先史文明かはたまた本当の神が遺したかは定かではないが、生物兵器使徒が全て滅ぼされ、世界を闇から支配したゼーレも消え去り幾星霜…。

 って言うほど時間が経ったわけではないけれど。


 先のセカンドインパクトのこともあり、相変わらず世界は厳しい情勢だけれども。
 それでも世界は平和となった。
 補完の影響だろうか。
 ゲンドウも強面のパパとなり、ミサトもブツブツ言いながらフラフラすることをやめない大学生時代からの男とよりを戻したりする穏やかな日々。

 そして、シンジ達はじゃれ合う子犬みたいに学生生活を続ける。
 レイも、アスカも、また転校してきたマユミやマナ、疎開先から帰ってきたヒカリ達。
 本当に平和だ。


 しかし、平和で満たされていると、そこに不満を感じるのが人間という不完全な生物のサガだ。

 そう、

「…元司令は額がすりむけるほどに土下座してユイお姉ちゃんとよりを戻し、シンジ君と一緒に親子仲良く」

 なぜかいきなりの暗闇の中、稲光がきらめく!
 雷光に照らされ、一瞬浮かぶシルエット。金色の髪がきらめき、白衣が揺れる。

「そしてミサトもなんだかんだ言って加持君とよりを…!!」

 ゴロゴロゴロゴロ…!

 遅れてやって来た雷鳴と共に顔を上げる……1人の女性。

「あげく、あれだけ目を掛けてきた後輩は不潔不潔言いながら結婚退職しやがりましたわよ」

 ギリギリとなる音は恐らく、歯ぎしり。

「関係あんまりないけどシンジ君の状況聞くと、なんか超必殺技を出せそうよ。
 女の子に囲まれて、引っ張り回されて困った?
 キシャー」

 目元の黒子がセクシーな、少し 憑かれた 疲れた雰囲気の美女。
 だが知的な雰囲気を溢れんばかりに匂わせる熟れた美女という、万人が放ってはおかない美貌も今はなりを潜めていた。

 目ぇ血走ってるし。
 雷、鳴りまくってるし。
 いきなり風が吹いて白衣はためいてるし。
 しかもなんか高笑いしてるし!!

「そう、そうよ!復讐するは我に有りよ!
 この若き才媛、赤木リツコをないがしろにした世間様を!私のレイを奪ったシンジ君!
 今こそギャフンと言わせてあげるんだから〜〜〜!!!」





 そう、彼女が黙ってはいなかった。







突発的電波短編
またこんな話です

闇鍋な人達


書いた人:ZH








<翌日>

 昨夜と一転、吸い込まれそうな青空が広がる健康的な一日だというのに、なぜかシンジ達2−Aの件のメンツが旧ジオフロントに残る赤木リツコの実験室に集められていた。土曜の放課後だというのに、いきなり呼ぶだすとはとアスカはブーブー文句を言っている。
 なぜかこれまた面白そうだからと言う、野生の嗅覚で遊びに来たミサト、加持までいたが。

「なんでミサト達までいるのよ」
「いたら悪い?」
「おいおい、穏やかじゃないな。俺達がいたらマズイことするつもりなのか」
「悪いことはないけど」
「じゃあ、いいっしょ」

 ミサトは単純に面白がってるが、加持はどこか疑い深そうな目で自分を見ている。さすがスパイ。どっかの軍事大国みたいに、自分達がすることをよそもすると疑心暗鬼になって敵を作ることが仕事な職業だっただけある。
 ま、今は専業主夫だから大分刃が錆びついてるようだが。

 仕方ないわね、ブツブツ。

 内心面白くないがいてもいなくてもさほど展開にかわりはない。どうせ驚くのは最初だけで、すぐに一緒になって面白がるだろう。そう判断したリツコはごそごそとなにやら準備を始めた。カートに乗ったでっかい段ボールの梱包を解いていき、冷たく重量感を感じさせるごっつい機械を空気にさらす。

 堪ったもんじゃないのはその場に集められたシンジと5人娘ズ、三馬鹿の残りと笑うカエルである。面白いように顔色が悪くなり、口元とか首筋が引きつる引きつる。レトルトのカレーがミサトカレーだったってくらいに顔色が悪い。

