せめて寝ている時にはシンジに甘えられるように・・・



第7話 名称未定

目次へ