「嫌なの。人の心を覗くのも覗かれるのも。嫌なの。嫌だと思う。自分も嫌なの」



山岸マユミ。彼女の心は闇に捕らわれていた・・・






岐路
ベファナ





「じゃあ、また明日ね。山岸さん。」



碇君・・



「さよなら・・・。」



そう言い残すと碇シンジは惣流・アスカ・ラングレーと共に第一中学の教室から姿を消した。







「(ふぅ・・疲れた・・。)」



マユミは学校が嫌いだった。多くの人と触れあわなければならないから

山岸マユミにとっての学校と言う場所は単なる苦痛でしかなかった。





マユミは教室に残り、未だ談笑をさけるクラスメートを避けるように

たった一人で足早に学校を後にした・・・





何の変哲もない道・・行き交う人はほとんど見えず。

しかし、マユミにとっては逆にそんな景色が心地よく感じられた。



「(他人は嫌い、私の心をのぞいてくるから。のぞくのも嫌、きっとまた裏切られるから・・)」



マユミの足取りは決して軽い物ではなかった。





マユミがうつむきながら交差点に差し掛かった。その時だった。

ニャーニャーとかすかな猫の鳴き声が聞こえてきた。

マユミが交差点の方に眼をやるとそこには一匹の猫がうずくまっているのが見えた。



車通りの少ない道とはいえ皆無ではない。

現に今も車がやってくるのが見える



時間がない

マユミは反射的に交差点の上に飛び出していった。



猫を助けるつもりで・・

車が突っ込んでくる・・・・



「(もうだめ)。」マユミがそう思ったとき

車は奇跡的にマユミの身体を避け、停車した。





そして、車の中から真剣な眼差しの無精ひげの男が現れた。

しかし、その瞳は明らかに怒りの色を見て取ることができた。



「何やってるんだ!。」



マユミの耳に男の声が突き刺さる。



「ご、ごめんなさい。」

マユミは反射的に謝る、今のは明らかに自分に責がある。



「車の前に急に飛び出すなんて何を考えてるんだ!。」



「ご、ごめんなさい・・ね・・猫が・・。」

恐る恐るそう言ってマユミは後ろから猫を出す。



猫を見た瞬間、男の瞳から怒りの色が消えて行く



「猫が・・交差点の上にいたもので・・。」



「・・すまなかった。どうやら悪いのは俺のようだ。怒鳴ったりして本当にすまなかった。」

マユミがそう言うと男はマユミに向かって頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。



マユミはその男の変わり様に驚いていた。



「い・・いえ。悪いのは私・・。」



「いや、君は猫を助けようとしたんだろ。だとしたら猫に気づかなかった俺の方が悪い。」

マユミの言葉を遮るように男が話す。



「紹介が遅れた・・俺の名は加持、加持リョウジだ。お詫びがしたい、一緒に喫茶店でも。」



「えっ?。」

とたんにとまどいの様子を見せるマユミ。

いきなり初対面の男の人に声を掛けられ、お茶に誘われるなんて思っても見なかった様子だ。



「わ・・私は・。」

マユミは必死に断ろうとした。



が、



次の瞬間、マユミは例の男と喫茶店のテーブルに向かい合うように座っていた。



「(断れなかった)。」

マユミは心の中で涙を流しながら自分の心の弱さを嘆いていた。



「君は山岸マユミさんだね。」

唐突に加持が話しかけてくる。



「えっ?・・何で私の名前を知っているんですか?・・まだ言ってないのに。」



「君の事は君のお父様から聞いて知ってるよ。」



「父から・・父を知っているんですか?。」



「もちろん、こう見えても俺はネルフの一員だからな。立派なお父様じゃないか。」



「あ・・あんな人。立派でも何でもありません。」



マユミは不思議な感覚を覚えていた。なぜ自分は初対面の人にこんなに饒舌になっているのだろう。

今までこんな事を人に言ったことはなかったのに。



「お父さんが嫌いなのかい?。」

加持が口を開く。



「はい・・。」



その様子に加持は何かを感じ取ったらしく話題を変える。



「君はシンジ君によく似ているな。」



「えっ?・・私が・碇君に?・・。そんな筈はありません。碇君はあんなに強いじゃないですか。

私みたいに弱くありません。」



マユミの言葉に加持は静かに首を横に振ると



「俺が言ってるのは”今”のシンジ君じゃない。”昔”のシンジ君だ。」



「昔の碇君?・・。」


「君は自分にもっと自信を持つべきなんだ。」



「私・・自信なんて・・。」



「君は自分でそう思いこんでいるだけだ、自分はだめな人間だ、自分には何もない。

シンジ君も昔はそうだった。でも彼は、守るものができてから変わった。」



「シンジ君はあのロボットに乗ってみんなを助けることができるけど私には何も

できることはありません。」



「勘違いしないでほしい。シンジ君はたまたまEVAに魅入られただけのこと、

君にも君にしかできない事がなにかあるはずだ。」



「そ・・そんな物、私には・。」(ありません・・)



「例えば・君はさっき猫を助けたじゃないか・・君がいなければあの猫は助からなかった。

君はもっと自分のしたことを誇っても良いんだよ。」



「・・・・。」

加持がそう言うとマユミはうつむいてしまった。



「ゆっくり、考えて答えを出すといい。誰も君に強要はしない。

自分で答えを探し出すんだ。」



そう言うと加持はゆっくりと立ち上がった。



「無理に誘ってすまなかった。でも、これだけは君に知っていてもらいたかったんだ。

心の整理ができてからここをでると良い。俺はこれから用があるんで先に行かせてもらうよ。」



加持はそう言い残すと喫茶店を出た。



喫茶店の外加持は空を見上げ、煙草を一本取りだし、くわえた



「山岸博士・・約束は守りました。後はあなたの娘さん次第です。」

そう吐き捨てるように言うと車でその場を去っていった。







数分後マユミも喫茶店から出てきた





「(私にできる、私だけにしかできないこと・・。)」



マユミはそれを考えながら、すっかり夕日に覆われた第三新東京市を歩いていった。



だが、表情こそ喫茶店に入る前と代わりはなかったが

その足取りは不思議と軽い物となっていた。





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