ある一室に二人の女性がモニターの前に座り込んでいる。

そしてモニターには少年が少女を犯している姿が映し出されていた。

「本当に止めなくていいんですか?」

「ええ、別に止める必要はないわ。」

「でもこれじゃあアスカが・・・・」

「・・・・そうね。でも今のアスカにはこれくらいしか利用価値はないのよ。エヴァを操
れない、まして心を閉ざしたアスカなんて、厄介者以外の何者でもないのだから・・・・」

「それは・・・・」

「それにねマヤ、これを見て。シンジくんのシンクロ率だけど、僅かに下降気味だったの
がアスカを犯してから上昇に転じたのよ。」

「確かにそうですが・・・・でもアスカが・・・・あまりにも可哀想で・・・」

「そう、なら止めさせる?でもねそうしたら確実に、シンジくんのシンクロ率は下降する
でしょうね。そうしたら、もうエヴァに操る者は居なくなるのよ。そうしたら私達はもう
終わりなのよ。まあ私達だけならいいけど、それは人類の滅亡も意味するのよ、それでも
いいの?」

「・・・・」

「それともマヤがアスカの身代わりになる?」

「センパイ!」

「そうよね、無理よねマヤには。」

「・・・・」

「それに、マヤが身代わりになっても無理なのよ。」

「え?」

「なんでシンジくんがアスカの事を犯したと思う?」

「・・・したかったからですか?」

「違うわ。まあ間違いではないけど、正確にはアスカが人形・・・いや正確にはピグマリ
オみたいだからよ。」

「ピグマリオ?」

「そうピグマリオ。人に造られた、人に限りなく似ている人形のことよ。」

「ピグマリオ・・・・」

「もしもアスカがあんな人形みたいになってなければ、シンジくんは近づく事もできなか
ったしょうね。でも今のアスカはなんの反応もない、ただ寝ているだけ、まるで大きな人
形でしょう。だから犯したのよ、自分に害を及ばさないから、まさにピグマリオニスムね。」

「でもシンジくんがそんな・・・」

「そう、普通の人には理解できないでしょうね。私にも理解できないけど。」

「でも。」

「でもなに?あなたも人のこと言えないのよ。私達も普通じゃあないんだから・・・・」

「う・・く・ぅ・・せ・・ん・・・ぱい・・・・」




傍観者
華王



リィリィリィリィリィ・・・・・・・

リィリィリィリィリィ・・・・・・・

眠い・・・俺は寝ているところをさっきから鳴り続ける電話の鳴る音で起こされた。

朝まで本部で連チャンの徹夜の作業をしていて、やっと寝付いたのはほんの数時間前だっ

たのに。

まったく、ついてないな。

俺は眠い目を擦りながら、やれやれといった感じで枕元の受話器を取った。

「はい、青葉です。」

「青葉二尉ですか?」

「そうですが。」

「4時までに本部に出頭せよとの碇指令からの命令です。」

「使徒が現れたのか?」

使徒!?そんなまさか、赤木博士が使徒はもう来ないと言ってはずだ。

「いえ、違います。本日付けで作戦本部長が就任されますので、その紹介です。」

「そうか、ありがとう。」

「いえ、それでは失礼します。」

フゥ〜、思わず安堵の息が漏れる使徒でなくてよかったと。

もし使徒がまた来たら、今の状態では完全にアウトだからな。

俺は受話器を元に戻すと、顔を洗う為に洗面所へと向かった。

長い髪を置いてあるゴム縛るそして、蛇口から勢いよく水を出すと石鹸も付けずに手でご

しごしと洗う。

大体、洗い終わると今度は石鹸を付けて丁寧に汚れを落とす。

顔に付いた泡を全て洗い流しタオルで拭いていると鏡に映る時自分に目が行った。凄いな、

目のしたのクマがこんなにある。しかも無精ヒゲがこんなに伸びて、これでじゃあまるで

遭難者だな。

俺はそう苦笑すると、泡を付けて剃刀でヒゲを剃り始めた。

ヒゲを剃っていると、思わず鼻歌が漏れる。そう言えば最近ギターの練習してないな、こ

れじゃあ次のLIVEは散々だな。まあバンド仲間のみんなも忙しいからLIVEなんて

できないけど、でも集合までまだ時間があるから少しスタジオに行って練習でもしとくか。

そう決めると、持っていた剃刀を水で洗い、残っている泡をタオルで拭き取ると剃り残し

がないかどうか手で触って確認する。どうやら剃り残しは無いようだ。

確認し終わるとギターを片手に家を出て行った。



スタジオに行く途中、遅めの朝食を取ろうと思い飲食店が無いか探したが、どこも閉店し

ていて開いて店は一軒もなかった。

相次ぐ使徒の襲来で、殆どの民間人が疎開してしまったため商売が成り立たなくなったら

しい。確か一昨日まで開いていたはずのコンビニも、とうとう閉店してしまっていた。

まあ客がいないのだからしょうがないが。

やれやれといった感じでため息を吐くと、俺は担いでいたギターを置き閉店しているコン

ビニのシャッターの寄りかかるように力なく座りこんだ、そしてゆっくりと辺りを見渡し

た。

・ ・・・・・・静かだ、街全体が静かだった。いくら今居る場所が郊外だからといっても

あまりにも静かだった。猫の子一匹いない、まるでゴーストタウンみたいに。

これが俺達のしてきた結果なのだろうか?