「な、なによそれ?」

 先陣を切ったのはアスカだ。マナはあんまりリツコを知らないからか、猫じゃらしを前にした猫みたいに目を輝かせている。すっごく面白がってること明白である。
 レイは相変わらずじっと前だけを見ている。慣れの所為だろうが、リツコを信頼してるのだろう。
 ヒカリはマナと同じくリツコのことをあまり知らないが、それでも漂う剣呑な雰囲気に飲まれたのか顔を青くしてじっとリツコのすることを見ていた。帰りたがってること明白である。
 もっと冗談にならない顔色をしているのはシンジとマユミである。
 シンジは言わずもがな。
 マユミはヒカリと似たような状態だが、彼女はリツコを知っている分被害が大きいようだ。使徒に取り憑かれたとき、事後処理と称して、リツコから血を採られるとかしつこい検査をされたからか。しかも途中から好きな食べ物、好みの男性、趣味とかまで聞かれたらしいし。いったい何の検査だったのかという気がしないでもない。

 ともあれ、アスカの質問に眼鏡のレンズをキラリンと輝かせてリツコは答える。博士の面目ゲージアップ。

「コアに溶け込んだ人の精神、魂を引き戻す機械の試作機、その実験につき合って欲しいのよ」

「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」

 一人を除いて、シンジ達は驚愕の声を上げた。
 リツコの言ってることは酒に酔った戯言みたいにも聞こえるが、その実、非情に重要なことを伝えているのだから、ある意味無理はないだろう。
 ユイみたいに根性で無理矢理帰ってきた人と違い、出るに出られないでいる人達を助けることができるかも知れないのだから。つまり、アスカの母親とか、トウジ、ヒカリ達の母親もだ。そして2−Aに特に裏もなく転校してきたマユミの母親(父親?)とかも。


「なんのこと?」
「あ〜、あんたの両親は九州に2人とも住んでるんだったわよねぇ」

 よくわかってないのは戦自絡みの政治的工作で転校してきたマナくらいである。
 てっとりばやくアスカが説明し、マイガッとマナが頭を抱えることが済んだことを確認すると、リツコはフフッと薄く笑みを浮かべた。

「とどのつまりあなた達の想像に間違いはないわ」
「じゃあ、ママも、ママもユイおばさまみたいに!?」
「ええ、キョウコお姉ちゃ…ゲフゲフ。
 ……キョウコさんも帰ってくるわ」

 ちょっと気になることを言いかけられて精神衛生上悪いが、アスカは喜びに顔を輝かせる。

「まあ、まだ実験段階で、そこに至るまでの過程なんだけどね」
「過程…ですか?」

 おずおずとシンジは尋ねる。いや、尋ねるというより確認すると言った方が良いだろう。

「そう手っ取り早く言えば精神Aを精神Bと入れ替えるって機械なのよ」

 拳を握りしめてリツコは断言した。
 今時、今時、精神交換ネタ!?



 シンジが、アスカが、マナが、マユミが、加持が、ミサトが、トウジ達の顔がそのままの状態で固まる。レイ1人よくわかってないのか小首を傾げてるのが可愛かったりするが、それは置いといて。




「うわ、もうオチがわかっ…!?」

 ぷす

 呆れ返った調子でアスカが何か言おうとした瞬間、なぜかガラス製で一部に鉄の針が着いてたりする医療器具がアスカの首に突き刺さっていた。
 ちゅ〜と擬音が聞こえそうな勢いで緑色の蛍光色の液体がアスカの体内に入っていく。
 ぐるっとアスカの目が裏返る。

「はぅ」
「あら、アスカ急にお眠だなんて。変なところが子供なんだから♪」

 なぜかぐったりするアスカを小脇に抱えていそいそと謎の機械に座らせる金髪科学者さん。

 眠ったんじゃなく、眠らされたんだあんたにな!

 と声を大にして言い放ちたかったがアスカの二の舞は嫌だ。全員の意志が文字通り一つになった瞬間である。これだけ見事に一つになるなら、補完なんてする必要ないってくらいの一体感。
 だが、精神交換ネタを完了させるためには少なくとも後1人生贄がいるわけで。

「だ、れ、に、し、よ、う、か、な、?」

 嬉々として一人一人を数え歌を歌いながら順番に指さしていくリツコさん。こうなったら抵抗するとか、逃げようとか考えるだけ無駄だ。こうなったリツコに敵うわけがない。逃げられるはずがない。かえって逃げようと、立ち向かおうとした瞬間生贄確定。

 指刺された瞬間、各々の髪の毛が逆立ち、通り過ぎた瞬間ホッと脱力するという光景が繰り返され…。

「か・き・の・た・ね♪」

 そして黒髪の美少女、つまりはマユミの蒼白になった顔を指さしたところで歌は終わった。突然照明が消えた室内に、白塗りになったリツコの顔と手首から先だけが浮かぶ。怖すぎ。
 笑ってるのか泣いてるのかわからない顔してマユミは固まった。こんな時だからか脳裏に浮かぶ言葉は『八○墓村』、祟りじゃ〜。

(犯人は………じゃなくて。
 やばいわ!何がヤバイって、この話ラブコメじゃなくて壊れコメディじゃない!)

