「まったく、かったるうてやっとられんなあ。水泳やっとる女子がほんま羨ましいで、な

あそお思わへんかシンジ。」

トウジは一時間目から体育だったせいか、好きなバスケットボールなのにさっきから僕ら

に不満を漏らしてばかりいた。確かにこんな座っているだけ汗を掻くような陽気では、誰

も運動なんてする気にはなれない。

もちろんトウジの意見に、僕もケンスケも心の底から同意していた。

僕もできれば今すぐにでも、このままプールに飛び込みたいくらいだ。

いくら今の日本が常夏の国だと言っても今日はかなり熱い、近くを前線が通過したためフ

ェーン現象が起きて熱くなってるらしいけど。

ケンスケは何時も持ち歩いているビデオカメラのレンズを磨きながら、思いだしたように

トウジに切り出した。

「ところで、どうするんだ来週の文化発表会。」

「んな面倒くさいもん、女子にでもまかしときゃええがな。」

いかにも体育会系のトウジはさもめんどくさそに言うと、ドリブルしている生徒を眺めて

いた。

さっきはバスケなんてかったるいて言ったけど、本心はやりたいのかもしれない。

「そうはいかないさ。父兄の参観もありだろ、てことはつまり・・・」

「ん?なんや。もったいぶらずにさっさと言わんかい。」

「あいかわらずトウジはにぶいな。つまりミサトさんも見にくるってことだろ。」

「なるほど、そりゃきばらなあかんな。」

「そうだろう、だから何かしないとね。」

シンジはそんな二人のやりとりを見ていたが、ふっと視線が女子の居る方にプールに視線

が行った。

そして視線が、プールサイドにいる女子の中で少し浮いている転校生の所で止まった。

「転校生か、僕もつい最近まではそう呼ばれてたな。でも・・・・山岸さんてなんか昔会

った事があるような気がする、なんでなんだろう?僕は第二新東京市になんて行った事無

いから、会った事なんかあるはずないのに。でも・・・・山岸さんを見たときなんか懐か

しい感じした、そう幼なじみに会ったみたいな・・・」

シンジはそう呟きながら、転校生の事をそっと見つめていた。



転校生 D Part
華王


「嫌だな。」私はそう呟いた。

なんで転校初日から水泳の授業なんてあるのだろう、これなら水着なんて持って来なけれ

ばよかった。

私、みんなに比べて発育遅いし。たとえ同性でも初対面の人達の前で水着でいるのてなん

か恥ずかしい。

それになんか上手く周りに溶け込めないな、第二の時は左京さんが居てくれたからよかっ

たけど、ここだと浮いた存在なのが自分でもよく解る。

クラス委員長のヒカリさんは、転校生の私に気を使ってくれているのがわかるけど、でも

こうして一人でいるとなんか寂しい。

これならたとえ一人でも、一足早く外国に行かせて欲しかった。

第三新東京市に来るのもお父さんが言い出したことだったし、外国なら言葉もそう通じな

いしこれほど寂しい思いをしなくてすむのに・・・

私は寂しさ紛らわすために、フェンスに寄りかかってプールではしゃいでるみんなを眺め

た。そしてその中で特に騒がしいしい人がいた、確か名前は・・・惣流さんだったかな?

その惣流さんは一人で騒がしく、今も。

「見て!見て!みんな!ジャイアント・ストロング・エントリー!」

と言って足を広げながらスキューバーダイビングみたいにプールの中に勢いよく飛び込ん

で行った。

そんな様子を見ていて少し笑ってしまった、そしまた羨ましくなった。

惣流さんは私と違って可愛いし、性格も明るいし、頭も良くて、それに体付きも大人ぽい

し、まるで私とは正反対。

いや、正反対というより私の持っていないモノを全て持っている。

彼女と出会ってまだほんの数分しか経っていないのに、私は嫉妬でもしてるのだろうか?