一生懸命に使徒を倒して、人類を守ってきたのに。

確かにエヴァに乗って使徒を倒していたのはシンジくん達で、俺らはただサポートと見て

いただけかもしれない。

それでも、俺達は一生懸命にがんばったはずだ。

その事だけは胸を張って言える。・・・・・はずだった。

最近はその事に疑問が募る。

最後の使徒を倒した後、これで全てが終わりやっと平和になったと思った。サードインパ

クトももう起きる事もないし、人類が滅亡する事もないと。

でも今は全てが疑問に思う事ばかりだ、はたして自分のしてきたことが良かった事なのだ

ろうか?と。

確かに使徒は倒すべき敵だった俺にも解る、でもその以外の出来事が全て納得いかない事

ばかりだ。

使徒が来ていた間の事はまあ生き残るために仕方なかったと理解はできる、でも最近はど

うだろう?

日向は葛城さんと一緒になにかしている・・・それも非合法で。

この前その事を問いつめたら、自虐的に笑って「わかってるよ、でも俺にはこれくらいし

かできないから・・・・」と言っていた。

あいつはそんな風に笑う奴じゃなかったのに。

昔から葛城さんの事を好きだったことは薄々知ってはいたけど、そんな屈折した想いじゃ

なかったのに。

一時期は加持さんが現れ、半分諦めたみたいだったけど、今はどうなんだろう?

俺には葛城さんに、一方的に利用されているようにしか見えないけど、もちろんその代償

は与えれているみたいだが。

あいつがそれでもいいんだ、と言うのならそれ以上どうする事もできないが。

でもマヤちゃんの方はどうだろう?

赤木博士が帰ってきてから、なんかどうも怪しい。

博士を見る視線がなんか恋人を見るような目だし、それに博士の部屋で何日も出てこない

日が続いている。

昔から二人でなにかこそこそやっていたけど、最近はそれに拍車がかかった気がする。

なにしてるか突き止めたい気もするけど、たぶんなにもできないだろうな。

でも二人とも、いや俺以外の人々はなにをしてるのだろうか?

もう使徒は来ないというのに。

ホントならNERVはすぐにでも解体されていいはずなのに。

まあ、エヴァが残っているから維持管理を目的として、規模を大幅に縮小して研究機関と

して存続される可能性はあるかもしれないけど。

そういえば、今日付けで作戦本部長が就任すると言うのもかなり変だ。

もう使徒が来ないのなら作戦部なんて一番不要になる部署なのに、それが今まで不在だっ

た本部長の席が埋まるなんて明らかに変だ。

作戦本部長といえば司令・副司令に継ぐNREVのナンバー3だし。

それが今になって就任するなんて・・・・・

やっぱり、俺の知らない所で何かが起きようとしいるのだろうか?

それとも何かを起こそうとしているのか?

・ ・・・だめだ解らない。

今の俺にはあまりにも情報が少なすぎる、いくら情報処理のエキスパートでもこうも情報

が少なすぎては判断の下しようがない。

日向みたいに、非合法にでも無理に情報を集めなくてはいけないのだろうか?

まあその事は後でもいいだろう、今はとりあえず新しい作戦本部長に会うのが先決か。

おれはそう決めると立ち上がり、本部へと歩き始めた。



− 同時刻 新横須賀民港 −

「これが本日入港した、船のデーターです。」

「ドイツ船籍ノア号か、聞いたこと無い名前だな。」

「ええ、最近就航した船みたいですから。」

「そうか、確かにここまでペンキの匂いが漂ってきそうだな。」

「そうですね。」

「しかし・・・なんか妙だな。」

「どうかしましたか?」

「いやなに、天然ガスを積んでるにしては喫水線の位置が変じゃないか?」

「そうですか?積み荷を検査しましたが、特に問題になる物はありませんでしたが。」

「そうか、まあたぶん気のせいだろう。まあ新造船だから喫水が違うのかもしれんしな。」

「そうですよ。」

「そうだな、じゃあワシは先に返るぞ。じゃあな。」

「ええ、お疲れさまでした。・・・・・・・やっと行ったか。しかし水先案内人だけあっ
て感が鋭いな、見ただけでこのフネに異常を感じるなんてな。妙か・・・確かに妙なモノ
を積んでるからな、さすがに積み荷までは気が付かないだろうがな・・・・しかしノアか。
この舟の積み荷が本当に人類の救いとなるのだろうか?」




第3話 学校

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