 作者がマユミ萌えと言っても無事では済むまい。
 危険を察知し、瞬間的にマユミの腰が浮くがそれより速くリツコはマユミの後ろに立っていた。

「い、いやぁ───!」
「こら、暴れるんじゃないわ!」
「多治見の旦那やめとーせ!」
「ぐっへっへ、ええ体しとるやないけ!
 って違うでしょ」
「いやいやいやぁ!助けて、誰か助けてぇ!シンジくぅ〜ん!」

 羽交い締めにされてマユミは大パニックに陥る。見た目に反してもの凄いリツコの膂力と、えへへと変な笑いを浮かべて大人しくしてるアスカの姿にマジ泣きである。
 必死になって手を伸ばし、こんな時こそ愛が必要とシンジに助けを求めるが…。

「…ごめんよ、僕は卑怯でずるくて弱虫で」
「すっごい説得力あるわよシンちゃん」
「ひどいや、ミサトさん」

 なんかミサトと掛け合い漫才していた。
 今、マユミの顔に浮かぶのは絶望とかそんな言葉じゃ追いつかない表情である。
 無理あるまいて。まさにウルトラ○マンが欲しいくらいの大ピンチだし。

「裏切ったのね!シンジ君も裏切ったのねぇ!」
「安心しなさい」
「安心できませ〜ん!」
「実験するのはあなただけじゃないから」


「「「「「「「ええっ?」」」」」」」









<結果>

 紫電が閃き、高笑い、奇声が響く。

 そして室内に明かりが戻ったとき。

 着衣が乱れ、髪の毛も乱れた五人娘とシンジが脱力して床に座り込んでいた。汚れることも気にならないのか、薄ぼんやりとした表情でお尻を床につけて。
 恐る恐る、でも興味だらけの目をして彼女達を見るミサト達。幸いというか、残念と言うべきかミサト、加持、トウジ達は難を逃れていた。彼らの視線が6人に集まる。
 最初に動いたのは意外にもマユミだった。
 頭を掻きながらすっくと立ち上がると、驚いたように目を地面に向ける。なにか勘が狂うのか、少し戸惑った顔をしていたが、やがてにんまりと普段の彼女らしくない笑みを浮かべた。違和感の主原因に気がついたのだろうか。
 むんずと自分の胸をしたから抱え上げ、マユミはもにもにと揉みしだく!

「おお、すげー!巨乳だわ!」

 その時、一同はマユミの中身が誰なのか悟った。
 口調、いきなりの立ち直り、脳天気な行動、間違いなくマナだ。

「私の体を玩ばないで下さい〜〜〜!」

 続いて行動に移ったのは、これまた意外なことにシンジだった。
 普段から中性的な顔と動作だからかあんまり違和感がない。文字通り女の子みたいな口調と物腰でマユミに飛びかかると、やめてやめてと肩を掴んで揺さぶる。
 これまた正体が簡単に分かる。

「マユミね」
「マユマユさん」
「僕の中身、山岸さんなんだ」
「あんまり違和感無いのはなんでなの?」

 残るマナ、ヒカリ、レイ、アスカが一斉にそう呟き、

「ん?」

 と揃った声を漏らして互いの顔を見つめた。

 マナが変だ。どう変かというと、やたら偉そう。
 彼女の特徴の一つである垂れ目が、微妙につり上がっている。
 しかもとにかく鉄火な物腰だ。

「もしかして、アスカ?」

 ややこしいが、腰の位置が普段と違ってバランスが取りにくいのかやたらモジモジした仕草でアスカがそう言った。それにマナが目を丸くして応える。

「ヒカリ?」
「うん、私よ。そっか、そうすると私の中には…」

 確かめるまでもなかった。
 ポーカーに最適な無表情、やたら冷静な光をたたえどこか射抜くような眼差しを持ったヒカリ。

「私、洞木さん」

 ヒカリの中身はレイだ。
 しかし、無表情で冷たい眼差しのヒカリって結構来るものがあるかもしれない。
 実際、いつもと違う雰囲気のヒカリの様子に、トウジはメロメロだ。ただ、ヒカリが好きなのかレイの精神が好きなのかわからないで頭抱えていたが。




