マユミの誕生日
                 Written by ベファナ


「ただいま。」 誰もいない部屋にマユミの声が響く。 マユミは部屋にはいると留守番電話の声を聞いた。 ピーッ 冷たい電子音の後に彼女の父親の声が聞こえる。 『あーもしもし、マユミ?。すまん今日も帰れそうにない。 せっかくの誕生日なのにな・・・ほんとにすまない。 今度一緒にどこかにでかけよう。それじゃ、時間がないからこれで。』 ピーッ・・ マユミはそれを聞くと無言で鞄を下に置くと 居間の絨毯の上に寝そべった。 (仕方がないわね。お父さんもいろいろ忙しいみたいだし。) 夕日に照らされたマユミの横顔は泣いている様にも見える。 ・ ・ プルルルル プルルルル 電話の音が部屋に鳴り響く。 マユミはけだるそうな動きで涙を拭いてから、それをとった。 「はい、山岸です。」 「あっ、山岸さん?。」 その電話の先から聞こえてきた声は彼女の唯一の友達と言っても過言ではない。 碇シンジの声であった。 「ど、どうしたの碇君。」 「い、いや。山岸さん。今暇かなぁって思って。」 「えっ?。」 シンジの様子がなにやらおかしい。 そうこう思っている最中に電話の主が変わった。 「ったくアンタはどうしてそうはっきりしないのかしら。ちょっとどいてなさい。」 アスカさんだ・・ 「あーもしもしマユミ。今からそっちいくから。」 「えっ?どうして?。」 問い返すマユミだがその声は向こうには届いてはいないようだった。 「どうしてそうやって直接言うんだよ。山岸さんにも予定があるかもしれないだろ。」 「うっさいわね。もとわといえばアンタがマユミに早くこのことを 言わなかったのが悪いんじゃない。」 「山岸さんにこのことを伝える役目はアスカだっただろ。僕はいろいろと準備で 忙しかったんだから。それくらいアスカがやってくれてもよかっただろ。」 「なんですってぇ!!!!。」 電話の向こうからいつもの痴話喧嘩の様子が聞き取れる。 マユミの予想ではこの次にくるのは・・ バシィーン!!! 軽快な音を鳴り響かせてのアスカの平手打ちだった。 「あのぉ・・。」 おそるおそるマユミが声をかける。 「どういうことですか?。」 「あー、ごめん。実はシンジの奴がマユミの誕生日を祝おうとか言っててね。 それで今からマユミの家に行こうって話になってるんだけど・・駄目かな?。」 「・・・・・・・・・・。」 「マユミ?。」 「ご、ごめんなさい・グスッ・わ、私嬉しくって・・。」 マユミの瞳から涙がこぼれる、今度のは悲しみの涙などではなかった。 「ありがとうございます。」 「じゃあ、今から行ってもいいのね。」 「はい!」 マユミが元気な声を出す。 「ところで・くるのは碇君とアスカさんだけ・・ですよね。」 「うーん・・よくわからないけど・・・。」 どういいながらアスカの声が受話器から遠ざかる。 「ちょっとシンジ!何人ぐらいで行くのよ。」 「うーーん。そうだねミサトさんがネルフの人たちにも声をかけるとか言ってたから ざっと150人ぐらいじゃないかな・・。」 ・ ・ マユミは密かに聞こえるシンジとアスカの声に受話器を落としそうになった。 (ひゃ150人・・ど、どうしよう・・このまま切った方がいいかしら・・) 思わず考え込むマユミ。 ・ ・ 「ちょっと、マユミ?聞いてる?シンジの話だと・・!?・・マユミ? ちょっと聞いてるの?・マユミ!・」 受話器の向こうからは相変わらずアスカの声が響く。 だが、その声はマユミの耳には届いてはいなかった。 ・ ・ ・ 「「「「・・「「「「おじゃましまぁーす。」」」・・」」」」 「ここが山岸さんの家ね・・。」 と、ヒカリ。 「思ったより広いんやな・・。」 と、トウジ。 「これがいずれ俺のものに・・・。」バコッ! ケンスケ沈黙。 「なぁに馬鹿なこと言ってるのよ。マユミのお父さんは世界でも有数の科学者なのよ これぐらい当たり前じゃない。」 各々好き勝手なことを言いながらマユミの家に入ってくる。 入り口ではそのあまりの人数の多さにマユミが固まっていた。 「ごめんね。山岸さん。」 「べ、別にいいわ・・・。」 シンジの言葉にマユミが正気を保っていることだけが確認された。 「さぁーて、今日は飲むわよ。」 「なに言ってるんだ、葛城。今日は山岸博士の娘さんの誕生日だろ。」 「わぁってるわよ。めでたい日だから飲むんじゃない。」 続いて葛城ミサト、加持リョウジの二人が入ってくる。 「人間ああはなりたくないわね。」 「何言ってるのよ。30代のくせに・・。」 「ミサト(怒)・・もう一回言ってみなさい。」 「せんぱーい・・。」 ミサトとリツコの喧嘩の様子をマヤが心配そうに見ている。 「ほー。ここが会場かね。」 「あぁ、問題ない。すべてシナリオのうちだ。」 ゲンドウと冬月が最後に家の中に入る頃にはマユミは肩で息をしていた。 ・ ・ 「「「「・・「「「「かんぱぁーい!。」」」・・」」」」 総勢150人にも及ぶ大新年会・・もとい、マユミの誕生パーティーが開始された。 が、開始早々収集がつかなくなっている。 ミサトは暴れ、リツコは切れ、ヒカリは目が据わり、 マヤは泣き、加持はぶっ飛んでいる。 「碇・・これ。ほんとに誕生パーティー・・なのか。」 その様子を見ていった冬月がふと漏らす。 「ふっ、何を言う。葛城二佐から聞いた話によるとこれは新年会だという話だぞ。」 酒を飲みながらそう漏らすゲンドウ。 「加持ぃ・飲めぇ!!!!。」 ミサトの元気な声がマユミの家には響き渡る。 ・ ・ ・ ・ そうして嵐の新年会・・いや・マユミの誕生パーティーはあっという間にすぎさっていった。 「ごめんね。山岸さん。ミサトさん間違えてみんなに新年会って言っちゃったみたいなんだ。」 皿洗いをしながらシンジがとなりで皿を拭いているマユミに言う。 ちなみに二人以外、正気を保っているものはいなかった。 「ふふふふ。」 !? 「山岸さん?。」 突然笑いだしたマユミの様子にシンジはとまどっている。 「でも、楽しかったぁ。私いつも一人で、こんな楽しいことしたの初めてだったから。」 「僕もだよ。」 そうして二人は顔を見合わせてから笑う。 「ありがと、碇君。」 チュッ! 「えっ!。」 不意にマユミの顔がシンジの頬に押しつけれる。 「や、山岸さん・・。」 見つめ合う二人、そしてシンジが何か続けようとした瞬間。 「酒〜!!!!!。」 寝ていたはずのミサトが起きあがり一回叫んだ後、再び眠りへとついた。 マユミとシンジはその様子を見て顔を見合わせると 再び大声を出して笑いだした。 マユミはこの瞬間がいつまでも続けばいいと思っていた。