・ ・・・・解らない。

でも、もしかしたらそうなのかもしれない。

自分の持っていないモノを持っている人に嫉妬する、それは人として当たり前の事なのだ

から。

でもそう思う自分が嫌になる。

私は、惣流さんから視線を外すとバスケットをしている男子の方を見てみようと思いそっ

ちの方を向いた。

そして私の事を見ていた、碇さんと目が合った。

え、私の事を見ていた?・・・でもそんな事あるはずがない。

たぶん、惣流さんの事でも見ていたんだと思う。

よく見ると、他の男子の半分近くが惣流さんの事を見ている。

そうよね、私の事なんか見ているはずないよ。もし見ていたとしてもだた転校生が珍しか

っただけ。

私はそう決めつけると、帽子を被りながらプールサイドへと歩いて行った。

でも・・・碇さんと昔会った事があるような気がする。



「確か図書室はココだったと思ったけど・・・・」

私はお昼が終わると、図書室を探して学校の中を彷徨っていた。

お昼はクラスの女子とグループでお弁当を食べた後、前の学校の事や私の作ってきたお弁

当の事で盛り上がっていたけど、私が図書室に行きたいと言って場所を聞いてみんなから

抜けてきたのだった。

ヒカリさんが「この学校は広くて校舎も多く、場所が解りにくいから案内します。」と言

ってくれたけど私は丁重に断って一人で歩き回っていた。

大勢の人と話をするのは嫌いではないけど、やっぱり疲れたから。

それに初対面の人達ばかりだと変に気を使ってなんか一人になりたかったし。

そして私はさっきから一人で学校の中を図書室を探して歩きまわっていた。

「なんや転校生。どないしたん?」

私はいきなり後ろから関西弁で声をかけられた、驚いて振り返るとジャージ姿の男の子が

少し不審そうに立っていた。

「なんや、転校生やないかどないしたん?」

そう言いながら私に近づいてきた。

「え・・・・・」

「なんで、こんな所の居るんや?」

「あの・・・・・」

彼を見て偏見かもしれないけど、少し怖くなった。学校の中で一人だけジャージでしかも

関西弁を話してると嫌でも怖く感じる。

もちろん私の周りに今まで関西弁を話す人がいなかったせいもあるけど。

だから知らず知らず体が強ばって、上手く返事ができなかった。

そんな私を見て気の毒に思ったのと、転校生が一人広い学校の中で迷子になってると判断

したみたいだった。

「なんや、迷子にでもなったんか?ワシが案内したろか?」

と、いいながら私に近づいてきた。

「いえ、その・・・図書館を探してたんですけど。」

私は少し怖かったけど、小さな声でそう答えた。

「なんや、図書室かいな。ならそこやそこ。」

そのジャージ姿の人は、窓の外の向こうの校舎を指さした。

そしてその指の先にはもう一棟校舎が建っていた。

「あれがですか?」

「そうや。ほんまはもっと小さかったらしいやけど、市内の図書館から疎開した本が多い

らしゅうてあない大きゅうなったんや。」

私は少し驚いていた、その校舎は大きく普通の図書館より二回りほど大きかった。

確かにあれだけ多ければ、小さな図書館の本ならかなり収納できるだろう。

「ほな、さいなら。」

「え、あ。ありがとうございました。」

ジャージを着た人は、私に図書館の場所を教えるとそのまま歩いて行ってしまった。

私は慌ててお礼を言ったけど、彼は「かまへん、かまへん。」と言ってそのまま行ってし

まった。

でも彼のおかげで図書室の場所が解ってよかった。でも名前はなんて言うだろう?あとキ

チンとお礼を言っておかないと。

私はそう考えながら、図書室のある校舎へと歩きだした。



私は図書室の入ると、とりあえず中を一回りしてみた。

確かにさっきの彼が言っていたように、本が沢山ある。でもいろいろな図書館から疎開し

てるせいか、重複している本もかなり多い。

私はとりあえず、珍しい本を数冊取ると横を向きながら歩いた。

そして、私は人にぶつかって本を落としてしまった。

「あっ、ごめんなさい!」

「あ、ごめん。大丈夫山岸さん?」

「はい、大丈夫ですけど。あの・・・あなたは・・・碇さん・・・」

私が、顔を上げるとそこには碇さんが立ってた。しかも私の名前を覚えてくれていたみた

いだ。なんか嬉しい。

「ああ、僕は平気だけど・・・。」

「よかった。」

私はそう言うと自然に笑みがもれた。

「ほんとにごめんなさい。私、ボーッとしてて。」

私は本を落とした事に気が付くと、本を拾うために屈んだ。

「手伝うよ。」

すると碇さんも、本を拾うのを手伝い始めた。

「あ、いいんです。私のせいですから。」

「ううん、一人だと大変そうだから。」

「ごめんなさい、本当に。」

「いいよ、そんなに謝らなくても。」

二人して謝ってばかりだけど、私達は少し赤くなりながら黙々と本を拾っていたやがて同

じ本に手をのばした2人の指が本の上で一瞬触れる。

「あっ。」

「ごめんなさい!」

二人して慌て手を引いた、もちろん2人ともさっきよりさらに顔が赤くなっている。

「いや、その・・・」

シンジも思いもしなかった展開のせいかかなり動転していた、がとりあえず話題を変える

事で少しでも落ち着こうとしたのか、とりあえず話かけた。

「山岸さん。これだけの本、一人で読むの?」

私の持っていた本は碇さんの指摘どおり8冊ほどあった。

「はい、本が好きなんです。だって・・・。」

「だって?」

「・・・・・・いえ、なんでもありません。」

私は、思わず本を読む理由を言いそうになったけど結局言わなかった。

もし話したら、碇さんに変に思われるだけだろうし。

「本当に、すみませんでした。」

私はもう一回謝りながら、本を抱えて立ち上がった。

そんな私をみて、碇さんは少しわらった。

「また、謝ってるよ。」

「す、すみません。なんだか私謝るの、癖みたいで。」

「そうなんだ。」

「そうみたいですね。」

「じゃあ、僕と同じだね。僕も謝ってばかりだから・・・・」

「え?」

「僕もいつも人に謝ってばかりいるから・・・・」

そして、暫くの間私たちは無言で見つめあっていた。



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