「てことは…」

 そう呟きつつマナ(中身アスカ)は首をめぐらす。
 言わずもがなだが、レイの中身はシンジ。
 自分で自分を真っ赤な顔して抱きしめてクネクネしてる所なんか、明らかに少年、碇シンジである。彼もやっぱり男の子、欲求に至極正直だった。人目のあるときすることではないが。

「碇君、不潔だわ!」
「あ、その、ちがうよ!別に綾波の体に入ったんだから、せっかくだからとかそんなこと考えてたんじゃなくて、その!」
「いや〜〜〜〜!碇君、不潔不潔不潔よ〜〜〜!!!」
「私、汚れてるの?」
「そう言う意味じゃないわよ、ファースト」
「?」

 少し離れたところではシンジとマユミがもつれ合うようにして何か言い争っている。

「だから私の体で変な事しないで下さい〜〜〜!」
「え〜せっかくのマユミの体なのにぃ」
「なにがせっかくなのよ!」
「え〜い、霧島マナ、脱ぎま〜す」
「やめてやめてやめてぇ!」
「あ〜なんか複雑〜。半裸でシンジに抱きしめられてるのに素直に喜べないわ〜」






 もうなにがなんだか。









(どうすんのよ、これ?)

 ちょっと引きつった表情を浮かべて、ミサトはリツコの袖を引っ張った。放っておいたらどこまで行くかわかったもんじゃない。

「なに?」
「あんた、なんだってこんなことしたのよ」
「最初言ったとおりサルベージ…」
「建て前じゃなくて本音を聞いてるのよ」

 じっとリツコの目を見る。
 一瞬2人の視線が工作するが、すぐに肩をすくめるとリツコはタバコを取りだしてそれをくわえた。火を点け、ふぅっと煙を吐き出す。

「面白いからに決まってるじゃない」

 八つ当たりという部分は敢えて伏せた。

 どうせあんたも面白いと思ってるんでしょ。

 そして、そう言わんばかりにリツコはミサトを見た。てへっと舌を出してミサトも笑う。

「すっごい面白いわ」
「でしょ」


 加持が頭抱えてるが気にしない。シャッター切りまくってセミヌードのマユミ(中身マナ)やもみくちゃにされて半裸のレイ(中身シンジ)を激写してるケンスケは後で殺そう。

 また煙を吸い込み、吐き出す。
 夕日が眩しい。でも、だからこそ美しかった。ってさっきまで昼だったんじゃ。
 ともかくリツコはそう思う。
 久方ぶりに今日は良い夢を見て、ぐっすり眠れそうだ。

 ふと思い出しようにミサトはまたリツコの袖を引っ張る。


「で、オチは?」

 面白いがこのまま放置するのはいかな物か。
 シンジ(マユミ)がやたらなよなよしてることを先に書いたが、彼に向かってゴクリと唾を飲み込みつつアスカ達が迫っている。なにしろ今の彼はパーフェクト超人。存分に堪能をってなもんであるからして。

 ミサトであってもちょっと心配になる。
 そしてミサトの質問に対するリツコの返答は至極単純な物であった。

「ないわ。そんなの」


「おい」


「そんな女の子みたいな仕草でシンジが…、好き好き大好き〜!」
「わたし、アスカの体で碇君に…。ああ、私不潔」
「中身がマユミでも体はシンジだし!」
「碇君のマユマユさん(ポッ)」
「や〜みんなやめて〜!アスカさんも洞木さんもマナさんも綾波さんも〜!」


唐突に終わる





後書き

えっと、誕生日記念作だってーのに遅れるは話がアレだわすみませぬ。
とりとめがあまりにもないですけど、実はこれって一度没にしたネタのサルベージなんですわ。
ポーカーフェイスのヒカリと、やたら女の子っぽいシンジを出したかったというそれだけのネタの。
起承転結の結でなく、承と転から始まったわけです。
だからオチがない。

やはりまだ推敲の余地があったか。でもあんまり遅れるのも片手落ちですんで、失礼ながらこの状態で世に出すことにしました。



2002/01/12 記す